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前 最初のうちは、傷のせいか味わった恐怖のためか、世話をされるゆっくり達は総じて大人しかった。 だが何もしなくても餌がもらえてゆっくりできるという状況に、だんだん調子に乗り始めてきた。 「まりさのごはんはやくもってきてね!」 「せなかがかゆいよ! はやくかいてね!」 などと、注文すらつけるゆっくりまで現れ始めた。 無論、充分に反省し、大人しいゆっくりもいたにはいたが、それもほんのわずかだ。 世話をするゆっくりの側もストレスが溜まり始めていた。 怪我をしたのは本人のせいなのに、まるで王様のように振る舞うゆっくり達を、表面では気遣う振りをしながらも陰では忌々しく思っていた。 加えて動けるゆっくりの数が減ったことで、群れ全体の食糧事情も芳しくなかった。 今はどうにか頑張って、依然とほぼ変わらぬ量の食物を用意できていたが、それもいつまで続くかわからない。 何より、全く働かないゆっくりと、危険を冒して餌を取ってきた自分達とが、同じ量しか食べられないというのは大いに不満であった。 それでも暴行に走ったり餌を抜いたりしなかったのは、同じ群れの仲間であるという意識がまだあったからだ。 何より、群れを取り仕切るリーダーれいむが、何も言わずにあのまりさの世話をしているのだから。 リーダーれいむに限らず、大人ゆっくりや良識あるゆっくりは、あのふてぶてしいまりさが嫌いだったのだ。 そのまりさを何より嫌っていたはずのれいむが、進んで世話をしているのだから、他のゆっくりは何も言えないでいた。 だが、一番ストレスを溜めていたのは、そのリーダーれいむ本人だった。 「……たべものをもってきたよ」 薄暗い木のうろに、れいむは取ってきた花や虫を運び込む。一人で住むにはやや広いここが、まりさの巣だった。 「ゆ! どこであぶらうってたんだぜ! おそいぜ!」 嘲りと苛立ちをないまぜにした笑い声に、れいむは唇を引き結んだ。 れいむがまりさの世話役を買って出たのは、同情や親愛といった気持ちからでは無論ない。 自分以外では、このまりさの相手をするのは耐えられないと判断したからだ。 他のゆっくりであればそのうち堪忍袋の尾が切れ、まりさを殺害するであろうことは容易に想像できた。 それは連鎖的に、他の動けないゆっくりを排斥していく運動に繋がるだろう。 そうなれば最早群れは崩壊するしかない。次はいつ自分が殺されるのか、という空気が仲間内に蔓延するだろう。 その事態だけはどうしても避けなければならなかった。 そしてまりさは、れいむのそんな思いを誰よりも理解していた。 「ふん! こんなりょうじゃまりささまはまんぞくできないんだぜ! もっとたくさんもってくるんだぜ!」 れいむの持ってきた餌を一瞥するなり、そう罵倒する。まるで動けないとは思えぬほどの厚かましさだった。 「みんなとおなじりょうのごはんだよ! ゆっくりがまんしてね!」 「いやだね!」 即答だった。 「どうして……どうしてそんなこというの!? けがしたのはまりさのせいでしょおおおお!?」 「けがにんはいたわるものだぜ! いたわれないれいむはひどいやつなんだぜ!」 「ゆっくりはんせいしないとごはんぬきだよ!」 「はいはいはんせいしてるはんせいしてる。だからさっさとえさもってくるんだぜ!」 ギリギリとれいむは歯噛みした。 どうして、どうしてそんなことを、平気な顔して言えるのか。お前のせいで、どれだけ自分が、仲間が苦労していると思っているのか。 れいむはまりさの驕りを理解できなかったし、したいとも思わない。 ただ許せない。そう思った。 「まりざがにんげんのところにいがなげれば、みんなけがじなかったのに……!」 れいむは搾り出すように叫んだ。 「まりざがにんげんのごはんをどっだりなんかじなければ……!」 「それはちがうぜ! まりささまがにんげんのところからたべものをうばったから、みんなゆっくりできてたんだぜ?」 「それはまりざとありずとれいむが、みんなのぶんまでごはんたべちゃうからでしょおおおお!?」 せせら笑うまりさに、れいむは激昂した。 「まりざがっ、みんなにぢゃんとごはんわけていればっ、みんないっじょにゆっぐりでぎだのにぃぃぃぃ!!!」 怒りに震えるれいむの顔は真っ赤だった。 だがそれをも、まりさは冷たくあしらう。 「ふふん、まりささまはそんじょそこらのまりさとはちがうんだぜ。たくさんごはんをたべるのはとうぜんのけんりなんだぜ! それに、まりさがいなかったら、れいむはむれをまとめられなかったはずなんだぜ!」 「……!」 確かに、その通りだった。 元々、この群れはれいむだけがリーダーをしていた。 当時は今の半分程度の群れであり、それでもれいむは群れをまとめるのに四苦八苦していた。 どんな集団にも問題児というものは現れる。そして、普通の者よりも世話が焼ける存在だ。 そこに現れたのがまりさだった。 元々人間に飼われていたというまりさは、しかし類稀な身体能力で、狩りにおいてはすぐに群れ一番の実力者になった。 一度など、単独でれみりゃを追い払ったほどである。 まだ若いゆっくり達は、そんな強いまりさに憧れ、自然と付き従うようになった。 それにより群れは活気に満ち溢れ、また外部からゆっくりを受け入れる余裕もでき、現在の大きさまで成長した。 時折素行の悪いゆっくりも入ってくるようになったが、そういった連中はまりさが元締めとなって仕切っていた。 現在取り巻きとなっているありすとれいむも、外からやってきてまりさについたゆっくりであった。 いつしか群れは、まりさを中心とする、若者や無謀なゆっくり達と、れいむを中心とする、年長や大人しいゆっくり達に二極化された。 この二つのグループが、ちょうどよい緊張感を保つことで、群れは現在まで成立してきたのだ。 その状態でまりさがいなくなっては、群れに大きな混乱が起きるのは確実だった。 それゆえに、れいむは今までまりさに強く口出しできなかったのだ。 「ゆっへっへ、りかいしたか? りかいしたらゆっくりはやく、ついかのえさをもってくるんだぜ! このまりささまになぁ!」 「このっ……!」 我慢できず、詰め寄ろうとしたれいむだったが、まりさは僅かに身を捻って身体全体で嘲弄した。 「いいのか? ここでまりさがこえをあげれば、どうなるかわかってるんだぜ? うごけないまりさといかりくるったれいむと……どっちがひがいしゃなのか、みんなにはんていしてもらうんだぜ」 「ゆぐぅぅぅぅぅぅぅぅ……ッ!!」 れいむは口惜しそうに呻くが、やがて自分を取り戻し、まりさに背を向けた。 「ごはんはみんなとおなじだからね! それいじょうはふえないよ!」 そして持ってきた餌をまりさの前に投げ出すと、去っていく。 「……チッ」 忌々しげにまりさは舌打ちした。 あのれいむのごうじょうにはまったくうんざりさせられるぜ。目の前の餌を貪りながらまりさは思った。 いっそのこと、まりさとしてはれいむが襲いかかってきても良かったのだ。 あのとき、巣の外から他のゆっくりがこちらを窺っていることは知っていた。恐らくれいむが心配だったのだろう。 その目の前で、れいむが自分に襲い掛かり、それを返り討ちにしてやれば、立派に正当防衛が成り立つ。 そうなれば、最早群れのリーダーはまりさのみだ。自分の邪魔をするものはいない。 返り討ちにできるだけの自信もあった。 足を焼かれ、頬を焼かれた今の状態でも、この群れのどのゆっくりが相手でも、負けないと自負していた。 群れの仲間は誰一人信じていないだろうが──まりさは、以前、人間を殺したことがあった。 殺したのは自分を飼っていた人間だった。 その男は自分に厳しい食事制限を設け、その上激しい運動までさせた。まりさは男が大嫌いだった。 だがそうやって躾けられているうちに、自分の力が見る見る伸びていくのが分かった。 そしてもう充分強くなったと判断したところで、背後から襲い掛かった。 男は倒れ、そして起き上がらなかった。 まりさは人間に勝ったのだ。 足を焼かれた今となっては、人間に勝つことは難しいだろうが、しかし同族程度に負ける気はしない。 れいむがいなくなっても、自分には頂点に返り咲けるだけの力がある。まりさはそう信じていた。 れいむが限界に達し、自分に襲い掛かるまで、そう長くはないだろう。 そのときこそ、自分が真に群れの主となるときなのだ。 「むきゅう、れいむ、だいじょうぶ?」 「へいきだよ、きにしなくていいよ、ぱちゅりー……」 仲間の気遣いに笑みを返すれいむだったが、自分でもちゃんと笑えているか自信がなかった。 明け方の広場には、動けないゆっくり達を除いた全てのゆっくりが集まっていた。 「みんなよくきいてね。……れいむは、にんげんのところにいってごはんをとってこようとおもうの」 「「「!!!!!!」」」 思いがけない言葉に、皆揃って驚愕した。 「れいむ! あなたなにいってるかわかってるの!? ばかなの!? にんげんのところになんかいったらころされちゃうわよ! それにそんなことしたら、まりさとおなじになっちゃうよ!」 ありすがぴょんぴょん飛び跳ねて抗議した。 ありすは、優しいれいむがそんなことを言うとは信じられなかったのだ。 「わかってるよ」 れいむは静かに答えた。強張った表情は、れいむが悩み、その上で決断したことを示していた。 れいむとて、あの腐れ饅頭と同じ立場に落ちるのは嫌だ。だが、そうしなければもはやこの群れは立ち行かない。 昨日でとうとう備蓄食料もなくなり、日の出ているうちに帰ってこれる範囲にある餌はあらかた取りつくしてしまった。 また、餌を取りにいったまま戻ってこなかったゆっくりが、今までに三匹出ている。 群れの崩壊も時間の問題であった。その前に、れいむは最後の賭けに出ようとしているのだ。 「……むきゅっ、しょうがないわね」 ぱちゅりーが一歩、れいむに歩み寄った。 「ひとりじゃごはんははこべないでしょ。わたしもついていくわ」 「ぱ、ぱちゅりーだけいいかっこしようったってそうはいかないわよ! ありすもいっしょにいくんだからね!」 ありすも名乗りを上げ、そして次々と仲間達も自分も行くと言い出した。 れいむは微笑んだ。久しぶりの、本当の笑顔だった。 「みんな、ありがとう! でもぜんぶはつれていけないよ! もしれいむたちがもどらなかったとき、むれをまもるひとをのこさなきゃいけないよ」 れいむは、自分と共に行くゆっくりをふるい分けた。 子供や母親は残され、年老いた者、子育てを終えた者、子を作れない者のみの七匹の決死隊が結成された。 「だめだよぉ! にんげんのところにいったらしぬっていったのれいむでしょおぉお!!??」 一匹だけ、強く反発する子ゆっくりがいた。群れの若いゆっくりの中で一番優しい子まりさだった。 「だいじょうぶだよ。ちゃんとかえってくるよ。 でも、もしれいむがかえってこれなかったら……まりさがみんなをささえてあげてね」 れいむは子まりさに、一度だけ優しく頬ずりをすると、仲間を伴って出立した。 そして最初のまりさ達と同じ罠にかかって捕まった。 「またか……」 慧音は憂鬱な溜息を漏らした。一応ついてきた妹紅などは、寝転がって干し芋を齧っている。 「はぁしかし、慧音様、それが今回はどうも事情が違っていて」 「ふむ、まぁ、確かに」 柵の中に入れられた七匹のゆっくりは、奇妙なほど大人しかった。 半分べそをかいているものもいるが、どれも待ち受ける運命を受け入れてしまっているように見える。 「お前達、自分が何をやっているのかわかっているのか?」 とりあえず、慧音はそう声をかけてみた。すると先頭にいたれいむが顔を上げる。 「ゆ、おねーさんがいちばんえらいひと?」 「……まぁ、この場ではそうなるが」 慧音は戸惑った。普通、ゆっくりは何か聞かれたら反射的に答えを返す。それをしないどころか、逆に問うてくるとは。 「ならおねがいがあるよ。れいむはどうなってもいいから、どうかみんなをたすけてあげてね!」 「! れいむ゛ぅぅぅぅ! どうじでぞんなごどいうのぉぉぉぉぉ!?!?」 「むっぎゅううん! だめよ、じこぎせいはただゆっくりとかなしみをひろげるだげなのおおおお!!!」 れいむの言葉をきっかけに、他のゆっくり達は一斉にわんわん泣き始めた。 「……一体全体、どうしたことだ」 今度こそ、慧音は頭を抱えたくなった。 れいむだけがただ静かに慧音を見上げていた。慧音はふと、訊いてみた。 「お前達は、この前ここにきたまりさ共の知り合いか?」 「ゆ? じゃあまりさたちのあしをやいたのもおねーさんなの?」 「……ああ、そうだ」 答えて、慧音は反応を待った。だがれいむは「そう」と答えただけで、激昂したりはしなかった。 「復讐しにきたものとでも思っていたが」 「しかたないよ。あれはまりさがわるかったよ。でも、まりさ、あやまらなかったでしょ?」 「ああ、最後までふてぶてしいやつだった」 「だったられいむがかわりにあやまるよ。ごめんなさい」 「連中はどうしてる?」 「みんなおうちでゆっくりしてるよ。れいむたちがごはんをとってきて、わけてあげてるよ」 「あんな連中、よく生かしておけるな。正直、私達が殺しておいたほうが良かったか?」 「ゆぅっ……でも、まりさはくそまんじゅうだけど、でも、それでもれいむたちのなかまだよ!」 最後の一言は自らに言い聞かすようではあったが、言葉に出来る程度には、その気持ちは確かにあるのだろう。 「……うぅむ」 慧音は悩んだ。農夫達も、こんなゆっくりは初めて見るのか、戸惑っている。 「しかし、お前達、私達の野菜を盗みにきたんだろう? こんなに徒党を組んでまで」 そう言うと、れいむははっとなって慧音のほうに近づいた。 「そうだよ! でもちがうよ! れいむがみんなをむりやりつれてきたの! いちばんわるいのはれいむだから、みんなはゆっくりにがしてあげてね!」 「ちがいまずぅぅぅぅぅ!!! ありずがわるいんでずっ!! ありずがれいぶをそそのかじだんでず!!」 「むっぎゅ! ぐろまぐはこのぱちゅりーさまなのよ! れいぶなんで、わたしのあやつ、あやづりにんぎょ……うあ゛あ゛ああああん!!」 またも始まる泣き声の大合唱。 耳を塞ぎながら、いよいよ慧音は対処に困った。 どうにも、このゆっくり達はゆっくりらしからぬ仲間思いの心の持ち主であるらしい。 いくらゆっくりとは言え、そのような者たちを無下に扱うのも気が引けた。 しかしどんな事情があろうと、野菜を盗みに来た以上、みすみす見逃すわけにも行かぬ。先日のまりさの仲間となれば尚更だ。 思い悩む慧音の肩に、ぽんと妹紅が手を置いた。 「どうした」 「うーん、この場、私に預けてくんないかなと思って」 妹紅の手には、先日も使った焼印があった。 慧音は少し悩み、 「ふむ、分かった。任せる」 「さんきゅー」 笑って答え、妹紅は手の平に炎を点し、それで焼印を炙っていく。 「ゆ!」 事態をいち早く察知したれいむが、皆を守るように前に出た。 「やめてね! みんなをいじめないでね! やるなられいむだけにして!」 「だめだ」 にべもなく妹紅は答えた。 「『悪いことをしたやつは痛い目にあう』。あのまりさ達を見たんなら、それは分かるだろう。 お前達は、悪いことをやろうとした。しかも悪いと分かっていた上でだ。 まぁ結果的には未遂だし、同情の余地もあるけど……それでも、けじめは必要だ。分かるか?」 「ゆっ……」 れいむは黙りこくった。妹紅の言い分を理解してしまったからだろう。 他のゆっくり達も、どこか神妙な雰囲気で、動きを止めた。恐怖から身を震わせてはいたが。 「じゃあ焼くぞ」 「ぶぎっ……!」 焼印が押し付けられ、れいむは迸りそうになった悲鳴を飲み込んだ。 ここで無様に助けを乞えば、自分達は本当にあのまりさ達と同じ、薄汚い泥棒になってしまうと思った。 他のゆっくりも、そんなれいむを見て、一言も漏らさずに耐え切った。 「んー、結構根性あるな」 全てのゆっくりに焼印を押し終えた妹紅は、焼印を置くと、れいむの前で身を屈めた。 「ゆ゛っ!」 れいむは恐怖から身を竦ませた。 あのまりさ達は、焼印と一緒に足も焼かれていた。自分達も同じ目に遭うのだ。 だが妹紅が口にした言葉は、ゆっくり達にとって思いがけないものだった。 「森の西側に岩場があるのを知っているか?」 「……ゆ?」 「お前達の住んでるところから、ちょうど太陽の沈む方向にある岩場だ。知ってるか?」 何故そんなことを今聞いてくるのか、れいむにはさっぱり分からなかったが、とりあえず答えた。 「ゆ! それならしってるよ! れみりゃがすんでてあぶないところだよ!」 「ああ、そうらしいな。まぁ私は近寄ったことないんだけど。 で、これも人から聞いた話でしかないんだが、その岩場を抜けたところに、また別の薄暗い森があるんだとさ。 日は当たらんしじめじめしてるが、食べ物は豊富だし、人も滅多に入ってこないし、危険な野生動物もいないんだって。 そこでなら、わざわざ人里を襲わなくても暮らしていけるんじゃないか?」 「ゆぅ……それ、ほんと?」 訝しげにれいむは妹紅を見た。妹紅は肩を竦めてみせる。 「さてね、私も行ったことはないからな。けどいい年した樵の話だし、そこそこ信憑性はあるだろ。 ま、お前達の足でも、朝早くから行けばれみりゃが目覚める前に岩場は抜けられるんじゃないか?」 「むっきゅ、でもわたしたちにはきずついたなかまが……」 「そんなことは知らんよ」 妹紅はゆっくりと立ち上がり、細めた目でれいむ達を見下ろした。 「お前達の、誰が旅立ち、誰が残り、誰を連れて行くのか。そんなことは、私の知ったことじゃあない。お前達が選ぶことだ」 そこまで言って、妹紅はひらひらと手を振った。 「さぁさぁ、もう帰りな。足は焼かないでおいてやるから。 ただ、次にその焼印つけたゆっくりを見かけたら殺すってところは変わらないからな。 もう里には来るな。それだけ理解したら、帰れ」 ゆっくり達はしばらく迷っていたようであったが、やがて一匹また一匹と、森のほうに跳ねていった。 最後にリーダーれいむが振り返り、何かを言った。聞き取れなかったが、その口の動きは「ありがとう」と言っているように見えた。 「見事な裁きであった」 慧音が嬉しそうに頷いた。妹紅は途端に気恥ずかしくなって、顔を赤くする。 「裁きだなんて、そんなこと軽々言ってたらあの閻魔様に怒られちまうよ。私はただやりたいようにやっただけだからさ」 「では良い判断だった、ということにしておこう。あのゆっくり達ならば、もう人里に来ることはあるまい。 ……それにしても、全てのゆっくりがああだったら、もっと私達もゆっくりできるのだがなぁ」 「いやまったく」 妹紅だけでなく、農夫達も一様に頷いた。 多分、全員の脳裏には、先日のあの憎たらしいまりさ達が浮かんでいることだろう。 「…………」 「けーね?」 「ん、いや、なんでもない。──それでは、撤収!」 その翌日から、森の中でゆっくりの姿を見かけることはなかった。 あとがき 長い。 前回(ゆっくり実験室・十面鬼編)があまりにもあれだったので、真面目に書こうとした結果がこれだよ! あと焼き土下座とか言いながら、焼いてるの最初だけだし。土下座してないし。 続きも早いうちに仕上げようと思います。長くなりすぎない程度に。 ゲスなまりさもきれいなまりさも、どれも良いものであります。 磨けば磨くほどに光る素材。それがまりさなのです、きっと。 今までに書いたもの ゆっくり実験室? ゆっくり実験室・十面鬼編 続く このSSに感想を付ける
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れいむよ永久に安らかに これは虐待の話だ。 僕が、ゆっくりれいむを虐待した件についての記録だ。 途中で、そうは思えなくなるかもしれない。だが、それは早とちりだ。 どうか最後まで読んでほしい。 僕は、自分の快感のためにゆっくりを虐待する人間だ。 たとえそう見えなくても、そうなんだ。 * * * * * 「ゆ゛……? ゆ゛……? ゆ゛……?」 ゆっくりれいむは自分の目に映っているものが理解できなかった。 狭い部屋、冷たい床、明らかにゆっくりできない熱そうな道具を持っている、青い服の人。 「ここはどこ? ゆっくりおしえてね! ――ゆぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 返事の代わりに、れいむの頬に灼熱の焼印が押し付けられた。 * * * * * 以前、ゆっくりれいむは、お兄さんのところで暮らしていた。 れいむは加工所というところから出荷された冷蔵れいむで、お母さんや姉妹はいなかった。 でも、お兄さんがいた。おいしいごはんをくれて、暖かい部屋、ふわふわの寝床で飼ってくれた。 だから、とてもとてもゆっくりできた。最高のおうちだった。れいむはおにいさんが大好きだった。 ある日、お兄さんが、散歩に連れて行ってくれた。 高い空の下で、やわらかい草花の上で、れいむは元気に跳ねまわって夢中で遊んだ。 だが、知らないうちにお兄さんから離れすぎていた。気が付くと、知らない人に抱き上げられていた。 「ゆっくりはなしてね! れいむはおにいさんのれいむだよ!」 必死に頼んだが聞いてもらえなかった。泣きわめいて抵抗したが無駄な努力だった。 草原の向こうのベンチにお兄さんが座っているのが、袋に詰め込まれる直前に、見えた。 * * * * * そして今、れいむはどことも知れない、殺風景な部屋に放置されている。 周りには焼印の押されたゆっくりがたくさんいた。どの子もゆぐゆぐと泣いていた。 「ゆっくりしていってね!」懸命に声をかけると、似たような空元気の返事があった。 みんなさらわれた子だった。でもれいむは希望を抱いていた。 「だいじょうぶだよ! きっとたすかるよ! お兄さんがゆっくり来てくれるよ!」 最初の一週間は、れいむの生涯で二番目に不幸な週だった。 なぜなら、「棚」に押し込まれた週だったからだ。 焼印をつけられたあと、れいむたちは巨大な部屋に並ぶ棚に入れられた。 人間の靴箱のような狭い棚だ。一マスに一匹ずつ、何百何千ものゆっくりが詰め込まれた。まずい流動食が出た。 「ゆっくりだしてね!」「ここはせまいよ! おうちかえる!」「きっとしかえしするからね!」 みんなが文句を言った。だが、青い服の人間たちは誰ひとり返事をしてくれなかった。 二週目、れいむは自分たちの境遇を理解し始めた。 25センチ四方のマスの中。そこから出ることはできないのだ。 でもきっとお兄さんが助けに来てくれる。れいむはそう信じていた。 「だいじょうぶだよ! きっとたすかるよ! お兄さんがゆっくり来てくれるよ!」 三週目、れいむはうんざりしてきた。食事がまずいのだ。 食事は棚の前の樋を流れていくおからのような流動食だ。一応ほんのりした甘味はある。 だがひどく単純な味で、お兄さん手製のごはんにはとても及ばなかった。 でもきっとお兄さんが助けに来てくれる。れいむはそう信じていた。 「だいじょうぶ、きっとたすかるよ。お兄さんがゆっくり来てくれるよ」 四週目、れいむは体が痛くてたまらなかった。 ずっと体を動かしていないので、皮が堅くなってしまったのだ。 乾いた餅のようにほっぺたがコチコチになり、ひび割れた。 でもきっとお兄さんが助けに来てくれる。れいむはそう信じていた。 「まだだいじょうぶだよ。お兄さんがもうすぐ来てくれるよ」 五週目から、青い服の人間たちがたまにやってきて、スプレーをかけてくれるようになった。 頬の乾きはそれで抑えられた。けれどもコチコチの代わりに、ベタベタするようになってしまった。 でもきっとお兄さんが助けに来てくれる。れいむはそう願っていた。 「お兄さんが来てくれるよ。れいむがまんできるよ」 六週目、突然、隣のマスとの仕切り板がガシャンと開いた。 「ゆゆっ?」「ゆーっ、まりさ!?」 隣にもゆっくりがいた。初日に会ったきり見なかったまりさだった。人恋しさから、思わずすりすりした。 すると、どういうわけか床がぶるぶると震え始めた。 「ゆゆゆゆゆ?」れいむは戸惑いつつも発情してしまった。 「れれれれれいむぅぅ!」「まままままりさぁぁ!」「「すっきりー!!」」 れいむは生まれてはじめてのすっきりをしてしまった。 「ゆぅ、ごめんなさい、おにいさん。れいむ、すっきりしちゃった……」 そのあと、れいむの頭には茎が生え、小さな赤ちゃんたちが実った。 隣のマスとの間にはガシャンと再び仕切りができたが、声は聞こえた。 「れいむ、ゆっくりしたあかちゃんをうむんだぜ!」「ゆん! ゆっくりがんばるよ!」 赤ん坊の成長を心から楽しみにして、れいむは一週間を過ごした。 「ゆっくりうまれてね……!」 七週目、赤ん坊が生まれてすりすりを始めた途端、人間がやってきてガシャンとレバーを引いた。 床板が目の荒い網になり、赤ん坊はみんなボトボトと落ちて、どこかへ転がっていった。 「ゆっきゅりさせちぇぇぇ!」「おかーしゃん、たちゅけてぇぇぇ!」 「れいむのあかぢゃん! あがぢゃあぁぁぁん!!!」 その後、れいむは悲しみながらも、赤ちゃんが戻ってこないかと一縷の希望を抱き続けた。 「あかちゃんたち、きっとゆっくりもどってくるよ……!」 八週目が来ても、赤ん坊は戻ってこなかった。 「あかちゃんだぢ、どごなのぉぉぉ……!」れいむは悔し涙を流していた。 ガシャンと仕切り板が開いて、まりさが現れた。 「ゆゆっ?」「ゆーっ、まりさ!?」 床がぶるぶると震え始めた。「れれれれれいむぅぅ!」「まままままりさぁぁ!」二匹はすっきりした。 九週目、赤ん坊が生まれたが、二週間前と同じように生まれて十分で床下に落ちていった。 「ゆっきゅりさせちぇぇぇ!」「おかーしゃん、たちゅけてぇぇぇ!」 「れいむのあかぢゃんがぁぁぁぁぁぁ!!!」 楽天的なれいむの心の中にも、ドロドロした黒い不安が生まれ始めていた。 「お兄さん、ここはぜんぜんゆっくりできないよ!」 十週目、ガシャンと仕切りが開いて、まりさが現れた。 床がぶるぶる震え、二匹はすっきりした。 十一週目、赤ん坊が生まれたが、二週間前と同じように生まれて十分で床下に落ちていった。 「ゆっきゅりさせちぇぇぇ!」「おかーしゃん、たちゅけてぇぇぇ!」 「あ゛あ゛あ゛あ゛、またれいむのあかぢゃんがぁぁぁぁぁぁ!!!」 十二週目、ガシャンと仕切りが開いて、まりさが現れた。 床がぶるぶる震え、二匹はすっきりした。 十三週目、赤ん坊が生まれたが、二週間前と同じように生まれて十分で床下に落ちていった。 「ゆっきゅりさせちぇぇぇ!」「おかーしゃん、たちゅけてぇぇぇ!」 「ゆぎゃあ゛あ゛あ゛!! あがぢゃんどらないでねぇぇぇぇぇ!!!」 十四週目、ガシャンと仕切りが開いて、まりさが現れた。 床がぶるぶる震えたが、れいむは拒んだ。 「まりさ、だめだよ! すっきりしないでね!」 「れれれれれいむ、すっきりさせでねえええええ!」 二匹はすっきりした。 十五週目、赤ん坊が生まれたが、二週間前と同じように生まれて十分で床下に落ちていった。 「ゆっきゅりさせちぇぇぇ!」「おかーしゃん、たちゅけてぇぇぇ!」 「ぎあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛、まだまだあがぢゃんがあぁぁぁぁ!!!」 十六週目、 ガシャンと仕切りが開いて、まりさが現れた。 床がぶるぶる震えたが、れいむは厳しく拒んだ。 「まりさ、だめだよ! あかちゃんがとられちゃうから、すっきりしないでね!」 「れれれれれいむ、すっきりさせでねえええええ!」 二匹はすっきりした。 十七週目、赤ん坊が生まれたが、れいむは口を大きく開けて、なんとか全員落下前に受け止めた。 「ゆー」「ゆっくち!」「ゆっくちちぇっちぇっ」「ゆっきゅう!」 「ゆああ……! あかちゃんたち、ゆっくりだよ! ゆっくりしていってね……!」 初めて助けることのできた子供たちを、涙を流して祝福したが、十分後に人間が来て持ち去った。 連続六回にわたって愛しの赤ん坊を奪われたれいむは、かなりダメージを受けていた。 うつろな目で宙を眺めて、「ゆあ゛あ゛……ゆあ゛あ゛……」とうめき、時おり「ひぐっ」と嗚咽した。 するとそこへ人間がやってきて、れいむをつついて我に返らせ、噛んで含めるように言った。 「子供を守ろうとしても無駄だ。ゆっくりの子供はすべてここの商品として出荷されるんだ」 「ゆぐっ……あかぢゃん、かえじでね……」 「おまえは死ぬまでそこで赤ん坊を産み続けるんだ」 すでに四ヵ月、百二十日も狭い棚に閉じ込められていた。 死ぬまで、という言葉がリアルな重みを持ってずっしりとのしかかってきた。 「ゆがああああああああ!!」 れいむは狂的な怒りにかられて、人間に飛び掛ろうとした。 ガシャン、と棚の枠にさえぎられて跳ね返されただけだった。 「ゆがああああああ!! ゆがああああああああああ!!!」 ガシャンガシャンという音が何度も響いた。人間は去っていった。 十八週目、ガシャンと仕切りが開いて、まりさが現れた。 十九週目、赤ん坊が生まれた。 れいむは力なく声をかけて祝福したが、十分後には落下して転がっていった。 れいむの心の中のドロドロは、真っ黒に固まりつつあった。 「お兄さん、お兄さん、ここはいやだよ、はやくたすけてよ……」 二十週目、ガシャンと仕切りが開いて、まりさが現れた。 二十一週目、赤ん坊が生まれ、十分後には落下して転がっていった。 「お兄さん、お兄さん! はやくきて、れいむつらいよ!」 二十二週目、ガシャンと仕切りが開いて、まりさが現れた。 二十三週目、赤ん坊が生まれ、十分後には落下して転がっていった。 「お兄ざん、お兄ざんっ! れいむいやだよ! あかぢゃんかわいそうだよ!」 二十四週目、ガシャンと仕切りが開いて、まりさが現れた。 二十五週目、赤ん坊が生まれ、十分後には落下して転がっていった。 「お兄ざんお兄ざんお兄ざんはやくはやぐもうこんなとごろいやいやいや」 二十六週目、ガシャンと仕切りが開いて、まりさが現れた。 二十七週目、赤ん坊が生まれ、十分後には落下して転がっていった。 「お兄ざぁぁんお兄ざぁぁぁんたずげでねぇぇれいぶづらいよぉぉぉ!」 二十八週目、ガシャンと仕切りが開いて、まりさが現れた。 二十九週目、赤ん坊が生まれ、十分後には落下して転がっていった。 「お兄ざぁぁぁぁぁぁぁん! れっれいっぶっも゛っも゛ヴっ、こわっこわ゛れぢゃぅぅぅぅ!」 三十週目、ガシャンと仕切りが開いて、まりさが現れた。 三十一週目、赤ん坊が生まれ、十分後には落下して転がっていった。 しかし、一匹だけが網目に噛みついて踏ん張った。 「ゆきゅっ!」「あかちゃん……!」 れいむの磨耗しかかっていた理性が蘇った。 母のしぶとさで、ビー玉ほどの赤ん坊を背後にかばい、自分と壁との間に隠した。 三十二週目、ガシャンと仕切りが開いて、まりさが現れた。 「まりさ……すっきりしていいよ」 「ゆっ? いいの、れいむ?」 連日れいむの悲鳴を聞かされているまりさも憔悴していたが、れいむの後ろの小さな影を見て、ハッと顔色を変えた。 「れいむ……!」 「まりさ……れいむはこのこのために、ほかのこをすてるよ!」 れいむは涙をこらえて言った。 「おねがい、ゆるしてね……!」 「ゆ、わかったよ、れいむ!」 まりさもれいむの悲壮な決意がわかったのか、強くうなずいた。 「れれれれれいむぅぅ!」「まままままりさぁぁ!」「「すっきりー!!」」 二匹はすっきりした。 三十三週目、赤ん坊が生まれ、十分後には落下して転がっていった。 「れいむのあかぢゃん! あがぢゃあぁぁぁん!!!」 れいむは叫んだが、それは演技だった。 背中の後ろにしっかりと、ピンポン玉ほどの赤ちゃんれいむをかばっていた。 「おかーしゃん、ゆっくち!」 「このこのためなら、れいむはおにになるよ……!」 野生動物のような警戒心で青い服の人間の目を交わしつつ、ひそかに流動食を食べさせて、れいむは子供を育てた。 三十四週目、ガシャンと仕切りが開いて、まりさが現れた。 三十五週目、赤ん坊が生まれ、十分後には落下して転がっていった。 「れいむのあかぢゃん! あがぢゃあぁぁぁん!!!」 その陰で、テニスボールほどの子ゆっくりが涙していた。 「いもうちょたち、てんごくでゆっくちちてね……!」 三十六週目、ガシャンと仕切りが開いて、まりさが現れた。 三十七週目、赤ん坊が生まれ、十分後には落下して転がっていった。 「れいむのあかぢゃん! あがぢゃあぁぁぁん!!!」 その陰で、りんごほどの子ゆっくりが涙していた。 「いもうとたち、てんごくでゆっくりちてね……!」 三十八週目、ガシャンと仕切りが開いて、まりさが現れた。 三十九週目、赤ん坊が生まれ、十分後には落下して転がっていった。 「れいむのあかぢゃん! あがぢゃあぁぁぁん!!!」 その陰では、グレープフルーツ大になった子ゆっくりが苦しんでいた。 「おかーさん……れいむ、そろそろせまいよ!」 「ゆっ!」 「ゆっくりたすけてね!」 れいむはヒヤリとしたものを感じた。いや、無視しようとしていたが、実はもう二週間も前から感じていたのだ。 このままではいずれ、子ゆっくりも、ゆっくりできなくなってしまうと。 「ゆ、ゆっくりかんがえるよ!」 そう答えつつ、心の中では藁にもすがる思いで願っていた。 (おにーさんおにーさんたすけて! いまならまにあうよ、いましかないよ! れいむのこどもをたすけてね……!!!) 四十週目、ガシャンと仕切りが開いてまりさが現れた拍子に、子れいむがコロンとれいむの前に出た。 まさにその瞬間、棚の前を青い服の人間が通りがかった。 「あれっ、子供いるじゃないか!」 れいむとまりさは、頭が真っ白になった。おたおたしているうちに人間が手を伸ばして子れいむを掴み取った。 「ゆっ、おかあさーん! ゆっくりたすけてねぇぇぇ!!」 「れいむぅぅぅ!!」 「うわぁ、でっかい! これだともう六……七週齢ぐらいか? よくもまあ育てたなあ」 人間はいったん子れいむを床に置き、母れいむをズボッとつかみ出して、奥を調べた。 「おっ、髪を敷いて巣を……すごいなあ、これは報告しなきゃ」 「おかーさん、おかーさぁぁぁん!!!」 「れいむ、にげてね! ゆっくりにげてね!」 子れいむはぴょんぴょんと跳びはねて泣きわめいた。母れいむは必死に子供だけで逃がそうとした。 人間は巣を取り除いてから、そんな母れいむを再び押し込め、ガッチリと枠を閉めた。 そして子れいむを取り上げ、ギュッと片手で握りしめた。 「ゆぶっ? ゆゆっくりやめっやっやべっ、おがぁしゃっゆブッ」 短い抵抗のあと、子ゆっくりはあっさりと潰された。人間はそれを隅の排水溝に捨てた。 れいむの頭の中で、最後の最後に子供が漏らした、おかあさん、という言葉がエコーしていた。 どういうわけか床がぶるぶると震え始めた。 「れれれれれいむぅぅ!」 れいむはデク人形のように無表情のまま、まりさに犯された。 四十一週目、赤ん坊が生まれ、十分後には落下して転がっていった。 れいむは子守唄ひとつ歌わず、それをぼんやりと見つめていた。 それから、さらに十週間、れいむは同じ毎日を過ごした。 まりさに犯され、子供を生み、またまりさに犯され、子供を生んだ。 五十一週目、れいむはまた子供を生んだ。十分後には落下して転がっていった。六匹の赤ん坊がいなくなった。 れいむは二十二回出産して、百五十七匹の赤ん坊を産み、百五十六匹を奪われ、一匹を殺された。 れいむはもう、お兄さんの名を呼んでいなかった。 いつから呼んでいないのかわからなかった。 なぜ呼んでいたのかもわからなかった。 今ではただひとつの言葉しか覚えていなかった。 「おまえは死ぬまでそこで赤ん坊を産み続けるんだ」 「おまえは死ぬまでそこで赤ん坊を産み続けるんだ」 「おまえは死ぬまでそこで赤ん坊を産み続けるんだ」 五十二週目、ガシャンと仕切りが開いて、まりさが現れた。 五十三週目、棚の枠を開けて、人間が手を差し込んできた。 れいむのぼやけて意味をなさない視覚に、顔が映った。 「れいむ、れいむか!? ああ、そのリボンの模様はれいむだな! 俺を覚えてるか?」 れいむは朦朧と眺めていた。そんな妄想はもう何千回も経験していた。 「わからないのか? もうダメになっちゃったのか? かわいそうに……」 ずるっと引き出されて抱かれた。頭の上の茎がゆさっと揺れた。 おにいさん、ゆっくりありがとうね、とれいむは思った。こういう夢は、たとえ夢でも、気が晴れるから好きだった。 「ええ、こいつです。間違いないんで……はい、はい。いえ、はい」 青い服の人間と話し合ったお兄さんが、れいむを運んでいく。 あれ、きょうのゆめはすごいよ。 おそとのけしきまでみえているよ。 ゆっくりできそうなけしきだよ……。 れいむはどんよりとした無表情で、加工所から家までの道のりを眺め続けた。 その目が、次第に明るくなってきた。 「さあ、うちだぞ」 ドアをくぐると、匂いがした。 人間の男の人の匂いだ。 なつかしい匂いだった。 それはまぎれもなく、現実の匂いだった。 れいむの周りを幾重にも覆っていたぼんやりとした膜が、急速に薄れていった。 「ゆ……ゆ……!?」 「おっ、れいむ!? 治ってきたのか?」 「ゆっ、ゆっ、ゆゆゆ……!」 ぽすっ、と座布団の上に置かれた。 そのふかふかの感触。 その甘い自分の匂い。 そこから見える室内。 すべてが、記憶のままだった。 「ゆっ! ……ゆ゛っっ!!! ……ゆ゛ぅっ!!!!!」 れいむはわなわな震えだした。目が見開かれ、大粒の涙がボロボロとこぼれだした。 錆付いてボロボロに朽ちていたはずの心が、再び動き出した。 「こ こ は……れい むの……おうち……」 「れいむ」 ハッと見上げた。カチャカチャと皿を出しながら、お兄さんがウインクしていた。 「ゆっくりしていってね」 「おにいざあああああああああああああん!!!!」 堰を切ったように感情があふれ出した。れいむはびょんびょんと激しくジャンプして、お兄さんに抱きつこうとした。 だが、それはかなわなかった。 足が萎えきっていて、跳ねるどころか這うこともままならなかったのと、近寄ったお兄さんに押さえられたからだ。 「無理しちゃだめだ。それに、赤ちゃんが落ちちゃうだろ」 「ゆっ!? あかちゃん?」 「そうだ。おまえ、あかちゃん大事だろう?」 れいむは愕然として頭上を見上げた。そこに、小さな子供の生った茎があった。 「ゆゆーっ!? れいむにあかちゃんがいるよ?」 「おいおい、気づいてなかったのか?」 笑ったお兄さんが、ふと顔を引き締めた。 「そうか……それほどつらかったんだな」 そう言って、皿に乗せたものをれいむの前に差し出した。 「食べな」 それはいちごを乗せた、白いショートケーキだった。 ガンッ! とれいむの嗅覚を何かが直撃した。 「!?」 戸惑って、目をぱちぱちさせながら、れいむはそれを確かめようとした。 それは甘味の、本物のスイーツの匂いだった。 おそるおそる舌を伸ばして、クリームをすくいとった。 とろぉり……と。 乳脂肪たっぷりの豊かな甘味が舌に乗り、れいむの口内に染み渡り、魂の底まで溶かしていった。 「ゆああああぁ……」 れいむは陶然となった。目が泳ぎ、頬がとろけた。 忘れきっていた、砂糖の香り、味、栄養。それらがれいむから、とうとうあの言葉を引き出した。 「ゆっくり……!」 「お、出たな」 「ゆっくり! ゆっくり、ゆっくり! ゆっくりー! ゆっくりぃぃぃぃぃ!!!」 叫べば叫ぶほど、乾ききっていた心が満たされていくようだった。 凄まじい勢いで本能がこみ上げ、れいむは行儀も何もかも忘れてケーキをむさぼり食った。 お兄さんは追加で三つものケーキを出してくれた。それらもすべて食べた。 食べている最中に、再び滝のように涙が流れ出し、とまらなくなった。 蘇った心に、あとからあとから温かい思いが湧き出していた。 「はっふはっふ! めっちゃ! うめっ! ゆまっ! ゆあい! ゆがっ! ゆあああ! ゆあぁーん! あああああん! あああああんあーんあーんあーああん!」 れいむは食べながら泣き出した。大声で心の限り泣いた。 泣きながらお兄さんに這いよって、ぐりぐりぐりぐりと頬を押し付けた。 「おかえり、れいむ」 あふれる感謝の思いをぶつけるため、れいむはいつまでも泣き叫び続けた。 翌日、赤ん坊が生まれ、十分後も二十分後も、れいむとゆっくりした。 声をかけあい、すりすりし、餌を与え、れいむは親身になって世話をした。 森にいるどんな親にも負けないほど立派な、親ぶりだった。 赤ん坊たちは、「おかーしゃん、すりすりしちゅぎだよ!」と文句を言ったが、れいむはやめなかった。 やめるつもりはなかった。自分の身がすり切れても、子育てに全力を尽くすつもりだった。 百五十七匹分のゆっくりを、与えてやらなければならないのだから。 二ヵ月後、ゆっくりれいむは、お兄さんに頼んで、家族ともども山へ連れていってもらった。 そよ風の吹く緑深い沢で、れいむは箱から出してもらい、草の上に座った。 「おかーしゃん……」 「ゆっくちできそうなところだよ……」 八匹の子供たちが、れいむに寄り添っていった。するとれいむがたしなめた。 「ちがうよ、れいむ、まりさ! ゆっくちじゃなくて、『ゆっくり』だよ!」 「ゆ!」 「わかったよ、ゆっくり!」 「ゆっくりー!」 ぴょん、ぽよん、と子供たちがはねた。 もうみんなトマトほどになり、立派に野山で生きていけそうだった。 それを見届けると、れいむはお兄さんを振り返って言った。 「おにいさん、いままでありがとうね」 「れいむ……」 「れいむはしあわせだったよ! ゆっくりかんしゃしているよ!」 「おかーさぁん……」 子供たちが並んで、ほろほろと涙をこぼした。そんな一座に、れいむはキッとした顔で言った。 「さあ、ゆっくりひとりだちしてね! のやまでゆっくりくらすんだよ!」 「おかーさん!」 「おかーさんはむかし、ゆっくりできなかったよ。こどもたちは、かこうじょのおとーさんや、おかーさんのぶんまでゆっくりしてね! それがおかーさんのねがいだよ!」 うるうると瞳を潤ませた子供たちが、サッと背を向けて駆け出した。 「ゆっくり、いくよ!」 「ゆっくりがんばるね!」 「おかーしゃん、ありがとう!」 「ゆっくり、ゆっくりー!」 ぴょんぴょんと跳ねた子供たちが、次々に草むらに飛び込んだ。 ザザザザザ! と風が渡ったあとには、もう何の痕跡もなかった。 子供たちと同じように涙しながら見つめていたれいむが、振り向いた。 「ゆう……これで、れいむのしごとはぜんぶおわったよ」 「本当によかったのか?」 「ゆっ。お兄さんひとりにまかせるには、おおすぎたからね!」 うなずいたれいむの髪には、あろうことか、白髪が混じっていた。 この二ヵ月、れいむはお兄さんのおかげで心底ゆっくりした。だが、その前の一年が悪かった。 身も心もボロボロにされた加工所の生活が、もともと長くもないゆっくりの寿命を、削り尽くしたのだった。 柔らかな草の上で、大好きなお兄さんに見守られながら、れいむは早くもうっすらとかすれ始めた声で、つぶやく。 「お兄さん、ありがとうね。ほんとにほんとにありがとうね! れいむ、すごくゆっくりできたよ!」 「そうか」 「だいすきだったよ、おにいさん……!」 そう言って、れいむは目を閉じた。このままこの場で、草木と風とともに、ゆっくりと消えていくつもりだった。 お兄さんが、れいむの正面に来て、何か言おうとした。 ……ゆ? れいむは目を開けて聞き返そうとした。 だが、すでにまぶたが開かなかった。 もう、お兄さん。さいごのことばなのに、ゆっくりしすぎだよ……。 ほんのちょっとの悔しさを覚えながら、れいむは死んだ。 * * * * * 加工所の記録などによれば、うちのれいむは、おおよそこんな一生を過ごしたらしい。 最後の二ヵ月は、他のどんなゆっくりよりも飼い主の僕になつき、感謝しながら暮らしていた。 これのどこが虐待だ、とおっしゃる方もいるかもしれない。 だが、これを聞いたらどう思われるだろう? ――つまり、誘拐を装ってれいむを加工所員に引き渡したのは、他ならぬ僕だという事実を。 僕はれいむの笑顔が見たかった。 最高の――比類なき最上の――感動が見たかった。 そのために、あの最低最悪の場所へ、一年にわたってれいむを放り込んだのだ。 そして、生還したれいむの心からの感謝を、体いっぱい受け止めたのだ。 人畜無害な愛護家のような顔で。 僕はすでに、加工所から冷蔵まりさを買ってきてある。 次の感動を得るためだ。一年越しの作戦。薄汚れたアニバーサリープレゼント。 どうだろう。 やってみたいと思わないか? アイアンマン これまでに書いた話 ゆっくりいじめ系1084 ゆっくり実験01 (まりさ解体) ゆっくりいじめ系1093 ゆっくりエレエレしてね! ゆっくりいじめ系1098 アストロン対策 ゆっくりいじめ系1235 少年 二人のお兄さんと干しゆっくり.txt このSSに感想を付ける
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・色々と中二病的です。 ・俺設定いっぱいあり。 ・天然あきの他の作品見ないとわからない展開あり。 天然あき 「むっきゅうううううん!! やじゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛たじゅげでえ゛え゛え゛え゛え゛!!?」 「うーうるさい」 「むぎゅびぃ!!?」 泣き叫ぶぱちゅりーに拳を叩き込むふらん。 「ふらんそれが最後の頼んでおいた奴かい?」 ふらんに話し掛けてくる女性にふらんはコクンと頷く。 彼女達の周囲にはゆっくりの屍々累々となっておりゆっくりにとっての地獄絵図だった。 冬に成り立てのこの時期、越冬できないと理解したゆっくりの群れが短い余生を更に短くする為に人の生息域へとやって来る事が全国各地で発生している。これはそんな有り触れた中の一つだ。 ドスが野菜を強奪に来た時に菓子を与えて行動を止めてその隙にすないぱーうどんげが餡硬化剤を撃ち込んで行動不能にした後一方的な駆除が開始した。 それが現在のこの状況に至る顛末だ。 「む、むぎゅ…どうして…」 ふらんに掴まれているぱちゅりーがこの状況に理解出来ず呟く。 それは女性の耳に届いたらしく、女性は答えた。 「人間はね、君達よりもドスについて知り尽くしてるんだ。 キノコがないとドススパークが撃てないとかね」 「そ、それくらいぱちぇだって知ってるわ!」 女性の出来の悪い教え子を諭す教師のような表情をぱちゅりーは屈辱に感じ取ったらしく言い返す。 しかし女性はそれに苦笑し言った。 「そうかい、なら君達は人間の事をどれだけ知ってんだい?」 「むきゅ?」 女性の言葉にきょとんとするぱちゅりー。 「大方野菜の生えてくるゆっくりぷれいすを独占するゆっくり出来ない奴としか思ってなかったんだろ?」 「むきゅ…」 まさに図星であったぱちゅりーは何も言い返せない。 「何で人間がそんな場所を独占出来るか考えた事も無かったんだろうね」 女性はそう言いながら笑う。 「むきゅ!それはにんげんがひきょうなまねをして…!!」 ぱちゅりーはそれを侮蔑の態度と認識し、腹が立ち言い返そうと叫ぶ。 だが、 「そう卑怯だ。人間が卑怯なまねをして不当に奪い取って独占したからだ」 女性がぱちゅりーの言おうとした事を認めたのだ。 それを聞いた途端ぱちゅりーは誇らしげになる。 「む、むきゅん。ほらみなさい!やっぱりぱちぇはただしいのよ!!」 「そうだね、人間が卑怯ってのは事実だ。 君達の考える通り人間がまともに戦えばドスには絶対に勝てない。卑怯な手段で奪うことしか出来ない人間には到底無理な話だ」 「むきゅ!そうよ!!」 自分の思った通りの事を言われて誇らしげなぱちゅりー。 だが、 「なら何で君達には卑怯な真似をしないと思わなかったんだい?」 「むきゅ?」 その言葉にぱちゅりーはきょとんとなる。 「人間は卑怯だ。それは別に異論はない。 騙す事に文句を言うのは人間とゆっくり位だからね。 ふらん、そのぱちゅりーを渡してくれないかな?」 「…わかった」 ふらんは頷くとぱちゅりーを女性に手渡す。 それを受け取り両の手で抱き抱えて質問する。 「ありがとう。それでぱちゅりー、私達人間はとても卑怯だ。それを君はわかっていながら何で君達はわざわざ真っ正面から来たんだい?こちらからの施しを何の疑いもなく受け入れたんだい?」 「む…むきゅ…それは…」 「私達がドスに負けを認めたと思った?卑怯な人間がそんな程度で諦めるとでも思ったのかい?だとしたら君達はとんでもない間抜けだ。卑怯な人間が、そんな簡単に引き下がるなら逆に疑うべきだった。 何故なら卑怯だからね」 女性は笑みを浮かべながら言う。 「むきゅう…そ、それは…」 あの時はぱちゅりー達はドスの力があれば何でも出来ると思ってた。 だがそれは単なる思い込みでしかなかった。 それはドスの死によって証明された。 だがそれを認める事はぱちゅりーには不可能だった。 そんなぱちゅりーに向けて女性は話をする。 「君達はドスの強さがあれば何でも出来ると思ってたんだろう? 確かにドスは強い。 まともに戦えば人間一人か二人なんて簡単に倒せるだろう。 けどそもそも卑怯な人間がまともに戦ってくれる訳がないじゃないか。 ゆっくりだって不意打ち位するだろう。 なのに人間がそれをしないとどうして思えるんだい?」 「むきゅ…むきゅ…」 「考えてなかった…なら君は参謀として失格だ。 賢者としてはとうの昔に落第だけどね」 「むぎゅう゛う゛!!?」 ぱちゅりーはその言葉に反応した。 女性の言葉の羅列に許容量を越えかけたぱちゅりーでもプライドがその言葉を許さなかった。 「ぱぢぇはげんじゃなの!!ぞのうえてんざいなのよ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!だからぱぢぇのかんがえにばちがいがあるわげないでじょうがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」 「そうかい。ならこれは君の予想通りの結末という事だね。ドスや群れのゆっくりが皆死んだのも予測出来たという訳だね」 ぱちゅりーの理屈もへったくれもない叫びに女性は笑みを浮かべたまま言った。 「うるざあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛い!!!ごぢゃごぢゃわめぐな゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」 だがぱちゅりーは激昂して話を聞かない。 それに対しても女性は顔色一つ変えない。 そしてそのまま言い続ける。 「君の考えに間違いがないって事は…これから君が死ぬのも予測の範囲内って事だね」 「むぎゅ!!?」 何度目になるかわからないぱちゅりーの驚き。 死ぬ。 それはこの状況では当たり前に考えつく結論だがぱちゅりーはそれに今更辿り着いたようだ。 「ぱ…ちぇは…しぬ…?」 それに気付いた瞬間今までの激昂が嘘のように青ざめた表情を浮かべて震える声でぱちゅりーは呟く。 「ん?わかってる事だよね。だって君自身言ってたじゃないか…“ぱちぇの考えに間違いはない”ってね。だからこれは君の考えた通りだよね?」 女性はそこで笑みから不思議そうな表情へと変わる。 彼女はどうやら本気で今の状況がぱちゅりーの予想通りだったと思っているようだ。 「むきゅうううううう!!?ぱ、ぱちぇはけんじゃなのよ!!ぱちぇをころせばせかいのおおきなそんしつになるわ!!だからゆっくりしないではなしなざいいいい!!!」 死が迫っている事を理解したぱちゅりーは壊れたラジカセのように騒音を撒き散らす。 ゆっくりは騒ぐしか能がないと言っている感じすらしてくる。 女性は不思議そうな表情のまま答えた。 「駄目だよ。こっちは仕事だからね。君達全員殺さないと君達で言う所の“ゆっくりできなくなる”からね」 「ぞんなのかんげいないでじょお゛お゛お゛お゛!!!はやぐぱぢぇをかいほうじなざい!!でないどゆっぐりできなくざぜるわあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」 「どうやって?」 「むきゅ!!?」 ぱちゅりーは言葉に詰まる。 この時点でぱちゅりーはようやく気付いたのだ。 自分が命令出来る立場ではないという事に。 自分の配下であるゆっくり達は既に全員死んでいる。 まだ幼い赤ゆっくり達は何匹かの子守と共に群れの住み処に置いてきたがそれを呼びにいく手段もないし、呼んでもドスでない限り相手にもならない。 何故なら捕食種であるふらんがいるのだから。 本来ならば何の後ろ盾もなく、生かした所で何の利益もないぱちゅりーが生き残れるにはまだ戦力があると思わせるか生かせば何かしらの利益があると思わせなければならない。 だがわざわざ人間の居住地まで来て食糧を強奪しようとする群れの参謀であったぱちゅりーだ。 人間を見下し、自らを神に選ばれた、いや神であるとまで思い兼ねない位思考がぶっ飛び、プライドが高いぱちゅりーが人間に媚びへつらう事等選択する訳が無かった。 「む、むきゅ!ぱちぇにはたくさんのドスがみかたにいるのよ!!いまはむれのひろばにいるけどぱちぇがめいれいすれば…「嘘は言わなくていいよ」むぎょ!!?」 一発で見破られた事にぱちゅりーは驚きを隠せない。 「う、うそじゃ…「嘘だよ。だって君達の群れにはドスは一人しかいない知ってるから」なんでええええ!!?」 ぱちゅりーには訳がわからない。 どうして自分の賢者な作戦が通じないのかがわからない。 「だって…あ、帰ってきたみたいだから現物見せた方が早そうだし見せてあげるよほら」 そう言い女性はぱちゅりーに見せた。 「ったく面倒臭い仕事やらせやがって…」 それは山の方から…ぱちゅりーのいた群れの方角からやって来た贅肉の少ない鍛えられた身体をした女性だった。 「全く…楽な仕事だって聞いてたんだがな…?」 新たに出現した女性はぱちゅりーと話していた女性に敵意を向けながら呟く。 「そのつもりだったんだけどねお気に召さなかったかい?なら残念だ。 考え方に相違があったようだね。不満を抱かせてしまったようなので謝罪しよう。すまなかった白神夕緋さん」 ぱちゅりーを持った女性は深々と頭を下げる。 夕緋と呼ばれた女性は舌打ちし、 「…ったく白々しい…俺が名前で呼ばれんの嫌いなのわかってフルネームで言いやがって…。…ほらよ、注文の飾り」 不満そうに手に持っていた袋を投げた。 それはぱちゅりーを持っている女性の目の前に落下した。 「むぎゅ!!?」 それにぱちゅりーは驚愕した。 そして、 「むぎょおおおおおおおおゆっぐりでぎないわ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!?」 悲鳴を上げた。 「あ、やっぱりゆっくり出来なくなるみたいだね。 わかってると思うけど見せたいのはこれだったんだよ。置いていったゆっくり達の飾り。 君達がこちらに来た後そこの彼女とふらんやれみりゃと達と一部の人員で群れを取り囲んで皆殺しにしたんだよ。君達の群れがどこにあるかなんてとっくの昔に知ってたんだよ」 そう言って女性は微笑む。 「ったく、人を小馬鹿にした態度はゆっくりにだろうと変わらねえな…」 夕緋という名の女性が腕を組みながら呆れ気味に呟く。 彼女の身体には所々で餡子やクリーム等の汚れがついており、彼女が飾りを奪ったのがわかる。 「むぎゅ…ぱぢぇの…ぱぢぇの…むべ…」 あまりの衝撃に呂律が回らなくなるぱちゅりー。 「これでわかってもらえたかな?私達は君達の事もよく知ってるんだ。ドスが一体しかいないのも群れの住み処の位置も全てわかってるんだ。君達がどういうルートで来るかもね」 女性はぱちゅりーに対して笑顔で告げる。 その微笑みは陽気というより妖艶と称するべきものだった。 「底意地の悪い奴だな…全く…」 夕緋がそんな様子を見ながら呟く。 女性はそれに反応しない。 「む、むぎゅ…」 ぱちゅりーにはもう何が何だかわからない。 無敵だと思っていたドスはあっさり死ぬし、群れに残ったゆっくりはことごとく死んだ。 もしかしてこれは夢なんじゃないかと錯覚しそうだ。 だが、 「さて、後はぱちゅりー、君を殺して終わりだ」 「むぎゅ!!?」 その背筋の凍る呟きにぱちゅりーは現実に引き戻される。 「ん?どうしたんだい? 君はそれをわかってるんだよね」 「むきゅううううううう!!?」 死の恐怖に震えるぱちゅりーは女性の言葉に耳を貸さない。 「うーん…」 会話が成立しない事を若干不満そうな表情をする女性。 「ったく何やってんだよさっさと殺せよな…」 段々とイライラを募らせていく夕緋。 「ふむ仕方ない。 夕緋さんがそう言うのならば私も急ごう。 最後にもう一度聞こう」 そう言って女性はぱちゅりーに向き合いがっちりと固定する。 それはぱちゅりーにはそれなりに苦痛になったらしく「むぎゅん!!?」と悲鳴を上げる。 「さてぱちゅりーもう一度問うよ。君達は人間が卑怯だって知ってる。ゆっくりしてないってわかっている。なのにどうして君達は簡単にこちらの渡したものを受け取ったりするんだい?」 「む…むきゅ…」 ぱちゅりーはまっすぐ女性の目を見つめさせられる。 「君達は人間が卑怯だと知っている。そして見下している。なのにお野菜の勝手に生えてくるゆっくりぷれいすとやらをドスの力を借りないと取り返そうともしない。 そしてドスの力を借りたら借りたでまるで鬼の首でもとったかのように調子にのって卑怯だとわかりきっている人間の罠にあっさりとかかる。だから聞かせてくれ。 君は賢者で、君の考えに間違いはないんだろう?だったらゆっくりはどうして卑怯な人間にあっさり負けるんだい?」 「む…むきゅ…そ、それは…」 「それは?」 ぱちゅりーは何かを言おうとするが何も思い浮かばない。 ぱちゅりー自身わからないからだ。 言われて考えてぱちゅりーは思い至る。 自分達が何も考えていない事に…。 人間は卑怯でゆっくりしてない奴だとわかっていながら見下して油断してゆっくりしている自分達に勝てる訳がないと心の底では思っていた。 今まで人間が野菜の生えてくるゆっくりぷれいすを独占して来たのは卑怯な手段で不当に奪い取ったとはいえ、ドスがいれば簡単に奪い返せると思い込んでいた。 ドスが負けるなんて思いもしなかった。 自分達が総出でかかっても人間一人殺せないとは思わなかった。 賢者である自分がそう思ってるからそれは決まった事なのだと思っていた。 ぱちゅりーは知識から結果を推測するのではなく、ぱちゅりーが都合よく思い込んだ妄想が未来になると考えていたのだ。 だが事実は全然違っていた。当たり前だ。 どうしてこんな事になったのか? どうしてドスは死んだのか? どうして群れのゆっくりは死んだのか? どうして捕食種が人間の言う事を聞いているのか? 助かる為に必死に考えた結果、自分が何も考えていなかった事にようやくぱちゅりーは辿り着けた。 賢者である自分が様々な事態を考慮しなければならなかったのにドスさえいればいいと思考停止してしまっていた。 人間のように準備したりしなかった。 何も考えていなかったのだから。 それに気付けただけでもゆっくりとしては救いがあっただろう。 もうとっくの昔に手遅れであったが…。 「むきゅ…たずげでぐばばい…」 ぱちゅりーは命乞いをする。 それしか出来ない。 だが、 「駄目だよ」 女性は一切声の抑揚を変えないで答えた。 「君は死ぬ。私かふらんかどちらかが殺す。 その選択はさせてあげてもいいけど存命は無理だよ」 「むぎゅう…おねがいじばぶぅ…」 「お願いされても無理なものは無理だよ。さ、質問に答えてね」 有無を言わせぬ死刑宣告。 いっその事まだ群れが健在だった時に一撃で死んでいた方が幸せだったかもしれない。 「やば…じびたぶなぃ…」 「何言ってるんだい? ぱちゅりー、君の考えに間違いはないんだろう? だったら…こうなるのもわかりきってたよね? だって間違いはないんだからこの結果は望み通りって事だからね」 ぱちゅりーは恐怖する。 もはや賢者としてのプライドも群れの参謀としてのプライドも砕け散っていた。 恥も外聞もないただ生きたいという欲求。 今ならあにゃるを舐めてうんうんを食べてでも生き延びたかった。 「むきゅ…ごべんなざい…うぞでず…ぱぢぇのかんがえは…まちがいだらべべぶ…けんじゃじゃ…あびばべん…にんげんざんを…あなどっでばじだ……ぱぢぇはなにぼかんがえでいばぜんでじだ…もうじばぜん…にんげんざんにはざがらいばぜん…だから…ゆるじでくばはい…」 けんじゃである自分を否定する事がぱちゅりーにとってどれだけの屈辱なのかわからない。 だがそれは自身のアイデンティティを崩壊させるには十分だった。 この場をもし生き延びれてもぱちゅりーは心に深い傷を持って生きていかなければならないだろう。 そうまでして生き延びようとするぱちゅりーに女性は、 「そっか…何も考えてなくて人間を侮ってたからあっさり引っ掛かったんだね…教えてくれてありがとう。それじゃ死んでもらうよ」 「むぎゅう゛う゛う゛!!?」 あっさりと変わらない返答を言った。 「一応選ばせてあげるよ。 私とふらんのどっちに殺されたい?」 ぱちゅりーの悲鳴を一切気にせず女性は尋ねた。 「おねがいじばぶう゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!!!なんでもしばずがらゆるしでくだばい゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!?」 「何でもするんなら死んでよ。死んだら許してあげるよ」 「やだあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!?じにだぶない゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!」 もはや訳もわからず泣き叫ぶぱちゅりー。 それに対して女性は鼻の頭を掻きながら、 「うーん選んでくれないなら仕方ない。ふらん、このぱちゅりー好きにしていいよ」 とふらんにぱちゅりーを明け渡した。 「うーわかった」 「むぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛やべでえ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!?」 捕食種についての恐怖がクリームの髄まで染み付いているぱちゅりーは恐怖し、おそろしーしーを垂れ流す。 ゆっくりは生に執着する。 最期まで僅かな生の可能性にしがみつく。 だから「おたべなさい」なんてしないし出来ない。 そもそもそんな簡単に死ぬ事なんて出来ない。 自らの意志であっさり死ぬ事が出来る程世界は優しくはない。 だからゆっくりの中で言われている「おたべなさい」はゆっくりが口に含んだ石を吐き出して窓を割るのと同じように都市伝説なのだ。 そんな都市伝説を真に受けてわざわざ強化ガラスに窓を取り替える人も出たが騒がしいゆっくりからの防音の役割や本物の泥棒の侵入への妨害になったりと結局馬鹿な判断とも言えなかったが…。 それはさておき何が言いたいかというとぱちゅりーは自分で死ぬ事も出来なくなったという事だ。 野生で生きていく内にぱちゅりー種もそれなりに丈夫になっていったのだ。 だからそんな簡単に中身を吐き出さない。 それは長い年月をかけて何世代も重ねていった結晶なのだ。 もっともその最後となるぱちゅりーからすればそれは幸運ではなかったが。 「ゆっくりしね!!」 ふらんの拳がぱちゅりーの顔面にめり込む。 「むぎゃ!!?」 ぱちゅりーは成体だ。 赤ゆっくりに比べて甘味が少なくなっている。 だからふらんは痛めつけて殺す選択肢を選んだ。 ゆっくりは攻撃されれば苦痛で甘くなる。 それが思い込みによるものなのかどうなのかはわからない。 だが動物が唾液に抗菌性質があるのを知って傷を舐める訳ではない。 そうした方がいい事を経験として知っているからだ。 ふらんはゆっくりの殲滅の仕事をほぼ完遂した自分のご褒美としてぱちゅりーを食べるつもりだった。 それはぱちゅりーが生きる野生では何の不思議ではない食物連鎖の一過程だ。 だが散々痛め付けられた後食われるぱちゅりーからすれば人間に食われもせずに一思いに殺された方が幸せだった。 こうして最後の最後までぱちゅりーは己の選択を間違えた。 「やばあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!?」 ぱちゅりーは泣き叫ぶ。 自分の体液を全部放出しようとしているかのように…。 「うーきたない!!」 だがそれをふらんは気に召さなかったらしく、ぱちゅりーを蹴り飛ばす。 「ぶぎゅべ!!?」 地面を転がるぱちゅりー。 「ゆぎぎ…ぃ…!!」 痛みに喘ぎながらぱちゅりーは気付いた。 今自分が自由となっている事に。 「むっぎゅうう!!ゆっくりしないでにげるわあ゛あ゛あ゛あ゛!!!」 ボロボロの身体に鞭打ち森へと逃げようとするぱちゅりー。 通常種の中で身体能力の低いぱちゅりーが捕食種であり、ゆっくりで上位の身体 能力を持つふらんから逃げられる訳がない事にすら気付かない。 まぁ命の危機に瀕してるのだ、気付かないのも無理はない。 「むっぎゅむっぎゅ!ぱちぇはいきのこるわあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」 跳ねるぱちゅりー。 だが、 「逃げるならもう少し静かにするもんだぜ。 ま、もうすぐ死ぬ奴に説教なんて無駄か」 「むぎゅう゛う゛う゛う゛!!?」 夕緋に難無く捕まえられてしまう。 「むぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぎだないででざわるな゛あ゛あ゛あ゛あ ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!?」 「…………」 「あ、殺すのは駄目だよ白神夕緋さん。 私はぱちゅりーに約束したからね、殺すのは私かふらんだってね…」 ぱちゅりーを見て何かをしそうになった夕緋に女性は戒める。 まるでやんちゃな子を窘めるように。 「…ふん」 夕緋は女性を睨んだ後ぱちゅりーを放り投げた。 「むぎゅ!?」 地面に転がるぱちゅりー。 「うーつかまえた」 「むぎゃあああああああああああああ!!?」 ぱちゅりーを捕まえるふらん。 その横で夕緋は女性を睨み付ける。 「だから俺をフルネームで呼ぶな。 嫌いなんだよその名前」 「おや、どうしてだい? いい名前じゃないか。 私的には素敵だと思うよ」 「ッチ!わかって言いやがって…白神に夕に緋ってまるで中学生のガキが考えた黒歴史間違い無しのキャラクターみたいな名前じゃねえか…」 そう言いながら夕緋は女性に背を向ける。 「ふむ…ならそれを素敵だと思う私は中二病だと言う事か…おや、何処へ行くんだい?」 「帰る。何時までも餡子まみれでいられるかっての…」 そう言って女性達から背を向けて一度も振り向かず去っていった。 「ありがとう。また頼むよ」 そんな夕緋に女性はそう言葉を投げ掛けた。 そして、 「ふらん、悪いけど殺すならさっさと殺してあげてくれ。 君達を飼い主達の所へ送る時間を考えるとそろそろ終わらせないと間に合いそうもない」 「うー…わかった…」 虐め足りないらしく不満げではあるがふらんは頷く。 「む…むぎゅ…やば…」 ぱちゅりーはボロボロの身体でガチガチと残り少ない歯を鳴らして恐怖に震える。 「うーいただきます」 だがそんなぱちゅりーの思いなど誰も聞きはしない。 ぱちゅりーは牙が自分の身体に突き刺さるのを感じた。 「むぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!?」 ぱちゅりーが中身を吸われていく中断末魔の悲鳴を上げる。 そんな状態を見ながら女性は微笑み続けている。 死にゆくぱちゅりーにはその笑みが嘲笑いにしか感じられなかった。 「むぎゅう゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛じにだぶばい゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!?」 こんな事になるなんて夢にも思わなかった。 どうしてけんじゃなぱちぇが死に、人間は笑っているのか…こんな未来は有り得てはならない筈なのに…。 ぱちゅりーは世の理不尽を嘆き、中身を吸われていく。 この世界はぱちゅりーの偉大さに気付けなかった…。 だからぱちゅりーは死ぬのだ。 そうぱちゅりーが考えたその時、 「あ、そうだ。いい事考えた」 ふと女性が何かを思い付いたように呟いた。 「ふらん、やっぱりそれ渡してくれないかな? 試したいことがあって…」 女性のそんな声を聞きながらぱちゅりーは意識を失った。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 『む…きゅ…?』 ぱちゅりーが目を覚ます。 『むきゅ…ここはどこ…』 ぱちゅりーは自分がどこにいるのかわからない。 「やぁ、目を覚ましたみたいだね」 するとぱちゅりーに話し掛けてくる声がした。 ぱちゅりーはそれに聞き覚えがあった。 『むきゅ!あのゆっくりできないばばあのこえよ!!』 ぱちゅりーは声の主を断定して罵倒する。 だが、 『む…きゅ…こえがでないわ…?』 それだけではない身体が動かないのだ。 「ん、よし。意識はあるみたいだね」 そう言いながら女性はぱちゅりーの前に姿を現した。 『むっきゅうううう!!?ぱちぇになにじだのお゛お゛お゛お゛お゛お゛!!! 』 何も出来ないこの状況の原因を目の前の女性と判断したぱちゅりーは声にならない罵倒を浴びせる。 それを感じ取ったのか女性は説明しはじめる。 「君は動けないよ。私がそうした」 『むっきゅうううううううう!!? はやぐもどにもどしな゛ざいい゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!』 女性に声にならない命令を叫ぶぱちゅりー。 「戻せって言いたそうだね。 けど断る。君はこれからずっとそのままだ」 女性はそんなぱちゅりーに構わず冷酷な宣告を告げながらぱちゅりーの横にぱち ゅりー一匹が入れる程度の窪みがある土で満杯になった大きい水槽を置いた。 『む…むきゅ?』 何だかゆっくりできないものを感じたぱちゅりーは戸惑った。 女性はそんなぱちゅりーを窪みの中に入れる。 『むっきゅ!!?なにするの!はやくだしなさい!!!』 暴れる事も抗う事も出来ないぱちゅりーは届かない声を投げ掛け続ける。 それを知ってか知らずか女性はぱちゅりーに行動の理由を説明した。 「以前私の大切な人の家で地面に埋まってたぱちゅりーを見付けてね。 あの時は見なかった事にしたんだけど、やっぱり気になってね。 どうやって生きてたのか何時まで生きてたのかとかをね。 また掘ってみたら死んじゃってたからさ、わからずじまいなんだ。 だから君で実験させてもらうよ」 そう言った女性は妖艶な笑顔のままぱちゅりーに土を被せ始める。 『むきゅう゛う゛う゛う゛う゛!!? やべなざい!!ぱぢぇがゆっくりでぎないでじょお゛お゛お゛お゛お゛お゛!!?』 ぱちゅりーはやめるように声にならないことに一向に気付かず無駄な叫びを上げ続ける。 女性はそんなぱちゅりーに容赦なく土を被せ続ける。 ぱちゅりーの意見等どうでもいい。 彼女はただ知りたいだけなのだ。 だから止める理由など何処にも無い。 『むっぎゃあ゛あ゛あ゛!!? やべへええ゛え゛え゛え゛え゛!!! ごべんなざい゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!』 生き埋めにされる恐怖に負けて遂に命乞いを始める。 勿論それも無駄に終わる。 『ぱぢぇはけんじゃなのに゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!どうじでごんなべにあわなぐぢゃいげばい゛のお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!?』 ぱちゅりーは自分の理不尽に嘆く。 だが嘆いた所で何も変わらない。 瞬く間にぱちゅりーは土に囲まれた牢獄の中に閉じ込められた。 『むっぎゅう゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!!!ぐらい゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!?』 光も届かない暗闇の中、ぱちゅりーは土の中でただ時間が過ぎてゆっくりと死んでいくのを待つしかなかった。 『ぱちぇはけんじゃなのよお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!はやくたずげなざい゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!』 ぱちゅりーは無駄な足掻きを無駄に行い続けている。 だが何時までもそうはしていられない。 身動きの取れない暗闇の中で時間だけは無駄にある。 足掻き続けても疲れるだけだ。 『むきゅう…むきゅう…』 疲れれば休むしか出来ず、休めば少しは冷静になる。 冷静になれば余裕が出来てくる。 ぱちゅりーは自分の悲劇を嘆く。 そして元凶である女性を恨む。 『むっきゅうう…あのばばあ…ぜったいゆっくりできなくしてやるう゛う゛う…』 女性に対する憎悪を募らせ復讐を誓う。 ぱちゅりーはまだもうその機会が来ない事にも気付かない。 このままぱちゅりーは勝手に恨んだり嘆いたりしても何も変わらず地面の中で過 ごし続ける。 ずっと一人、何も出来ず何も起こらないままぱちゅりーはずっと葛藤だけをし続 ける。 『むっぎゅう゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛もうやばあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!? だじで!!はやぐだじでえ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!?』 怒りは焦燥に、そして焦燥は恐怖へと変わっていく。 『ごべんなざい゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!! はんぜいじばじだあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!』 食事も何も出来ず時間の感覚さえわからなくなる暗闇の中、ぱちゅりーは救いを 訴え、謝罪する。 それすら無駄だと気付くにはどれだけの時間が必要なのだろうか? だが時間だけならたくさんある。 実際の時間でならば数日でしかないが時間の感覚すらわからなくなったぱちゅりーには永遠に等しい時間が…。 『む…きゅ…』 怒り、罵倒し、焦燥し、助けを求め、謝罪し、反省し、諦観し、ただただ死を求めるようになるまでぱちゅりーには十分な時間がある。 ぱちゅりーはこうしてゆっくりには珍しくこの世の無常を噛み締めるというゆっくりの中では知的な末路を遂げていく事となった…。 ぱちゅりーが率いた群れはこうして壊滅した。 その結果が人に関わったが為のものである事をぱちゅりーは生クリームの随にま で刻み込んだだろう。 非道であろうと群れのゆっくりを見捨てていれば少なくともこんな土の中で孤独に死んでいく事はなかったろう…だがその答えは出すには遅すぎた。人間を知らず、侮った結果がこれだった。 ぱちゅりーは答えを得た。 既に意味を為さない答えを…。 そして、答えを得た時点でゆん生は終わらない。 まだまだぱちゅりーにはたっぷりと時間があるのだ…後悔し、絶望し、また後悔する時間が…。 謝罪を始めるまで一時間程度。 原因を理解するのに二時間程度。 ぱちゅりーが死ぬまでそれを優に越える時間が必要である事にぱちゅりーはまだ知らなかった…。 『む…きゅ…ごべ…なざ…』 ぱちゅりー土中生活は始まったばかりだった…。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「何でも屋とは聞こえがいいけどこういう雑用もやんなくちゃならないから考え ものだね。 年に一度ああやって駆除しないとどんどん増えてくる。 来年には同じ程度の群れが出来てると思うと憂鬱になってくるよ」 女性は自分が開いた事務所の自分の席の椅子にもたれ掛かりながら呟く。 「だから正直数人でやるのも辛くなってきてね…。 この事務所女の子が多いから男手が欲しいんだよね…」 「…何が言いたい?」 女性と相対していた男性が呆れぎみに呟く。 「ねぇ、そろそろ今の会社辞めてここで働かないか? 待遇的には私の秘書で。 今の会社の給料の倍を出そう。悪い話じゃないよね?」 「…またその話か…悪いけど遠慮しとくって何度も言ってんだろ…っていうかここに呼んだのそれが理由か?」 「そうだけどそれでは、…やっぱりダメかい?」 「お前とは長い付き合いだけどそれはちょっとな…」 男はあっさりと女性の誘いを断る。 「それと、お前また夕緋騙して仕事させたな」 「騙したとは人聞きの悪い。 私はただ君の従姉妹に合った仕事だったから誘っただけだよ」 「あのなぁ…そのおかげで俺散々あいつにぐちぐち言われたんだぞ…全く…」 「私は彼女に嫌われてるみたいだからね…」 そう言いながら女性はクスリと笑う。 「本当…素直じゃないね彼女も…まぁいい。以後気をつけよう」 「頼むよ…本当…」 「ふむ、君にそう言われては私も本気にならざるえないな。よし頼まれた」 そう言うと女性は椅子から立ち上がる。 「どこに行くんだ?」 出入口に向かっていく女性に男性は尋ねる。 「トイレさ。見たいなら一緒に行くかい?」 「誰が行くか!!」 男性の答えに女性は微笑し、それじゃと手を挙げ部屋から出て行った。 「全く…君達といると人生が楽しくてしょうがないよ…」 そう誰にも聞かれぬように小さな声で呟きながら…。 END あとがき 久し振りに投稿してみました。 覚えてくれていたら幸いです。 それでは、今回このSSを読んで頂き誠にありがとうございました。
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【はじめに】 このSSは、ほんの少し先の未来を舞台にしたフィクションです。 単純明快なゆ虐や愛でを求める方には、おすすめ致しません。 【本編】 『ゆっくりしていただけの群れ』 (作・二行) 21世紀に入って30年も経つと、色々とおかしなことが起こるものだ。 人間の世界は相変わらず不景気だが、それでかえって救われたものもある。 たとえば、今私が分け入っている野山だ。 今世紀に成り立ての頃は、どこもかしこも開発ではげ山になっていたそうだ。 しかし、そんな余裕もなくなって幾年月。 機械の手が入らなくなった自然は、皮肉にも繁栄を取り戻している。 私が登っている坂も、そんなほったらかし大自然の一部だった。 道なんてないから、刃物を振り回して草を刈りつつ進む。 はたから見れば、今流行のテロリストと勘違いされそうだ。 別に、無差別テロの予行演習に来ているわけではない。 この山には、今ではあまり見られなくなった、ゆっくりしているゆっくりの群れがあるのだ。 彼らが珍客として地球に現れたのは、今から20年ほど前になる。 ダーウィンを冒涜するために生まれてきたような生物どもは、大きな話題を呼んだものだ。 彼らは、時とともに害獣化するものもいれば、人間に大きな利益をもたらすものもいた。 だが今では、社会の淀んだ空気と同調するかのように、ゆっくり達もまた俯いて暮らしている。 都会の野良ゆっくりなど、死を懇願するものまでいる始末だ。 新聞の風刺画が歩き回っているようで、気味が悪い。 しかし、人と没交渉な群れの中には、牧歌的な集団も残っている。 彼らの馬鹿丸出しでオママゴトっぽい暮らしは、見るものによっては憤慨の対象であろう。 だが、私は特殊性癖持ち。 そんなゆっくりした群れを観察するのが大好きな変わり者なのだ。 だからこそ、たまの休みと引き換えにして、こんな奥地まで出かけている。 山の所有者が、職場のお偉いさんなのも好都合だった。 彼のご機嫌さえ損ねなければ、伸び伸びとゆっくりウォッチングに興じることができる。 まるで種田山頭火の句のように、分け入っても分け入っても深い自然が続く。 道なき道を進んでいると、足元の方からおかしな声が聞こえてきた。 むきゅ、げほっ、げほ・・・。 屈んでそこらの草をかき分けてみると、顔色の悪い饅頭がクリームを吐いていた。 「おいおい、大丈夫か?」 普段は、ゆっくりには決して触れない。 あくまで、自然な観察が信条だからだ。 ただその時は気紛れから、リュックからスポーツドリンクを出し、かけてやった。 利くかどうかは気軽な賭けみたいなものだったが、功を奏したようだ。 ぱちゅりーは、みるみる元気を取り戻し、私を見上げて礼を言った。 「ありがとう、お兄さん! ゆっくりしていってね!!!」 最早記録の中でしかお目にかかれないと思っていた、ご挨拶。 それに触れた私は舞い上がってもいたのだろう、ついつい口からお返事が出る。 「ゆっくりしていってね!!!」 饅頭が、にっこりと笑った。 「それじゃ、ぱちぇは行くわ」 「待て待て、お前こそゆっくりしたらどうだ?」 「そうも言ってられないの。群れがなくなっちゃうのよ!」 私はクリーム饅頭をつかむと、その場に腰掛けた。 胡坐をかき、腿の上にぱちぇを置く。 「ななな何するの?」 「いいから落ち着け、虐めたりしないから」 「むきゅぅ・・・」 「で、なんで群れがなくなるんだ?」 「明日の朝、人間さんがいっぱい来るの。そして、群れを燃やしちゃうの」 駆除か。今では珍しいことだ。 今どき、そんな元気のよい自治体があるとは。 それとも。 「お前達、何やったんだ?」 「むきゅっ。ぱちぇのお話、聞いてくれるの?」 「そのつもりだ。お前はゆっくりにしては、理性的なやつらしいからな」 「ぱちぇを褒めてくれて、ありがとう、人間さん!」 驚いた。 『理性的』という言葉を理解し、感謝まで表すとは。 野生の、しかもこんな山奥のゆっくりに、ここまで物を知っている個体がいる。 「どうやら、(笑)じゃないようだな」 「かっこわらい?」 「ああ、流石に分からないか。それより、話を聞かせてくれ」 「・・・ぱちぇの群れは、ドスの群れよ。 ドスのおかげで、皆、ゆっくりしていたの」 この辺りには何度か来たことがあったが、ドスまりさがいるとは知らなかった。 是非お目にかかりたいと思ったが、口にはしない。 「だけど、ゆっくりしているゆっくりの中にも、ゆっくりしていないゆっくりもいたのよ」 「ゲスという奴か。まぁ、世の常だな」 「中でも、みょんとゆゆこの番は、ひどかったわ。 度々人里に下りては、人間さんのお野菜や食べ物を横取りしちゃうの」 「随分と希少なゲスだな」 私はぱちぇの頭を撫でながら、話を聞いていた。 ゆゆこはいわゆる希少種という奴だが、ゆっくりの中で最も食い意地が張っている。 おまけに吸引力の変わらないただひとつの掃除機のように、辺りのものを吸い込んでしまうのだ。 「人間さんは、ゆっくりしていたわ。 ある日、ぱちぇの群れに来て、もうゆゆこを人里に放さないで欲しいって言いに来てくれたの」 「それは、ゆっくりとしているな。悠長とも言えるが。それで、群れはどうしたんだ」 「ドスがゆゆこに注意して、おしまい」 「で、ゆゆこは反省の色もなく、また人里に被害をもたらした、と」 「その通りよ。むきゅぅ・・・」 「だから、駆除に来るのか」 「いえ、人間さんは本当にゆっくりしてくれたわ。ぱちぇ達よりもゆっくりしていたかも。 ゆゆこさえ差し出してくれれば、群れはそのままにしておいてくれる。 そうまで言ってくれたのよ」 役所にしてみれば、群れを一斉駆除するよりも一体の希少種を捕獲する方がいいだろう。 第一、安上がりだ。 「ドスは、何やってたんだ」 「何もしなかったわ。ゆっくりしていれば、ゆゆこもゆっくりしてくれるって」 「他のゆっくり達は?」 「ゆっくりしていたわ。自分達のゆっくりぶりを見れば、ゆゆこもゆっくりしてくれるって」 ゆっくりは、何かを積極的にやることを好まない。 群れによっては、狩りを一生懸命することさえ忌避される。 まぁ、そんな群れは往々にして長持ちしないのだが。 「自分達は何もしない。ゆゆこは野放し。そりゃあ」 「群れを潰されても、文句は言えないわね・・・。でも」 「なあ、ぱちぇ。ひとつ聞いてもいいか?」 「むきゅ?」 「お前は、何やってたんだ」 「ぱちぇは・・・、ドスの仲間に入れてもらえなかったの。 それでも、ゆっくりしてる場合じゃないって、皆に言ってはいたの」 「聞き入れては、もらえなかった?」 「そうよ。分かってくれたのは、ありすとれいむだけ」 それも、たいしたこともないゆっくりだったのだろう。 ぱちぇの沈んだ表情が、それを物語っていた。 こんな顔を見に、ここまで来たのではなかったのだが。 「ぱちぇ。お前は、何で中身を吐いてまで山を降りようとしていたんだ」 「人間さんのところに、行くつもりだったのよ」 「無茶だな。ゲロ袋と呼んで、お前の種を嫌っている人間も多いんだ。 一歩間違えれば、真っ先に潰されるところだぞ」 「それでも、ぱちぇは、じっとしていたくないのよ! だって、群れがなくなるのよ!」 「ぱちぇ、私が子供だった時に流行った言葉を教えてやろう」 「むきゅきゅ?」 「感動的だな、だが無意味だ」 「むきゅっ・・・」 私は饅頭を持ち上げると、顔と顔を近づけた。 「ぱちゅりー。これからあまりゆっくりできないことを言う。 中身を吐かずに、聞くことはできるか?」 「・・・頑張るわ」 「お前は、良い奴だな。でも、1匹だけじゃ何もできないんだ」 「でも、もしかしたら、お兄さんのように分かってくれる人間さんがいるかも」 「そうだな。何だったら私も一緒に行って、説得を試みるのもいい。 そうすれば、取りあえず、明日の駆除はなくなるかもしれない」 「お兄さん」 「だけどな、きっとまた、同じことの繰り返しだ。 そして時間が経つほど、事態は悪くなる。 前回は、ゆゆこの引渡し。今回は群れの駆除」 ぱちゅりーは口を硬く結んだまま、私の話に耐えているようだった。 「恐らく次は、この辺りの群れが全滅させられる。 だんだんと、疑われるんだ。 全てグルになっているか、ゆゆこが異常に繁殖しているか」 「ゆゆこは、ひとつだけだわ」 「だったら、それを引き渡せば良かったんだ。 それで人里の被害が治まれば、少ない予算を費やしてまで駆除しようとはしない」 寒天の瞳が私を見据えた。 まだ意思というものがあるだけに、悲しい眼差しだった。 「お兄さん、ぱちぇはどうすればいいの?」 「手遅れだ。それを理解することだ」 「・・・だったら、ぱちぇは戻る。お兄さんの言った事、群れの皆に伝えるわ」 私は殊勝な饅頭を小脇に抱えると、登った先にあるだろう群れとは反対の方へ歩き出した。 腕に、それなりの力を込めながら。 「お前は、群れには帰さない」 「どうして? お兄さんは、ゆっくりをいじめてゆっくりする人なの?」 「馬鹿野郎。お前を虐めるのは私じゃない。群れのゆっくりだ」 「むきゅっ」 「話を聞いててよく分かった。お前達の群れは、ゆっくりしているだけの群れだ。 目先のゆっくりを大事に思う余り、明日のゆっくりを潰してしまうアホの集まりだ」 「お兄さんの言うことは、よく分かるわ。でも、それがゆっくりって生き物じゃないの?」 「そうでもないさ。賢明な群れは、ちゃんとある。 ゆっくりするためには、そうじゃないこともやらなきゃいけないと肝に銘じている奴らがな」 「ぱちぇの群れは、お馬鹿さんばかりなのね・・・」 「そうだな。きっと群れに帰ったら、お前は無視されるどころか、また傷付けられる」 私は抱え上げた時、ぱちぇのあんよを見てしまった。 明らかに、枝か何かで傷付けられた痕がある。 「その傷、大方ゆっくりできないぱちぇがどうのって、虐められたんだろ」 「むきゅぅ。でも、ちゃんとぱちぇの話を聞いてくれたゆっくりもいたわ」 「聞いていただけだ。 もし本当に分かっていたら、お前と一緒に山を降りていたはずだからな」 咳き込む音と共に、冷たいものが腕にかかった。 歩みは、止まる。 私は吐しゃ物に塗れたぱちゅりーの口を、手で塞いだ。 「ショックなのは分かる。同情もしてやる。だから我慢してろ」 「・・・お兄さん、ぱちぇはどうすれば良かったの?」 「お前はドスの側にいるか、自分が長になるべきだったんだ。 群れを変えるってのは、そういうことなんだよ。 お前位の賢い奴を受け入れなかった時点で、群れの運命は終わっていた」 「むきゅん。だから無意味って言ったのね・・・」 「そうだ。事ここに到って何かをやろうとしても、無駄なんだ。 やるんだったら、もっと前から深いところから、始めなきゃいけなかったんだ。 今更ジタバタしたって、自己満足以外の何ものでもない」 「ごめんなさい、お兄さん」 「謝ることはない。 あの群れは死ぬ。ゆっくりしていただけで、何もしてこなかったためにな。 ぱちゅりー、お前は生きろ。 生きて、今度は長にでもなって、本当にゆっくりとした群れを作ってみるんだ」 私は自嘲する。 何を一生懸命になっているのか、と。 たかが饅頭如きに、何を求めているのだろう。 それに自分は、脳内お花畑なゆっくりが好きでここまで来たのではなかったのか。 「お前は私が、安全なところまで運んでやるよ。それからは、お前が決めろ」 「ゆっくり理解したわ・・・」 「せめてお前くらいに理解できれば、良かったのにな」 私は再び小脇のゆっくりと共に歩き出した。 山を降りたらぱちゅりーを助手席に乗せて、この辺りを抜けよう。 シートベルトはさせるべきなのだろうか? そんな馬鹿馬鹿しいことが何故か浮かんだりした。 麓に近付くと、胸のポケットに入れていた携帯端末が震え出した。 メールでも受信したのだろう。 手頃な倒木があったので、私達は並んで腰をかける。 いや、ぱちぇに腰などない。 頭だけの生き物に、私は水筒のお茶を飲ませつつ、端末を操作した。 ディスプレイに、送られてきた文面が映る。 「ぱちぇ、お前に言いそびれたことがあるんだ」 「なに、お兄さん」 「ゆっくりしているだけで何もしなかったってのは、お前達だけじゃないんだよ」 「むきゅきゅ?」 「人間だって、同じようなものさ。 ゆっくりしていただけの群れが、また消えていくようだ」 画面の文字を、ぱちゅりーに見せてやった。 どのくらい理解できているのか、私には分からない。 文面は、こういう一文から始まっていた。 『稀代の悪法が、あと100時間で可決されます! 是非、反対の署名にご協力下さい!』 (終) 【過去作】 ※ほんの少し未来の話 本作 ふたば系ゆっくりいじめ 906 蟷螂の斧 ※単発物近作 ふたば系ゆっくりいじめ 1124 おひさまさんをつかんでしまった ふたば系ゆっくりいじめ 1059 でか帽子まりしゃと姉まりしゃ ふたば系ゆっくりいじめ 1055 さげゆん ふたば系ゆっくりいじめ 1019 餡娘ちゃんに花束を ※カオスVS鬼威惨 次回桜が咲く頃までには ふたば系ゆっくりいじめ 947 はげの復活(上) ふたば系ゆっくりいじめ 428 はげの行進 ※YHKアーカイブス ふたば系ゆっくりいじめ 840 プラネット・ゆース ~ドスまりさ~ ふたば系ゆっくりいじめ 675 プラネット・ゆース ~きめぇ丸~ ふたば系ゆっくりいじめ 658 緊急特別SS ゆっくり割れる窓ガラスさんの謎 ふたば系ゆっくりいじめ 594 プラネット・ゆース(うーぱっく&すぃー) ※続編準備中 ふたば系ゆっくりいじめ 560 なずーりんに祝福を ふたば系ゆっくりいじめ 796 Detroit Yugyaku City 2 ※どろわ&ぬえ draw006 「パラダイゆch」 nue079 「素晴らしき世界」 nue059 「スキャット・ゆん・ジョン」 nue022 「ゆナッフTV」 nue009 「ブラックペーパー・チャイルド」 その他の作品に関しては、ふたばSS@WIKIの『二行の作品集』をご覧下さい。 餡娘ちゃんとWIKIあき、感謝。
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※本作は以前挙げていたあるドスまりさの一生 とてもゆっくりした群れ(前編)に加筆修正し、後半をつけたものです。 大筋の話には関係ないので後半から読んでも大丈夫です。 ※駄文、稚拙な表現注意。 ※俺設定注意 ※賢いゆっくりは漢字も喋ります。※駄文、稚拙な表現注意。 その群れはとてもゆっくりしていた。 好きなだけむーしゃむーしゃしていいし、すっきりーも好きなだけしていい。 このあたりは餌場が豊富なのだ。食べても食べても食べきれないほど多い上、味もその辺の虫や花より格段にうまい。 その上れみりゃやふらんなどの捕食種、野犬などの野生動物も少なく、それらに襲われることもない。 この群れはドスまりさが治めているが、他の群れと違い厳しい掟もなくドスも厳しくなかった。 こんな素晴らしいゆっくりプレイスにいる自分達は特別な存在に違いない。群れのゆっくりは皆そう思っていた。 あるドスまりさの一生 とてもゆっくりした群れ 作、長月 まりさはごきげんだった。 いっぱいのごはん。たくさんのおちびちゃん達。小うるさいことを言わない優しいドスまりさ。 ここは最高のゆっくりプレイス。こんな場所に住める自分はなんてしあわせなんだ。 そう思いながら自分の巣へ跳ねていく。帽子の中は今日も大漁だ。おうちに居る自分のつがいのれいむとたくさんのおちびちゃんとむーしゃむーしゃしてしあわせーしよう。 「ゆゆっ!?」 まりさは立ち止まった。見慣れないゆっくりを見つけたからだ。 新しく群れに入りたいというゆっくりだろうか?これほどのゆっくりプレイスなら不思議ではない。 声をかけようかと思ったまりさだが、やはりやめておいた。それより早くおうちに帰って家族でしあわせーしたかったからである。 「ゆう。今日もみんなゆっくりしてるね。」 狩りから帰ってきた群れのゆっくりをにこやかに見守るドスまりさ。実際群れのゆっくりの顔は皆笑顔だ。 ドスまりさはれみりゃやふらんなどの捕食種はもちろん、以前ゆっくりできないことをわめく人間が来たときも見事に追い払ってくれたので群れのみんなは絶大な信頼を寄せていた。 ドスまりさには信念があった。それは「群れのみんなをゆっくりさせる」というものだ。 なぜこのような信念を信念をドスまりさが持ったかというとそれはドスまりさの生い立ちに関係する。 ドスまりさは親のその親、そのまた親もドスまりさという純餡統種のドスまりさだった。ドスは突然変異で急に大きくなる者も居るがこのまりさは違う。 だからドスまりさは父ドスまりさから子ゆっくりのころからドスになる為の英才教育を受けていた。先祖代々この群れをおさめるドス一族はそうしてきたのだ。 ドスまりさは父ドスまりさからたくさんのことを教わった。 餌場の探し方、食べられる草や虫、きのこの見分け方。 れみりゃ、ふらんなど捕食種を撃退する方法。 ふゆごもりにおける食料の貯蔵法。 長としての他の群れとの付き合い方。 ドススパークの撃ち方にそれに必用な魔法キノコの探し方。などなど。 そのなかでも父ドスまりさが一番熱心に教えていたことしていたのは「群れの掟の遵守」についてだった。 ゆっくりは弱い。その上愚かだ。だから掟が必用だ。これがないとすっきりーし過ぎで群れのゆっくり達が増えすぎて食糧難になったり、ゲスが調子にのってやりたい放題やるようになるからだ。事実父ドスまりさは掟をやぶったゆっくりは容赦なく厳罰をもって処分しておりそんな父をドスまりさは深く尊敬していた。 だからそれが仇になろうとは父ドスまりさもドスまりさも思いもしなかった。 ある日群れのゆっくりによる反乱が起きた。 要求は群れの掟の変更とドスの退陣だ。冬ごもりの為の備蓄のノルマやすっきりーの制限がこの群れは他の群れより厳しかったのだ。しかも1回でも破ると問答無用で追放を含む処分をされるという徹底振り。 おかげで群れはギスギスした雰囲気が漂っておりそれが反乱の原因となったのだ。 逆を言えばこれほど掟の遵守を徹底させたからこそ長年この群れは存続できたのだがそんなドスの考えなど群れのゆっくりたちは知りもしない。そして父ドスまりさは口下手で誤解されやすいゆっくりだった。 結局ドススパークと巨体を持つ父ドスはなんとか反乱を鎮めたが、多数の死傷ゆっくりが出てしまい群れのゆっくりの数は半減。 父ドスのつがいのれいむとドスまりさ以外の姉妹たちも反乱のさなか死んでしまった。 さらに残ったゆっくりも「ゆっくりごろしのドスはしね!!」などと罵りながら他の群れへ移っていき、数世代続いていたドスまりさの群れの歴史はここに幕を閉じた。 だからドスまりさは誓った。自分は絶対群れのみんなをゆっくりさせよう。そんなドスになるのだ、と。 新たなゆっくりプレイスを目指し旅たつドスまりさ。この群れが滅びた要因のひとつに長年ゆっくりが草や虫を採っていたので土地がやせてしまい食料が少なくなっていたからというのがあるからだ。 まだ子ゆっくりだったドスまりさだが、既に体は成体より少し大きった。また父ドスの教えに山の移動の仕方もあった為、十分ゆっくりプレイス探しの旅をすることができた。 しかしゆっくりプレイス探しはそう簡単ではなかった。すでにドスや長がいる群れのほうが多く、まだ子ゆっくりのドスは相手にされなかったのだ。 新たな群れを作ろうにもいい餌場は既に他の群れに取られている。ゆっくりプレイス探しは難航した。 しかし奇跡が起こる。理想のゆっくりプレイスを発見したのだ。 その場所は食べても食べても食べきれないほどご飯があり、捕食種、野生動物もいない。 その場所こそ現在まりさの住んでいるゆっくりプレイスなのだ。 そして現在に至る。 今夜はドスの呼びかけにより宴会だ。食糧事情が良いとこのようなことまで可能になる。持ち寄った食料で食えや歌えの大宴会だ。 「ゆーゆー、ゆっゆっゆっゆーきゅりしていっちぇねー。」 「ゆーん。おちびちゃんたち、おうたがじょうずだよ。」 「おちびちゃんたちはうたのてんさいなんだねー。わかるよー。」 「さいこうにとかいはおちびちゃんたちねー。」 れいむ種の子供達による合唱を絶賛する大人ゆっくりたち。次は子まりさたちによるラインダンスだ。そして子ありすによるとかいはミュージカルが予定されている。 この群れでは狩りの仕方などより優先して、歌や踊りなどの娯楽が子供達に教えられる。餌場にいけば食料が豊富である為、バカでも餌をとって来れるからだ。 そして特筆すべきは子供達の数だ。普通はひとつのつがいに5匹の子供たちまでがなんとか育てられる限界だが、ここの群れは10匹を超えている家族が当たり前のようにいる。 子供は多ければ多いほどゆっくりできると信じているゆっくりたちにはうれしいかぎりだ。 それもこれもこのゆっくりプレイスのおかげだ。こんな素晴らしいゆっくりプレイスに住める自分はきっと特別な存在に違いない。 そうまりさは自惚れていた。 「ゆーん。みんなちよっとこっちに注目してね!!」 急にドスが大声をあげた。なんだなんだとドスのほうを見る群れのゆっくりたち。 「これから新しい仲間を紹介するよ。みんなこっちを見てね。」 そう言いながら新入りに出てくるよう促すドス。 ピンとたったうさ耳。燃えるように赤い目。 出てきたのはゆっくりうどんげだった。まりさが昼間に見たゆっくりだ。 そういえば今回の宴会は急に決まった上、子供達も含めた全員参加が義務付けらていたので不思議に思っていたが、新しい仲間を紹介する為だったのか。 そう言えば前にゆっくりできないぱちゅりー達が群れから出て行ってからおうちが余っていたっけ。 そう納得するまりさ。 「そ・それではうどんげに挨拶をしてもらうよ・・」 なぜか声が震えるドス。しかし群れのゆっくりたちは気づかない。 「さっきドスが紹介してくれたうどんげだよ。」 そう言い全員が自分を見ているのを確認すると 「・・みんなゆっくりしてってね。」 と言った。 不思議なことにゆっくりしてってねと言われたのに皆ゆっくりしてってねと返そうとしない。 ただポカンとしたように口を開けたままうどんげを見ている。 れいむもありすもちぇんもみょんも。赤ゆっくり、子ゆっくりも、成体ゆっくりも。 皆うどんげから目をそらせない。 その映えるように輝く赤い瞳を食い入るように見つめる。 当然まりさもである。なんだかあの瞳を見ていると、とてもゆっくりできるような気がするのだ。 「みんな・・・ゆっくりさせてあげられなくて・・・ごべんねぇ・・・」 なぜかドスは泣いていた。 ドスなぜ泣いてるの?まりさはこんなにゆっくりしているのに。そう言おうとするまりさだがなぜか口が動かない。 そのまままりさの意識は闇へと落ちていった。 「ふう。さすがに疲れたわね。」 そうドスへつぶやくうどんげ。ドスはまだ泣いていた。 「あなたが決めたことでしょう。メソメソしないでね。」 そっけなくドスへ言い放つうどんげ。その言葉には一切遠慮がない。 「それにしてもすごい眺めね。」 広場いっぱいのゆっくりたち。全員催眠術でもかかったように半目でとろんとした顔をしている。 うどんげの特殊能力「狂気の瞳」の効果だ。 それにしても群れのほとんどが戦力にならない赤、子ゆっくりとは。 全く自制せずすっきりーしている証拠だ。しかも子供には狩りの仕方なども教えず、教えているのは生きる為に必要ない歌や踊りなどらしい。 うどんげは呆れた。 なぜこんな事になったのか。話はドスがゆっくりプレイスを探していた頃まで遡る。 数年前ドスはゆっくりプレイスを探していた。 ドスは思った。新しいゆっくりプレイスは食料がたくさんある場所がいいと。 食料がたくさんあれば、すっきりーをたくさんしておちびちゃんがたくさんできても、食糧不足にならないし、群れのみんなも食べ物のことでギスギスしないですむ。 しかし当然そんな場所はそう簡単に見つかりはしない。あったとしてもほかのゆっくりがその場所に群れを作っている。 途方にくれていたドスだが、ある日信じられないものを目の当たりにする。 なんと野菜が大量に捨てられてたのだ。しかもまだ食べられる新鮮なものが。 人間で言えば道に札束がいくつも落ちているような信じられない光景。ドスは興奮した。 しかし同時にこれは人間さんのものでは?とも思った。 人間さんのものに手を出したゆっくりはゆっくりできなくされる。父ドスにも教えられたこのあたりのゆっくりの常識だ。 そう悩んでいたら人間がやってきた。ドスまりさは思い切ってその人間に聞くことにした。 「ゆう。ゆっくりまってね。人間さん。」 「わっ。なんだ。ゆっくりか。なにか用かね?」 「人間さん。ゆっくり聞きたいことがあるんだけど・・・あそこにあるおやさいさんはたべてもいいの?」 おずおずと聞くドスまりさ。 「ああ、あれか。あれは売り物にならない野菜なんだ。別にかまわないが。」 「ゆゆっ。ありがとう。」 「あんなもので良ければ毎日のようにでるよ。あそこは村の生ゴミ捨て場だから。」 「ゆっ・・まいにち・・・」 あれほどのお野菜さんが毎日・・・ここだ。この場所こそゆっくりプレイスだ。 この日よりドスはこの場所に群れを作ることにした。近くの山に巣穴をつくり、周りに住むゆっくりから移住するゆっくりを集めた。 自分の群れに入れば毎日お野菜が食べれると。 新参のドスの言うことなど信じない用心深いゆっくりも多かったが、野菜が毎日食べられると聞いてそれにひかれるゆっくりもまた多く、すぐ群れにゆっくりが集まった。 こうしてドスは新しい群れの長として就任した。あの時あった男は町内会の会長を務めており、またゆっくりの愛好家でもあったことが幸いし、村人も邪険にはしなかった。どうせ放っておけば腐るしかないものなのだ。ゆっくりにやっても大差ない。 それに周りの群れの長達は「人間には関わるな。まして畑に手を出すゆっくりは厳罰」という主義だったので、この野菜の山をドスの群れで一人いじめできたのだ。 思えばこの頃が一番楽しかった。 「にんげんさん。いつもおやさいさんありがとうなんだぜ。」 「ははっどういたしまして。」 「ありすちゃん。玉子焼き食べるかい?」 「ゆゆーん。とかいはなおあじね。」 こうしたのどかな光景がいたるところで見られたのだ。もし父ドスが生きていてくれれば目を細めて喜んでくれただろう。 そう思うドスまりさ。まさにドスまりさのゆん生の絶頂期だった。 しかし絶頂である以上これが頂上。あとは転げ落ちるしかない。 それをドスまりさは知らなかった。 数年後 「おねがいじまずぅ!!会長さん。ドスの群れをつぶさないでくだざいぃぃ。」 そう会長に泣き叫び懇願するドス。それを見て渋い顔をする会長。 なぜこのようなことになったのか。原因は一言で言えばゆっくりの傲慢にあった。 最初の頃は喜んで野菜を食べていたゆっくり達だが、それが当たり前になるにつれて 「ゆぅ。きょうもおやさいさんか。たまにはあまあまがたべたいのぜ。」 「そうねぇ。まえににんげんさんのくれたあまあまはとかいはだったわぁ」 などというゆっくりがちらほら出始めたのだ。当然人間に対する感謝も薄れ始める。 元々この群れにきたゆっくりは野菜にほいほいつられたバカや、狩りの下手な無能なゆっくりばかりなのだ。 賢く有能なものなどほとんど居ない。 こうなるのも当然である。 しかしこの頃はまだ良かった。そんなこと言うのはごく少数派であり、さすがに人間と面と向かって文句をいうものは居なかったからである。 むしろ問題は群れで生まれた子供達の世代が成体になった頃からおき始めた。 ドスの言うことを無視して人間に迷惑をかけるようなものが出始めたのである。 この世代にとって野菜が食べられるのが当たり前で、人間を野菜を運んでくる召使いのようにバカにした個体が多く居たのだ。ちなみに子供に狩りより歌や踊りを教えるようしたのもこの世代からである。 人間にあまあまを強要するもの。 人間に暴言を吐くもの。 農道にうんうんを撒き散らすもの。 そんなゆっくりが出るたびにドスはふもとの村まで謝りにいかねばならない。 本来ならそんなゆっくりは追放するなり、見せしめに処刑するなりしてでも群れの秩序を保たねばならないのだがドスまりさにはそれができなかった。 処刑どころか厳しくしようとしただけで謎の頭痛と餡子を吐き戻してしまいそうな嘔吐感におそわれるのだ。 ドスまりさは知らないが、父ドスが厳しく群れを統治したがうえに家族を失ったトラウマが深層心理に残っていたのである。 もちろんドスもただ手をこまねいたばかりではない。 比較的賢いぱちゅりーなどに頼みそういったゆっくりに注意してもらうよう頼んだのだ。 しかし物事を善悪でなく、ゆっくりできるかできないかでしか判断しないバカゆっくりのことである。 当然ぱちゅりーの言うことなど聞きはしない。それどころかぱちゅりー達をゆっくりできないゆっくり扱いしてバカにしはじめた。 最後にはぱちゅりーも愛想を尽かし、比較的賢いゆっくりたちと共にこの群れから出て行ってしまった。 こうなるともうやりたい放題だ。 好き放題にすっきりーしまくり群れの赤、子ゆっくりが一気に増え、群れの8割以上を占めるようになったり、 「みゃみゃ。あのまりしゃはどうしてゆっきゅりしてにゃいの?」 「あのまりさとありすたちはちがうのよ。ありすたちはとかいはなゆっくりプレイスにすむことがゆるされたとくべつなゆっくりたちなの。あんないなかものとはちがうのよ。」 などと他の群れの一生懸命狩りをしているゆっくりを見下し、挑発する始末。 おかげでドスまりさの群れは他の群れから敵対視されるようになり一気に孤立した。 挙句の果てに「新鮮なほうが良いから」などと言い、人間の目を盗んで畑あらしをするようなものまで現れた。 さすがに忍耐強かった村民も我慢の限界で加工所による山のゆっくり一斉駆除を申請したのだ。 「おねがいじまずぅ!!せめて他のむれはかんべんじでくだざいぃぃ。他のむれのゆっくりたちは関係ないんでずぅぅぅ。」 何度お願いしても無理だと言われたドスは自分の群れが無理ならせめて他の群れへの駆除はやめてくれと懇願した。 他の群れには迷惑をかけてはいけないと父に教えられたドスまりさにとって自分の不甲斐なさのせいで他のゆっくりに迷惑をかけるようなことは到底耐えられなかったのだ。 確かに関係ないゆっくりがかわいそうだなと思った会長は条件を出した。 条件とは群れのゆっくり全員を一箇所に集めて大人しく加工所の職員に捕まること。一匹でも逃げたり抵抗したらアウトだ。 それさえできれば他の群れは駆除対象とせず、更生の余地があるとして群れのゆっくり達にも生き残る為のチャンスをやろうというのだ。 問答無用の一斉駆除に比べれば破格の好条件といえる。 ドスまりさは迷った。 群れのゆっくり達を大人しく加工所の人間さんへ引き渡すなんて不可能だ。 あのゆっくり達が自分の言うことを素直に聞くとは思えない。 では逃げるか? 今のゆっくりプレイスを捨て他の場所に移住するのだ。 しかしこれも不可能だ。 今群れにいるのはほとんどが赤、子ゆっくり。長旅できる体力などない。 しかも大人ゆっくりたちもろくに狩りなどできないのだから話にならない。 最初から失敗が目に見えている。 他の群れに助けを求めることもできない八方塞がりの中、ドスまりさはある噂を思い出す。 西の丘に一人で住んでいるというゆっくりうどんげの噂だ。 そのうどんげは不思議な力を持っており相手の目を見るだけで何匹ものゆっくりを強制的にゆっくりさせられるのだと言う。 ドスは西の丘へと急いだ。 「なにいってるのよ。ゆっくりしないで説明してね!!」 突然、流れ者の自分の住処にドスが来ただけでも驚いたうどんげだが、ドスから聞いた話に更に驚いた。 自分の群れのゆっくり全員にうどんげの狂気の瞳をかけて欲しいというのだから。 「ゆう・・・実は・・・」 ドスは事情を話した。その上でうどんげに協力を要請した。 うどんげの仕事は狂気の瞳で群れのゆっくり達をゆっくりさせ、ゆっくり達を逃走や抵抗させないようすることである。 最初は断ったうどんげだが、ドスの熱意に押される形で渋々承知した。 もし群れのゆっくり達にもう少し観察力があれば、昼間ニコニコと笑うドスの顔に涙の後があったことに気づいただろうが、そんなゆっくりは一匹もいなかった。 「それじゃあ私はかえるわね。狂気の瞳の効果は明日のお昼ぐらいまでは続くから、明日の朝、加工所の人間さんが来るまでは十分持つわ。」 「ありがとううどんげ。本当に。」 「どういたしまして。ところでドスはこれからどうするの?」 「ゆう。ドスはこれからゆっくりやらなくちゃならないことがあるんだよ。ドスとしての最後の仕事が・・・」 「そうなの?わかったわ。」 そう言い住処へ跳ねていくうどんげ。その様子を見送った後ドスも動き始めた。 月明かりの下、10分ほど跳ねていくと目的地に着いた。 ドスまりさが来たのは切り立ったがけの上だった。 崖の下をのぞいてみる。目のくらむような高さ。落ちればひとたまりもないだろう。 思えば父さんもそうだったなぁ。ドスまりさは父ドスの死んだ日のことを思い出していた。 あの日、群れにいた最後のゆっくりが出て行った日のことだ。 父ドスまりさの居る洞窟で爆発音がしたので急いで駆けつけた時、もう父ドスまりさはこときれていた。 死因はドススパークの暴発。父ドスは代々続いていた群れを自分が潰してしまった自責の念から自殺したのだ。 ドスまりさは泣きながら父の墓を作り、決意した。父に代わりゆっくりした群れのドスになろう、と。 しかしこの様だ。自分もまた群れをゆっくりさせることはできなかった。 「父さん、ゆっくりそっちにいくよ・・・」 そう言うとドスまりさはふわりと崖から飛び降りた。 ・・・バカよ、あなた。様子がおかしいんであとをつけてみたら・・・・ ・・だれかいるの?ドスにはもうなにもみえないよ・・・・ ・・もうあなたは助からない。私にできることはこれぐらいしかないわ・・・ ・・・ゆっあかいひかりさん・・・なんだかとても・・・ゆっくりできるよ・・・ ・・思い出してドス・・あなたが子供のとき・・・・ゆっくりできていたあの頃を・・・ ・・・ああ・・・とても・・・・ゆっ・・く・・・り・・・・・・・・・・・ 安らかな顔で死んだドス。それをうどんげがやりきれなそうな目で見ていた。 次の日の朝、ゆっくりたちを駆除しに来た加工所の職員は驚いた。 数百匹のゆっくりたちがとろんとした表情で大人しく捕まるのを待っていたからである。 不思議に思ったが逃走や抵抗するようでなければ、更生の余地ありとして加工所で飼いゆっくりにふさわしいかテストするのがこの加工所の規則である。 ドスの目論見どおり群れのゆっくりたちは潰されることなく加工所へトラックで運ばれることとなった。 しかしドスは忘れていた。 群れのゆっくりたちが救いようもないバカぞろいである事を。 「ちっ。また×かよ。」 青年は思わず声に出してしまった。ここは加工所。そして青年はその職員である。 ここにはゆっくりの餡子の質で飼いゆっくりに必要な品性と知能があるか調べる餡子チェッカーという機械が設置してある。 判定は優、良、可、不良の4つで分けられ、優、良、可なら飼いゆっくりへの道が開けるが、不良ならそのまま殺処分である。 数百匹もいるのだからそのうち何匹かは合格すると思っていた青年だが、群れ全て通し終えてなんと合格者0。 子ゆっくり達は歌や踊りが得意だというので芸能ゆっくりの可能性を考えて一応見てみたが、歌は雑音、踊りは好き勝手に跳ね回っているようにしか見えなかった。 芸能ゆっくりを目指すにはあまりにレベルが低すぎる。 一応一家族ずつ面接形式の性格テストも行ったが、「ここから出せ」だの「くしょじじい」だの言って全くこちらの話を聞こうともしないようなゆっくりばかりで全く話にならなかった。 これほどバカしかいない群れも珍しい。 何だって親父はこんな奴らのために・・・。そう憤る青年。 実はこの青年、ドスを擁護していた会長の息子である。偶然この加工所に勤務していたのだ。 更に言えば青年はドスまりさのことも知っていた。 父の手伝いで町内会の会合に出ることも多く、群れのゆっくりのしでかした愚行を謝りにくるドスに会ったことが何度かあるのだ。 自分がなにかしでかした訳でもないのに大きな体を小さくして、村民達の罵声に対し土下座(?)で謝罪し続けるドス。 可哀想だとだと思った青年が会合の後、余ったお茶菓子を与えるとドスは涙を流してお礼を言った。 おそらく相談する相手など誰もいないのだろう。ドスは青年に色々と話してくれた。 自分の生い立ち、反乱による家族の死、群れの消滅、父ドスがそれを苦に自らも命を絶ったこと。 群れのゆっくりは自分の言うことなど何も聞いてくれないこと。 なんとか躾けようとすると父ドス達の死に顔を思い出し、謎の頭痛、吐き気に襲われること。 そんなドスまりさも死んだ。近くの崖の下で死体が発見されたそうだ。 どう考えても誤って落ちるような場所ではないから父親と同じ自殺と考えていいだろう。 親父も今回の件の責任を取るため今期限りで長年務めていた町内会の会長を辞めることになっている。村人には村八分にされ、最近すっかり老け込んでしまった。 それもこれもこのクソ饅頭どものせいなのにこいつらときたら・・。 「ちぇんは・・ちぇんはゆっくりしたいよー。わかってねー。」 「ありしゅをだれだとおもってるにょ!!くしょじじいはさっさときょきょからだしてにぇ!!」 「ドスー!!まりささまがゆっくりできないのぜ!!はやくたすけにくるのぜ!!」 「ドスはなにをしてるの!!かわいいれいむをはやくたすけてね!!」 口々に身勝手な妄言をわめき散らすゆっくり達。餡子チェッカーなど使わなくてもどうしようもないクソ饅頭とわかる。 ドスが自分達を必死で守ろうとしていたこと、最後のチャンスを与えてくれたのにことごとく棒に振ってしまったことを全く理解していない。 かわいいから。 とかいはだから。 素晴らしいゆっくりプレイスに住むことを許された特別なゆっくりだから。 そんな訳のわからない戯言を吐いて、ドスや村民達の厚意で成り立っていたあの群れを当然のことのように思っているこいつら。 まるで既得権益を得るのが当たり前のように感じている政治家や小役人を見ているようで反吐が出る。 男は機械に電源を入れた。餡子チェッカーではない。その隣の機械だ。 これはゆっくりを殺処分する為の機械。中にあるプレス機がゆっくりを一瞬で圧殺し、死体を乾燥させ、畑などに使う肥料にする。 これを使えばゆっくり達は痛みを感じることもなく死んでいくだろう。 だがその前にどうしてもしなければならない事がある。 青年はそばに置いていた袋からあるものを取り出した。 ドスまりさの帽子だ。死体はそのまま山に埋葬されたが帽子だけは個体確認のため加工所へ持ってきたのだ。 「どうしてドスのおぼうし、じじいがもってるのぉおおお!!」 「わからないよぉおおお!!」 飾りで個体認識するゆっくりのことすぐに自分の群れのドスのものと分かったようだ。 泣き喚くゆっくり達に男は事情を説明した。 ドスは崖下で自殺していたこと。原因は群れのゆっくり達の勝手な行動にあること。 あの群れで食べていた野菜は会長をはじめとする人間の善意であったこと。 あのままでは群れは全員駆除され、他の群れのゆっくり達も危なかったこと。 それを危惧したドスはどうしたかは解らないが、ゆっくりたちを無力化させ、おかげでその場で駆除されるのを免れたことなど。 自分の推測を交えて青年はゆっくりたちにも理解できるよう粘り強く説明した。 死ぬ前にせめて罪を悔い改めて欲しかったから。 もしその上で罪を償いたいという者がいるようならゆっくりでもできる仕事を紹介しようと。 しかし青年はこの群れを甘く見ていた。 「それでじじいはなにがいいたいの?」 「えっ。何って・・・」 思わぬ1匹のまりさの質問に驚く青年。 「お前らのせいでドスは死んで、多くの人が迷惑したんだぞ!!可哀想とか済まなかったとかあるだろう!?」 「なんで?」 「なんでておまえ・・・」 「ドスがまりさたちをゆっくりさせるのはとうぜんだよ。にんげんさんがくるんならドスがやっつければいいんだよ。それをせずにしんでしまうなんてドスはしょくむたいまんだよ。」 「なに言ってんだ・・・?お前?」 「だってまりさたちはとくべつなゆっくりプレイスにすむことがゆるされたえらばれたそんざいなんだよ!!だからドスもにんげんさんたちもまりさたちにほうしすることはあたりまえのことなんだよ。」 あまりの言い草に絶句する青年。 「そーだよまりさのいうとおりだよ!!」 「ありすたちをゆっくりさせられずにしぬなんて、ドスはいなかものよ!!」 「れいみゅたちはときゅべちゅなゆっくりにゃんだよ。ゆっきゅりしてとうじぇんなんだよ。」 絶句した青年を言い負かした勘違いしたのか次々に追従するゆっくりたち。 ・・・・・・・ 青年の中で何かが切れた。 これまで青年はこのゆっくり達に憤りながらも、ドスや父が守ろうとしたものである以上できる限りのことをしてやろうと思った。 バカならバカなりに生きて行けるような場所を紹介し、それが出来ないのならせめて苦しまぬよう一瞬で殺してやるつもりだった。 だが違った。こいつらはクズだ。慈悲をかける必要など全くない。 青年は機械を止めた。もちろんこいつらを許したわけではない。 死ぬほど苦しい目に合わせて・・・そして解らせてやるのだ。自らの愚かしさを。 だがただ虐待しただけではこいつらは自分達のバカさかげんに気づかない。ドスも浮かばれないだろう。 青年の目に憤怒の炎がともった。 数日後。 青年はゆっくりたちを荷台に積み、トラックを走らせていた。 目的地は虹浦市のゆーぶつえん。そこへこいつらを届けるためだ。 「しんりーだーのたんじょうよ。」 「さすが、だーりん。れいむもはながたかいよ。」 「ぴゃぴゃはおしゃになるんだね。」 荷台から聞こえるゆっくりたちの癇に障る声を聞きながら青年はトラックを走らせ続けた。 青年は事前にゆっくりたちに話しておいた。 今から行く場所はゆーぶつえんといわれる場所でゆっくりたちがたくさんいる場所であること。 その場所で飼われているゆっくりたちはゆっくりできること。 この事を話したら今までの罵詈雑言をやめ、のうてんきに喜びはじめるゆっくりたち。 その挙句そんな場所を行けるのは、あの時寝ぼけた妄言を吐いたまりさのおかげということになり、まりさはドスに代わる新しい長になるということになった。 悪いにんげんさんに卑怯な手を使われ捕まったが、勇気あるまりさの言葉(笑)によりにんげんさんは改心し、自分達に新しいゆっくりプレイスを献上した。 だからまりさは英雄。新しい長にふさわしい。そういう理屈らしい。 どこをどうしたらそうなるか解らないがそう本気でそう思っているのがゆっくりクオリティなのだ。 「ゆゆーん。みんなまりさについてきてね。あたらしいゆっくりプレイスをまえいじょうのらくえんにするよ!!」 「えい!!えい!!ゆー!!!!」 ゆっくりたちの大合唱が車内にこだまする。正直このまま車ごとゆっくりたちを谷底にでも叩き込みたい気分だ。 だが、まあいい。青年は笑った。 ここで殺したらこの三日間の苦労が水の泡だ。こいつらをゆーぶつえんに卸すためにどれだけ苦労したか。 ゆーぶつえん側は二つ返事でこのゆっくりたちの受け入れを引き受けてくれたが、問題は加工所の所長のほうだった。 世間体がどうだの、ゆっくり愛護団体がどうだの言ってなかなか首を縦に振らず、結局認めさせるのに3日もかかってしまった。 苦労した分こいつらには地獄を見てもらわねばならない。そう地獄を。 それにしてもおかしいと思わないのだろうか。 珍しくもなんともない通常種しかいないこの群れを数百匹も引き取るなんて異様だと。こいつら一匹として感じていないらしい。 まあこいつらは自分は特別な存在(笑)だと本気で信じているらしいからな。それが当然なんだろう。 青年はニヤニヤしながらトラックを走らせた。 「よーし着いたぞ。」 「ついにゆっくりプレイスについたんだねー。わかるよー。」 「きょきよをれいみゅのゆっきゅりぷれいしゅにするよ!!」 着くなり騒ぎ出すゆっくりたち。いちいち本当にうるさい奴らだ。 青年は無視してゆーぶつえんの職員と共にゆっくりたちの入っている檻を裏口から運び始めた。 「あらかべにとかいはなもようがかいてあるわ。」 「ゆゆっきれいだねっ。」 外壁にある模様に気づくゆっくりたち。しかしそれは模様ではなかった。 カラースプレーで書かれた文字、つまりは落書きだ。 それにはこう書いてあった。 ”このゆーぶつえんは虐待者による虐待プレイスです。みんなゆっくりしんでいってね。” よく見れば落書きと同じくこのゆーぶつえんを糾弾する張り紙があちこちに張ってあるのだが文字の読めないゆっくりたちは気づかなかった。 「ここが新しいゆっくりプレイス?まあまあね。」 「まるでもりさんのなかにいるみたいだね。」 「ゆーん。いっぴゃいにんげんしゃんがみちぇるよ!!」 檻から出され新天地に降り立つゆっくりたち。といってもゆーぶつえんである以上そこも巨大な檻なのだが。 横長のこの檻は奥行き15メートル、横幅は100メートルあり、天井もかなり高く作ってある。 また木や植物も茂っており擬似的な森に近い環境だ。そして壁にはなにやら洞穴のような大きな穴がある。 そしてたくさんの見物客がこちらを見ていた。 「みんなここをまりさたちのらくえんにするよ!!」 「ゆっくりりかいしたよ!!!」 リーダーまりさの掛け声に意気揚々と応えるゆっくりたち。その目は希望に満ちている。 しかしまりさたちは気づくべきだった。 頭上の、そして木や草に隠れ潜む先住者に。 見物客の目がただゆっくりを見物するというものではなく、もっと別のなにかを期待するものだということを。 そんななか子ありすが草の陰にゆっくりを発見した。 「ここはありすのゆっくりプレイスよ。いなかものはでていってね!!」 後から来たのは自分達でありながらあまりに身勝手で不遜な言い草。 これが子ありすの最後の言葉になった。 バクリ。 次の瞬間子ありすは頭から丸飲みされた。まわりのゆっくり達の顔が一気に青ざめる。 ウェーブのかかったピンクの髪。 ナルトのようなマークをつけた帽子。 そう子ありすを丸飲みしたのは捕食種のゆっくりゆゆこだった。通常のドスクラスの大きさではなく通常種サイズではあるが。 「こぼねー。」 「ぎゃぁあああああああ!!!ゆゆこだぁあああああ!!!!」 美味しそうに子ありすを噛みしめるゆゆこと対照的にパニック状態になるまりさたち。 我先にとゆゆこから逃げようとする。 「いじゃい!!いじゃいよ!!」 「ちゅぶれりゅうぅううううう!!!!」 「もっ・・とゆっくり・・したかった・・・」 結果赤、子ゆっくりが数匹潰れたが皆それどころではない。 この群れは捕食種の縄張りには住んでおらず、たまに来てもドスが迅速かつ一撃で倒していた為、捕食種の恐怖に慣れていないのだ。、 そうやってなりふりかまわず逃げた長まりさたちだが逃げた先にはさらなる地獄が待ち受けていた。 「ぎやぁああああ!!!どぼじでこっちにもゆゆこがいるのぉおおおお!!!?」 「こっちにはるーみあがいるわぁあああ!!!」 「ふっ、ふらんとれみりゃもいるんだぜ!!」 「わからないっ!!!わからないよー!!!」 そう捕食種は一匹ではなく長まりさ達を囲むように複数居たのだ。さらにゆっくりを不安にさせる羽音が頭上から聞こえてくる。 「うっうえに、れみりゃとふらんがぁああああ!!!」 さらに追い討ちをかけるように上空から胴付きふらんと胴付きれみりゃが降りてきた。どうやら天井の梁に潜んでいたらしい。 そして虐殺ショーが始まった。 「こぼねぇー。」 「ぎやぁああああ!!!ままたしゅけてぇえええ!!」 あるゆゆこは子ゆっくりたちを貪り食った。 「うー。ねえさま、ぱす。」 「ないすぱすだどー。ふらん。」 「やべてぇえええ!!!れいむはぼーるさんじゃないぃいいいい!!!」 ある姉妹のふらんとれみりゃはれいむをボール代りにサッカーをし始めた。 恐らく死ぬ寸前まで痛めつけて餡子が甘くなったところを吸うつもりだろう。 「うまいのかー。」 「しあわせなのかー。」 「ゆっきゅりできりゅのかー。」 「やべでぇ・・・こんなのとかいはじゃ・・な・・い」 こちらのありすにいたってはるーみあ親子に生きたまま丸かじりされている。かなり悲惨な光景だ。 「うわーすごいわねー。」 「生きたままバリバリ食ってるぞ。あのるーみあ。」 「ヒヤッハーここは最高だー!!なあれいむ。」 「こわいよぉおおお。ゆっぐりでぎないぃいいいい!!!」 そんな光景を見ても興奮しだす入園者たち。彼らはこれを見る為にこのゆーぶつえんにやってきたのだ。ちなみにこのゆーぶつえんはゆっくりの同伴が可能である。 そんななか一人だけこのショーを楽しめない人間が居た。 彼は愛でお兄さんで愛しのてんこをゆーぶつえんに連れてきただけなのだ。 「ごめんよ、てんこ。まさかここがこういう場所だなんて・・・」 「いいのよ、おにいさん・・(ハァハァ、なんてすばらしいばしょなのかしら。てんこもれみりゃやふらんにいじめられたいわ。こんなふうにいじめられたらってそうぞうするだけで、てんこのまむまむはだいこうずいよ)」 「ああ!!てんこ、しーしーもらしてるじゃないか。そんなに怖かったのならこんなとこすぐに出よう。」 「え、これはその・・・(いえないわ。こんなはしたないことかんがえてるなんて・・・)」 そう思いつつも羞恥プレイに近い状況にますます興奮するてんこ。 こうしててんこは駄目なほうへ駄目なほうへ加速度的に進んでいくのであった。 そんななか長まりさはガタガタと震えていた。 「まりさ、れいむをたすけてね。」 「まりさはおさでしょおおおお!!!なんとかしてよおおお!!」 長であるまりさに助けを求めるゆっくりも多かったがすべて無駄だった。 まりさもまたこの状況を解決するすべなど知らないのだから。 (ドス。まりさたちを助けて、ドス。) そう思いながらドスに助けを求める。もうドスはこの世に居ないにも関わらず。 しかし思いが通じたのか。壁にあった大きな穴から這い出る巨大なゆっくりがいた。 そうドスまりさである。ここにもドスまりさはいたのだ。 金髪のなかに白髪がちらほら見えるのでかなりの老ドスまりさなのだろう。しかしドスであることには変わらない。 老ドスに向かってはねる長まりさ。そして開口一番こう叫んだ。 「ドス!!まりさたちを助けてね。」 ドスなら助けてくれるはずそう信じて。しかし老ドスの答えはまりさの予想に反するものだった。 「いやだよ。」 そうまるで石ころでも見るかのような無機質かつ無表情でまりさを見つめる老ドスまりさ。 前のドスはいつも自分達をまもってくれたのに・・・それが当たり前だったのに・・・ まりさはただ呆然とするしかなかった。 「始まったようだな。」 ゆっくり達の悲鳴を聞きながら青年は帰り支度をしていた。 青年はけして嘘は言っていなかった。 このゆーぶつえんで飼われているゆっくりは皆ゆっくりしている。これは事実である。 しかしまりさ達は飼われるためにここに来たのではない。 このゆーぶつえんの正式名称はれみりゃパーク。捕食種専門のゆーぶつえんだ。 つまりまりさたちは捕食種の生餌となる為このれみりゃパークにきたのだ。 長まりさ達は自分達がゆーぶつえんで飼ってくれる物だと思っていたがとんでもない。 あんなバカゆっくりども世界中探しても受け入れてくれる場所などあるはずないのだ。 ちなみにあの檻にはドスまりさもいるがけして長まりさ達の味方にはならない。 なぜならあのドスまりさは生餌の個体調整及び監視の為に人間に雇われたドスなのだから。 精々思い知るがいい。今まで自分達がどれほど恵まれた環境に居たかということを。 青年はれみりゃパークを後にした。 数日後 青年はれみりゃパークに来ていた。長まりさに会う為に。 檻の前で手を振ると長まりさはゆっくりとは思えないスピードでこっちに来た。全身ボロボロなところを見るとよっぽど酷い目にあっているらしい。 長まりさはいろいろ話してくれた。 捕食種たちに子供たちが半分以上食べられたこと。 いつ捕食種に食べられるかと考えると夜も眠れないこと。 ドスはいつもゆっくりできないことを言ってまりさたちを虐めること。 長だからといって群れがゆっくりできない原因はすべてまりさのせいにされること。 最後は涙まじりに語ってくれた。 「ゆう・・おにいさん。まりさ、まちがってたよ。まりさたちはとくべつなんかじゃなかったんだよ。それなのにドスやにんげんさんたちがしてくれたことをあたりまえだとおもってた・・・いっぱいありがとうってするべきなのに・・・」 そう言うと急にまりさは青年のほうをきっと見た。 「だからおねがいします!!まりさたちをここからだしてくださいっ!!ここからでて、こんどこそしんのゆっくりプレイスをみんなでつくりたいんですぅううう!!」 土下座するかのように頭を下げるまりさ。どうやら本気で反省したようだ。 思えばこのために苦労してれみりゃパークにこいつらをいれたのだ。そろそろ許してやってもいいかもしれない。 「顔を上げてくれ。まりさ。」 そう優しく言う青年。それを聞いて恐る恐る顔を上げるまりさ。 「反省してくれたんならそれでいいんだ。俺はもう怒っちゃいない。許してやるよ。」 「ゆ・・ゆるしてくれるの?・・おにいさん」 「ああ。えらいぞ、まりさ。自分で自分の過ちがわかるなんて。そこらのゆっくりじゃできないぜ。」 「お・・・おにいさん・・・まりさ・・・まりさ・・・」 「だが残念ながらちょっと遅すぎたかな。」 「えっ・・・・・」 「もう既にお前はれみりゃパークの所有物なんだ。俺にはどうすることもできない。」 「それって・・・」 「残念だったなまりさ。加工所の時点でそれに気づいていれば俺にもなんとかできたんだがな。もう手遅れだ。」 「おにいさぁぁあんんんん!!!までぃさたちをみすてないでぇえええええ!!!」 「まあ精々そこでゆっくりしていってくれ。俺はもう帰るから。」 「おにいさぁぁぁぁぁあんんんん!!!うわぁあああああああ!!!!」 まりさの悲鳴を背に受けながら青年は檻の前から立ち去った。 そこにはとてもゆっくりした群れがあった。だがもうない。 ゆっくりたちは知るべきだった。節度、礼儀、そしておのれの身の丈を。 この群れが滅んだ理由。 それはゆっくりたちの傲慢にほかならない。 あとがき いつもご愛読ありがとうございます。長月です。 今回前半でドスがあまりに報われないゆん生であり、コメントでドスがかわいそうと言う意見がいくつかあったので、前編を一旦餡庫から消してうどんげとのエピソードを入れて再アップしてみました。 なおこの話の続編を餡子ンペ09に出そうと思っているのですがどうでしょうか?コメント欄でご意見、ご感想待ってます。 今まで書いた作品 ふたば系ゆっくりいじめ 176 ゆっくりちるのの生態(前編) ふたば系ゆっくりいじめ 185 選ばれしゆっくり ふたば系ゆっくりいじめ 196 新種ゆっくり誕生秘話 選ばれしゆっくり番外編 ふたば系ゆっくりいじめ 208 ゆっくり見ていってね ふたば系ゆっくりいじめ 218 またにてゐ う詐欺師てゐの日々 ふたば系ゆっくりいじめ 227 VS最強のゆっくり 史上最低の戦い ふたば系ゆっくりいじめ 247 夢と現実のはざまで ふたば系ゆっくりいじめ 264 あるまりさの一生 ふたば系ゆっくりいじめ 298 ゆっくりを拾ってきた ふたば系ゆっくりいじめ 336 ゆっくり Change the World(出題編) ふたば系ゆっくりいじめ 357 ゆっくり Change the World(出題編2) ふたば系ゆっくりいじめ 391 ゆっくり Change the World(解答編) ふたば系ゆっくりいじめ 400 あるゆっくりできない2匹の一生 あるドスまりさの一生 とてもゆっくりした群れ(前編) ふたば系ゆっくりいじめ 441 てんこがゆっくりするSSさん
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『ゆんやーマスク』 10KB 自業自得 家族崩壊 番い 群れ 赤ゆ れいぱー 現代 愛護人間 自滅以外の何者でもない ゆ虐スレをふと覗いてみたら タイガーマスクネタ作品生えてこないかのぅ とありましたので書き上げてみました。 虐待パートだけ読みたい方は ☆ の部分からお読みください。 どうしてみんなあんなに可愛らしいゆっくりを虐待したりするんだろう? ゆっくりはこんなに可愛らしくて癒してくれるのに。 あ、捕食種はだめだよ、可愛いゆっくりを食べちゃうからね。 昨日は森にいるゆっくりの群れが虐待鬼畏惨に壊滅させられたと聞くし、 一昨日は川原の群れがダムの一斉放水で全部流されてしまったらしい。 ゆっくりにとって生きづらい世の中をなんとかしてあげようとしても、 農林水産省の出している指針によれば野生のゆっくりに 餌付けなどをしてしまうと人間との境界線が曖昧になり、 近隣の農家や子どもに迷惑がかかり、結果として一斉駆除が行われるため、 本当にゆっくりのことを好きならやめたほうがいいとのことらしく、 ゆっくりの群れに対して支援を行うこともままならない。 ところが、ある日テレビを見ていると良いニュースが流れていた。 なんでもプロレス漫画「ゆんやーマスク」の主人公「愛出直人」などを名乗り、 児童養護施設などにランドセルや文房具を匿名で寄贈するという 微笑ましい事件が起きているそうだ。 これに私はピンときた。 直接ゆっくりと関わって人間との境界線が曖昧になることがいけないならば、 こっそり群れに侵入して支援をしてあげればよかったのだ! こんな美味しいネタがあるのに行動に起こさねば愛でお兄さんの名がすたると思った僕は 最近近所の森に住み着いたぱちゅりーが長の群れにこっそりと支援を行うことにした。 「そろ~りそろ~り」 今僕は近所の森に住み着いた群れの近くまでやってきている。 そろ~りそろ~りと口に出しているのは、なんでもゆっくりたちは 此の様にしゃべりながら移動することでステルス作用が発生して、目に見えなくなるそうなんだ。 こないだ路地裏にいた野良まりさに教えてもらったからきっと間違いないんだろう。 現に今 けっかいっ のスキマからゆっくりの家族をのぞき見してるけど、 全く気づかれてないで眠りこけている。 どのおうちを覗いてみてもゆっくりたちは眠りこけているので、 今のうちに僕が考えた最強の支援を施してしまうことにした。 それは、ゆっくりが乗るとオレンジジュースが出てくる簡単な機械と、 同じく乗るとれみりゃとかふらんも逃げ出す唐辛子スプレーの原液を噴射する装置。 この二つを偽装して、いかにも自然の中にある道具に仕立て上げることなんだ。 バイト先で 「愛出先輩ってマジ手先器用っすねwwwwwww尊敬するっすよwwww」 って言われる僕なので、あっという間に作業は完了する。 パッと見ではどちらも樹の根元にあるだけにしか見えないが、 これも野良まりさに教えてもらったけっかいっの理論が応用されてるために、 ゆっくりからは自然にあるものにしか見えないはずだ! 群れのおさをするくらいのぱちゅりーなら、 きっとこの装置の使い方をすぐに理解できるに違いない!!! こうして一仕事終えた僕は心地よい疲労とともに帰路につき れいむ印のお布団を頭までかぶってひと眠りすることにした。 ☆ ここより自滅パート ここは愛でおにいさんがゆっくりレベルの偽装が施された装置が設置された群れ。 もっともゆっくりレベルであるという事はゆっくりにとっては見つけられないというわけなのだが。 ゆっくりにしては珍しく、太陽が真上にくる前に目覚めてきたゆっくり共が 広場として使われている部分に集合していた。 「むっきゅ、みんな、あさのじかんよ!!」 「ゆっくりおきるよ!!!おさ、ゆっくりしていってね!!!」 「むきゅ、きょうはれいむもはやおきね、 きのうけがしたおちびちゃんのぐあいはだいじょうぶなの?」 「ゆうん・・・それがあまりよくないんだよ、まりさもきのうがんばりすぎて きょうはうごけないっていってるし、だからきょうはまりさのかわりにはやおきして からだにいいものをあつめることにしたんだよ!!!」 「れいむはほんとうにぼせいがゆたかなゆっくりね、 むれのおさとしてむはながたかいわ!!」 「ゆゆーん//てれちゃうよ!!! じゃあれいむはゆっくりいそいでからだにいいものをさがしにいくよ!!!」 ド饅頭たちがドグされたママごとのような会話をがしながら、 今日の狩り(笑)に出発するらしい。しかしゆっくりは本来脆弱なド饅頭であり、 慣れないことをするとすぐに皮に傷が入ったりしてしまう。 「それじゃあれいむはいろんなものをさがしにいくよ!!! ぴょーんぴょーんぴょおおおおおおおぉおぉ!!!!!??」 脳みその腐りそうな会話をしていたバチがあたったのか、 最初の一歩でこのれいむは尖った石を踏んでしまったらしい。 「れいむのなまめかしいってまりさがほめてくれるすべすべのあんよさんがぁぁあああ!!!」 しかもゆっくりは痛みに弱い饅頭であり、少しの痛みで泣き叫び、 転げまわる習性を持っているため、その転げまわる過程において かわいいおちびちゃん(笑)を轢き潰してしまったり、 余計に傷を増やしてしまう愚かさを持っているのだ。 本当に動く被虐饅頭とはよく言ったものである。 「ゆべえええええ!!!いぢゃああいいいいい!!!あんよがいぢゃあああゆべら!?」 明らかにぴょんぴょんはねるより早い速さで転げまわっていたれいむは、 全身を擦り傷だらけにしながら近くの木にぶつかった。 「でいぶのほうせきのようにかがやくおがおがあああ!!! いぢゃあああああああああまあまさんのあじがするよ!!!」 その時このれいむにとって最初で最後の奇跡が起きた、 愛でお兄さんが無駄にステルスをしていたおかげで、このままでは 一生発見されなかったであろう装置があるところにれいむが直撃したのである。 「れいむ、うまれかわったみたい!!!かわいくってごめんねー☆」 「れいむっ!だいじょうぶなの!?あんよさんをけがしたみたいだけど・・」 「ゆゆっ、そういえばもうあんよさんいたくないよ!!! れいむがかわいすぎるからかみさまがあまあまをくれたんだね!!!」 「むきゅ、それはないとおもうけど、あまあまさんはここからでてきたのかしら?」 さすがはもりけんぱちゅりーなのか、 それともれいむがぶつかったことで偽装がすこしとけたのか、 ぱちゅりーは早速この仕組を解いたらしい。 「むきゅ!ここにけがをしたおちびちゃんをつれてくるのよ!!」 「さすがはもりのけんじゃぱちゅりーだね!!!さっそくおちびちゃんをつれてくるよ!!!」 しばし後おちびちゃんを帽子にのせたまりさと、さっきのれいむがもどってくる。 「ほんとうにこんなとこでおちびちゃんのけががなおるのぜ?」 「ほんとうだよ!!!さっきれいむもあんよをけがしちゃったんだけどいっしゅんでなおったんだよ!!!」 「ゆぅ・・・ゆぅ・・・いじゃいよぉ・・・・」 「まりさ!おちびちゃんがいたがってるんだよ!!はやくそこにおいてあげてね!!!」 「せにはらはかえられないのぜ・・・ここでいいのかぜ?」 まりさはずりずりと移動し、樹の根元にたどり着いた。 そうすると、どこからともなくオレンジジュースが流れ出て、まりさにふりかかった 「ゆううう!!!とけるうう!!!!よぐもだまぢでぐれだのぜれいむうううう!!! あやまってもゆるしてあまあまのあじがするよ!!!」 「ゆっきゅちー!!!!」 「ゆゆっ?おちびがげんきになったのかだぜ!?」 「ゆわ~い!!!おちびちゃんのけががなおったよおおお!!」 こうしてれいむ一家のかわいいおちびちゃん(笑)は怪我が完治して事なきを得た。 このニュースはむれをかけめぐり、神様が贈り物をしてくれたのだという話になっていた。 こうしてゆっくりたちは致命的な怪我をしても瞬時にして回復することができるようになったのだ。 しかしゆっくりはどこまでいってもド饅頭である。 ものの1時間もたつと群れの中でもゲス基質のある饅頭たちが、装置の周りにたむろしだした 「ここはまりささまのゆっくりぷれいすなのぜ!!!せいめいのみずがほしければあまあまをもってくるんだぜ!!!」 まず自称群れでさいっきょうっのまりさがここでおうち宣言を行った。 最も生命の水ことオレンジジュースは個別のゆっくりだけではなく 群れとして必須の物なのであっというまにせいっさいっされたのだが。 「どぼぢでばりざざまがこんなめに・・・」 次に起きたのはしんぐるまざーによるぷれいすの占領である。 「れいむはしんぐるまざーなんだよ!!!だからここでおちびちゃんたちをそだてるんだよ!!!」 「「「おきゃあしゃんはちょっちぇもゆっきゅりしちぇりゅにぇ!!!」」」 余計なことには無駄に頭が回るのか、既に茄子型になっている赤ゆを 次から次へと入れ替えて生命の水(笑)を飲みまくっていった。 その結果あっという間に装置の中に入っていたオレンジジュースは尽きてしまい 群れ総出によるせいっさいっの結果しんぐるまざー一家の命運も尽きる結果となった。 「しんぐるまざーせんげんしたけっかがこれだよ!!!」 「「「もっちょゆっきゅりしちゃかっちゃ・・・」」」 一方最初に装置を発見したれいむは群れの英ゆんとなっていた。 実際のところ棚ぼた以外の何者でもないのだが、そこはさすがの餡子脳である。 最も、わりとこのれいむは餡子脳な事以外は善良な個体であったようで、 つけあがることなく、また神様からの贈り物がもらえないかと日々森の中を散策しているのだった。 「ゆゆ~ん、かみさまにみとめられたかわいいれいむはきょうもおくりものをさがしにいくよ!!!」 実際のところゆっくりに神様はいるのだろうか、少なくとも邪神はいるように思われる。 それをれいむが身を持って肯定する結果となった。 プシャアアアアア 「ゆっ・・・・・・・っぎゃあああああああああああああああ!!!! れいむのぷるぷるしたおべべがああああ!!!あぢゅいぢゃあああああ!!! きゃりゃいいい!!!!!これどくはいってるうううう!!!!!」 ゆっくり並の器用さを持つお兄さんは、オレンジジュースの装置と同じように下に来たゆっくりに対して 唐辛子スプレーが噴射されるように装置を偽装セッティングしていてしまったのだ。 「でいぶのおべべがああああ!!!なにもみえないいい!!!!!おはだがいだいいいい!!!」 その場で転げまわることによって全身にくまなく唐辛子スプレーを浴びてしまうれいむ そのままれいむはゆっくりにあるまじき速さで転げまわり、あたり一面に唐辛子を撒き散らし始めた ああどうしたことか、つい昨日までゆっくりの楽園だった森が 撒き散らされる唐辛子スプレーのおかげで大喜劇である。 「ゆっぺええぇぇえ!?おべべがいだいいいい!!!?」 「ゆんやあぁぁぁ!!!こっちこにゃいでえええ!!ちゅびゅれびゅべっ」 「ぱちゅりーのむれが・・・エレエレエレ」 「ゆっへっへっ、やっぱりあのれいむはくずなのぜ! まりささまはいまのうちにたべものをはいしゃくしてすたこらするのぜ」ぷりんっぷりんっ 「んほおおお!!!まりさったらさそってるのねえええ!!!」 「やべちぇえええええええ!?」 「らんしゃまああああ!?」 撒き散らされる唐辛子によって目が潰れてしまう親れいむ その転げまわる親に踏み潰される赤ゆ その参上を見てエレエレするぱちゅりー ここぞとばかりにれいむを見捨てて火事場泥棒をしようとする英ゆんれいむの夫のまりさ そのまりさの尻に欲情してレイパーになるありす 本能に従い叫び声を上げるだけのちぇん 虐待鬼畏惨がみたならば垂涎物の光景がそこにはあった。 英ゆん(笑)のれいむが「もっとゆっくりしたかった・・・」と力尽きる頃には 群れの中でまともに動くことの出来るゆっくりはほとんどいなくなっており、 残されたゆっくりはこの森をのろわれたちと呼び、長のぱちゅりー(生きてた)を置いて逃げ出した。 「むきゅ・・・どぼぢで・・・ごんなごどに・・・」 んー☆良く寝た そういえば先週に贈り物をした群れは元気でやってるかなぁ? でもまた行って見つかったら悲しいし、今度は別の群れに贈り物をしに行こう! きっとあの群れも今頃は幸せそうに暮らしているんだろうなぁ! 過去作など anko1811 ゆあつそうち anko1817 ゆっくりの甘さについて anko1865 ゆランス料理フルコース(前半) anko2701 ゆランス料理フルコース(後半) anko2805 こんにゃくなんとか anko2811 ゆんはん anko2818 とうしつ anko2839 石焼ゆっくり さくっと書こうとしていたのにどうしてこうなった。 悲しみのサイドチェストを行うしか無い。 汚あき
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「みんな!体をキレイキレイにするよ!」 ここは霧の湖。一家の主である母れいむが口に水をため子供達に吹きかけている。 「ゆっ!きもちいいよ!」「ちめたーい!」「からだキレイキレイにするよ!」 冷たい水にキャッキャッと声を上げる子供達だがその中に一匹だけムスッとふくれている子供がいた。 「からだを洗うなんてめんどくさいよ・・・」 そのまりさ種の子ゆっくりは体を洗うことを酷く嫌っていた。 子まりさ自身は面倒くさいから嫌だと言っているが実際は本人すら知らない記憶の奥底、水に流され死んでいった父まりさのトラウマが 水に触れるという行為を極端に嫌わせていた。 「大きくなって独り立ちしたら絶対に体をあらったりするもんか。」 幼少時代にその決意を誰にも話すこと無く育ったまりさはすくすくと成長し見事な成ゆっくりとなったまりさは 越冬を終えた後、他の姉妹よりもずっと早く独り立ちした。 独り立ちして二ヶ月、まりさはまりさ種であるが故に狩りの腕もめきめきと上達し自分一人の巣も簡単ではあるが扉付きという つがい相手としてはこれ以上無い程優秀なゆっくりとなっていた。だがこのまりさには当然できるべくしてできた欠点があった。 「ゆうぅ!!くさいよ!」「くさいまりさはとっととどっかに行ってね!」「おおくさいくさい」 子供の頃の決意を揺るがすことなかったまりさは独り立ちした後に湖に行くことは水を飲む為だけになった。 つまりまりさは半年間水場の近くに住んでいたにもかかわらず一度も体を洗っていなかったのだ。 巣の中でひたすらゆっくりする赤ちゃんゆっくりならまだしも、外へ狩りに出るまりさの体は四六時中汚れていた。 生き物としては常識はずれのゆっくりだが汚れた体を不潔のままにしておけば臭いはしてくるらしい。 最初はその甲斐性に惚れていた多くのゆっくり達も2週間、3週間と経つと自然とまりさのもとから離れていった。 「べつにいいよ!まりさはひとりでゆっくりできるからね!」 体を洗うなんて愚図がやることだ。ゆっくりにあるまじきその活発的な考えは実はゆっくりの怠惰な特徴を濃縮した果ての考えであった。 そんな変わり者のまりさにも少ないがそれ故に固い絆で結ばれた親友が二匹いた。 「まりさ!れいむはまりさから離れたりはしないよ!」 彼女はゆっくりれいむ。幼少時代からのかけがえの無い親友だ。 今では当然となったまりさの水浴び嫌いも成体になってからその癖を初めて知ったれいむは驚きを隠せなかった。 しかしまりさはこの森のどのゆっくりよりも全てにおいて優れているとれいむは信じていた。 それはきっと体を洗わずに日々鍛錬を続けてきたからに違いないともれいむは信じていた。 「ゆぅぅ・・・ありがとぉおおおおお!!!」 れいむは水浴びをしてはいたがそれをまりさに強要することは無かった。 なぜなられいむはまりさに水浴びを一度でもさせることでその能力が削ぎ落とされるのではないかと思っていたからだ。 れいむは自分よりも優れたまりさの能力の根源を水浴びをしないことでもたらされた力、 すなわち一種の願掛けによるもののような気がしてならなかった。 それを失わせる行動をとることはまりさを軽く神格化していた二匹にとってはとても恐れ多いものだったのだ。 「「ふたりでゆっくりしようね!!!」」 まりさにとっては大切な友人、れいむにとっては崇めるべき尊い存在として互いにその心の拠り所となっていた。 「ゆぅぅ、なんか背中がかゆいよぉ。」 「大丈夫まりさ?・・・ゆ!ま、まりさ!」 「ゆぅ?なに?」 珍しく晴れていたある日、二匹がいつもの様にくつろいでいると突然れいむがまりさの背中を見て驚いた。 「ゆっゆううううう!!!?」 「な、なに!?おどろいてばかりいないで何があったかゆっくりおしえてね!」 「ま、まりさの背中が・・・緑色になってるううううう!!!」 「ゆぅう!!?」 れいむの言う通り、まりさの背中は鮮やかな緑でその六分の一が覆われていた。人で言えば尻の部分、蒙古斑のような可愛い物では決して無いが。 「まりさ!」 「な、なに!?」 「こんな色をしたまりさは見たことないよ!とってもきれいでかっこいいよ!」 基本ゆっくり達の中には緑色を持った種は珍しい方である。最も目につく種がちぇん種であるがそれは身につけている帽子がだ。 今のまりさの様に体自体が緑色になるゆっくり等は少なくとも周囲の群れでは全く見かけなかった。 「きれい・・?まりさきれい・・・?」 「とってもきれいだよ!群れの中でもこんなにきれいなゆっくりは見たこと無いよ!」 子供の頃綺麗になると言われ嫌々水浴びをしていたまりさ。独立し、水浴びをしなくなったまりさはあれ以降綺麗などとは一度も言われなかった。 久しぶりに言われたその言葉はまりさの感情を大きく揺さぶった。 「れ・・・れいぶありがどおおおおおおお!!!」 大声を上げてまりさは泣きじゃくり始めた。ここまで大泣きするのも一体何時ぶりだろうか。 「泣かなくていいんだよまりさ!これがまりさの本当の姿なんだから!」 「ゆぐっ・・ゆぐっ・・・」 「そうだっ!きれいなまりさをみんなに見せにいくよ!きっとみんなまりさを馬鹿にしたことをあやまってくれるよ!」 「ゆぐっ・・!群れに・・・!?」 今までまりさは自分に自信が持てなかったわけではない。ただ、今の自分はいつもの自分よりも何かで胸の中が満たされていた。 「・・・ゆっ、ゆっくり、みんなにあいさつにいくよ!」 まりさは群れのゆっくりにあうことを自分自身で決めた。 「まりさとってもきれいだね!」「こんなにきれいな色をしたゆっくりはみたことないよ!」「おおきれいきれい」 翌日、群れの小さな集落へと出かけた二匹のまわりには大きな人だかりならぬゆっくりだかりができていた。 その中心となっているのはあの緑色を背負ったまりさ。顔は今までしたことの無い笑顔で満ちている。 「これがまりさの本当の姿なんだよ!見事なとかい派でしょ! みんな、今までまりさを馬鹿にしたことをゆっくりあやまってね!」 「い、いいんだよれいむ。まりさはべつに怒ってなんかないよ!」 自分の容姿が認められているというだけでまりさの今までの鬱憤は跡形も無く消えていた。 「ゆっ!まりさの緑色がきのうよりも広がってるよ!もうちょっとで髪の毛の所まで緑色になるよ! もしかしたら髪まで緑色になるかもしれないね!すごいよまりさ、とってもゆっくりしてるよぉ!!」 れいむにつられて周りのゆっくりからも歓声が沸き上がる。 「むきゅ!どうしたのみんな大声で!」 歓声を聞きつけてやってきたのは群れの知恵袋であるぱちゅりー、前々から水浴びを嫌うまりさに口うるさく清潔を保つ様に言っていたので まりさはあまりぱちゅりーのことを好んではいなかった。 そのぱちゅりーに今の体を褒めてもらえたならもうこれ以上の喜びは無い。それはあの幼少時代に疎ましく思っていた母に勝利する感覚だろう。 ぱちゅりーは誇らしげに胸、ならぬ顎を張るまりさに近づきその背中を見るや否や叫び始めた。 「むきゅうう!!!みんなまりさから離れるのよ!!近寄ってはいけないわ!!!」 「ぱ、ぱちゅりーなんてこというの!!?」 「ひどいよぱちゅりー!まりさはこのみどりをとっても気に入ってるのにぃ!」 「気にすることないよまりさ!しょせんちしきしか無い病弱なぱちゅりーにはまりさのみどりがりかいできないんだよ! そうだ!ぱちゅりーはまりさにしっとしてるんだよ!おおあさましいあさましい。」 れいむは自慢の緑色の背中を否定されたことでうろたえるまりさのことを必死にフォローした。 しかし、ぱちゅりーは目を見開いたまま大声で叫び続ける。 「嫉妬なんかじゃないわ!まりさのその緑色は・・・カビよ!!!」 ぱちゅりーにまりさがカビだと宣告されて数十分後、体を葉っぱで包み込んだゆっくり達によってまりさ達は捕えられていた。 「むきゅう・・だからあれだけ体を洗っておきなさいって言ったのに。」 「はなじでええ!!まりさ達はなんもわるいことなんかしてないよおお!!」 「汚れたゆっくりは体を洗わないとまりさみたいにカビが生えやすくなるんだよ。ぱちゅりーやまりさのお母さんは まりさのことを心配して体を洗えと言っていたんだよ。」 群れのボスの大れいむは声を荒げずに静かにまりさを諭した。だが当のまりさは納得しない。 そもそもカビが生える環境には適した水分や温度、栄養等が必要だ。 本来ゆっくりの表皮は自然の脅威に対抗した防水性や抗菌性といった機能を保持している。 そのため巣に籠り餌を持ってきてもらえる環境にあるゆっくりにカビが生えるということは滅多に無い。 しかし狩りをするゆっくりとなると話は別だ。 彼らが狩りをする時、その体の構造上から草や虫を踏みつけながら森を走り抜けなければならない。 そのため体中に草汁や虫の体液がこびりつくのだ。 これらを水で洗い流す、もしくは仲間に舐めとってもらうなどの行動をとらなければ ゆっくりの表皮にはそこ足がかりとしてカビが生えてくることがある。 つまり狩り中心の生活をしていたまりさの体は洗わないことで見事な菌床と化したのだ。 「ふん!水浴びしたら体が溶けてしんじゃうんだよ!体を洗うゆっくりの方がおかしいんだよ!」 「きくみみもたないんだね。」 「ゆん!まりさはぜったいに体を洗わないよ!」 「しかたないね・・・」 大れいむは悲しそうに顔を下に向けた後、すぐにぱちゅりーの方を向いた。 「二匹を群れから遠くはなれた崖上近くについほう!二匹が死ぬか条件を満たすまでかんしをつけるよ!」 高らかに宣言される追放と死の言葉に三匹は大きくうろたえ始めた。 「なななななにいってるのおおおおおおお!!!」 「れいむだぢはわるいごどしてないよおおおおお!!」 「まってみんな!群れに戻る方法はあるんだよ!」 大れいむの言葉を聞いて二匹はぴくっと反応をする。この窮地を救う手段があるのなら何でもいいからすがりたい、 二匹は穴をあけようとするかの様に大れいむをじっと見つめた。 「あるにはあるけど覚悟が必要だよ。とくにまりさ!まりさにはいたい目にあってもらわなければいけないよ!」 「ゆぅ!どうすればいいの!どうすればたすかるの!?」 この際体を洗ったって構わない、まりさの幼少時代の決意は死と天秤に量られることでいとも簡単に空へと舞い上がったようだ。 「ゆっ!れいむは河で念入りに体を洗うだけでいいよ!」 大れいむの言葉に緊張が解かれるれいむ。れいむにとってはいつもと同じことをやればいいだけの話だ。 「で、まりさ。まりさの方は・・・」 まりさの気分はさっきよりも楽になっていた。水浴びを念入りにするのは気に食わないが死ぬよりはマシだと思ったからだ。 だが大れいむから示された条件はぱちゅりーを除いたその場のゆっくり達には到底想像もできないものだった。 「そのカビた部分をれいむに引きちぎってもらってね!」 それから数時間経った今、まりさの背中は変わらず緑色だった。 「まりさ!れいむがちぎってあげるから背中見せて!」 「ゆぅうう!!!いやだあああああああ!!!!」 「まりさまってえ!!!」 崖上に追いやられてすぐ、れいむは早速まりさの背中のカビ部分を引きちぎろうと躍起になっていた。 しかし引きちぎられる側にとってはそんな覚悟はたまったモノではない。 高い身体能力に物を言わせ背中に回ろうとするれいむからまりさは逃げ回っていた。 「やだああ!!痛いのはいやだあああ!!!」 叫ぶまりさのカビは大れいむの宣告を受けた時よりもわずかだが広がっていた。 カビが広がれば広がる程引きちぎる箇所が増えていくということもぱちゅりーからは伝えられてはいたが 目先の恐怖から逃げ続けるまりさの頭の中にその助言は残っていなかった。 気がつけば崖上に一匹、まりさは涙を流しながら夜空を見上げていた。 「どうじでごんなごどに・・・」 水に触れたくない、ゆっくりとしては至極当然な考えだと思っていた行動が実はもう一つの天敵であるカビを引き寄せてしまった。 カビが生えている背中の感覚が徐々に無くなってきていることにまりさは気づいていた。 このまま全体に行き渡れば自分の体は腐り落ちて醜く死んでいくだろう。 だがそれを防ぐ手段が体を引き裂くこととは、大れいむの宣告を思い出すだけでまりさの目には玉の様に涙があふれた。 「まりさ!」 後ろの草影から出てきてまりさの名前を呼ぶれいむ。わざわざ声を上げていることからして不意打ちではないらしい。 「嫌だよ!背中を引きちぎられたらゆっくりできないよ!」 「このままでいてもゆっくりできないんだよまりさ!」 崖上に追いやられてから続いている押し問答をまた繰り返し始める二匹。 「どうじでれいむはまりざのいやがるこどをずるのおおおおお!!!」 「このままだとまりさが死んじゃうからだよ!今背中をちぎれば一緒に群れにかえれるんだよ!」 それを聞いた瞬間まりさの眼がキッと鋭くなりれいむを睨んだ。 「違うでしょ!れいむは群れに帰りたいだけなんでしょ!本当はまりざのことがきらいなんだ! だがら背中を引きちぎってやるなんて言うんだよ!そんなれいむ達なんか大嫌いだ!ゆっくりしね!」 「なんでそんなこどいうのおおおおおおおおお!!!」 まりさの言葉が餡子でできたれいむの心に突き刺さった。 大声で泣きながら顔を歪ませるれいむを見てまりさの気分が少しだけ晴れる。 「れいぶはまりざがだいすきなのにいいいいいいいいいいい!!!」 「ゆっ・・・?」 しかし今度はれいむの言葉がまりさの心に突き刺さった。 だがその刺さり方はれいむとは違う物では例えようないモノが突き刺さった感覚だった。 「まりさが逃げる姿を見て思ったよ!まりさはれいむ達にとって神様でもなんでもないおなじゆっくりだって! でもそう思うと逆にれいむ達は心がおちついたんだよ!まりさはれいむ達のたいせつな友人、いやそれ以上の関係だってことが分かったから!」 「れ、れいむぅ・・・!」 「れいむはまりさが大好きだよ!子供を作って一緒にゆっくりしたいもん!でも・・・ まりざがぞんなからだだとぜっだいすっきりなんでできないよおおおおおおおおお!!!!」 「ゆぐぅうぅぅうぅ!!!!!」 れいむが自分のことをそこまで愛していたということを知り衝撃を受けるまりさ。 だが今のまりさの体はれいむの言う通り決してすっきりできない体だった。 今他のゆっくりとすっきりしようとすればその相手には必ずカビがうつるだろう。 くわえてそのカビの影響を受けてしまえば子育てができないどころか奇形児が生まれてしまうかもしれない。 まりさが子供を作る為には背中のカビを排除する以外に道はなかったのだ。 「ゆぅうぅぅぅ・・・・!うぎゅぅぅぅ・・・・!!」 「ま、まりさ大丈夫!?いたいの!?」 まりさは悩む。大れいむからの宣告と背中を引きちぎることの痛みを量る天秤に新たにれいむの告白が加わったからだ。 れいむがそのどちらに荷担したかは言うまでもない。 うなるまりさが静かになり一分が経つ。この一分間はれいむにとっては今までの生活で最も長い時間となっただろう。 「ちぎって」 「ゆっ!?」 「まりさの背中のカビをちぎってね!」 「ま、まりざああああああ!!!」 まりさは自分の命とれいむの想いのため自分が痛い目を見る決心をした。 「まりさ、いくよ・・・」 「ゆっ!」 「ゆっくりたえてね!」 「ゆっ!」 まりさは木の幹にがっしりと噛み付き痛みに耐える準備をしている横でれいむもまりさの背中を引きちぎる準備をしている。 「じゃあまりさ、今からきずをつけるからゆっくりたえてね・・・!」 れいむはまりさのカビを効率よく引きちぎる為に一つの作戦を考えていた。 まずまりさの背中にカビを取り囲む様な傷を付ける。カビを引きはがした時に余分な所まで傷つけない様にする為だ。 「ゆっ!・・・ゆゆゆゆゆゆゆゆゆうぅううぅぅうう!!」 「がまんしてねまりさ!引きはがすときはこれよりもっと痛いんだからね!」 れいむはフォローのつもりなのかもしれないがやられるまりさからしたらいちいちそんな宣告はしないでほしい。 だからといって心配してくれるれいむを無下に扱うわけにはいかない、まりさはただひたすらいた意味に耐えることがだけに集中した。 「ゆっ!・・ゆぅ・・ゆぅ・・・」 「おわったよまりさ。さあこれからよ、覚悟はいいわね!」 「ゆぐぅ!ゆゆゆゆゆ・・・」 「だいじょうぶだよありす!まりさはさっきやるっていったもん!」 「ゆゆ!ゆぅぅ・・・」 正直まりさは後悔し始めていた下準備でこれだけ痛いのだからこれから行われることは一体どれだけの痛みを伴うのだろうか、 まりさは不安と痛みで頭の中がぐるぐると回っていた。 「さすがまりさだね!それじゃあ一気にいくよ!せーのっ・・・」 「ゆぅっ!?ゆゆゆゆゆゆ!」 「それっ!!」 「ゆぎゅ!!ぐうううううううううううう!!!」 掛け声と共にれいむはまりさのカビ部分に余裕を持たせてマーキングした箇所に噛み付き思い切り引っ張った。 「うぐぐぐ!!なかなかとれないよ!ふんぐううう!!」 「うぎぎぎぎ!!!ゆゆゆうぎぎぎぎぎぎぎぎぎ!!!」 「まりさ我慢してね!」 「ゆうううううううういぃっしょ!!」 「ゆう゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!!!!」 森中にまりさの悲鳴がこだまする。それはれいむの計画が成功しまりさ達がその罪を償ったという合図でもあった。 贖罪から二日が過ぎた。 まりさの背中はぱちゅりー達の治療のおかげで傷跡のない綺麗な肌に戻っていた。 大れいむとぱちゅりーは見事に試練を克服したまりさとれいむが正式に群れに加わることを快く承諾した。 まりさが元気になってすぐ、れいむは改めてまりさに告白し二匹は正真正銘の夫婦となった。 「れいむ、きっとゆっくりした赤ちゃん達だよ!」 「ゆぅゆぅ!はやく落ちてきてね赤ちゃん!」 れいむの頭に生えている茎には小さな黒い実が7つ程可愛らしく生えている。 自らのカビをはぎ取り、体を綺麗に洗ったまりさだからこそ手に入れることができた幸せ。 その幸せを常に忘れない為にまりさは自分の体を洗うことを日課としていた。 「ゆうぅ、れいむも赤ちゃんたちの姿がみたいよ。」 「だいじょうぶ!まりさがしっかり赤ちゃんのことを見ててあげるよ! そうだ!このことをぱちゅりーと大れいむに伝えてくるよ!きっとよろこんでくれるよぉ!」 「ゆっ!まってまりさ!れいむの頭がかゆ・・・もうゆっくりしてないんだから!ぷんぷん!」 外は霧雨、ゆっくりが外出できない程ではなかったが身重のれいむは巣から出ることはできなかった。 「ぱちゅりー!」 「むきゅ!まりさ!元気にしてた?」 「あたりまえだよぉ!ぱちゅりぃー!!」 「むきゅう!まりさやめなさい!はずかしいじゃない!」 体の清潔を保つ様になってからまりさはやたら他のゆっくりと頬を擦りあわせるスキンシップをとる様になった。 当然愛しているのはれいむただ一匹だけなので交尾に発展することは決して無い。 例えるなら欧米人のスキンシップにそのノリは近かった。 「ゆ!ごめんよぱちゅりー!ゆゆ!大れいむ!大れいむもこんにちは!」 そう言ってぱちゅりーにしたのと同じ様に大れいむと頬を擦り合わせるまりさ。 体の大きい大れいむはとてもくすぐったそうだったがまりさの好意を無下に扱う気はさらさらなかった。 「ゆー!まりさくすぐったいよ!」 「ゆう~♪ゆう~♪ゆう~♪」 「まりさ、今日わざわざここに来たってことはなにかあったんじゃないの?」 気分よく大れいむにじゃれるまりさの浮かれ具合に気づいたのか、群れの管理を行うぱちゅりーはその原因を知らなければならないと考え まりさの動きを制止した。 「ゆ、そうだった!びっくりしないでねぱちゅりーに大れいむ!なんとまりさとれいむに赤ちゃんができたんだよ!」 「むきゅん!それはすばらしいことね!」 「それでにんっしんっ!はしょくぶつがた?おなかがた?」 「ゆ?なにそれ?」 末っ子、そして今まで一人で暮らしてきたまりさにとってにんっしんっ!という概念はあってもそれがどのようなモノなのかは 全く考えが及ばなかった。そのため、今回のれいむのにんっしんっ!が頭から蔓が生える植物型であるということや もう一つのにんっしんっ!のタイプ、動物型が存在するということも全く知らなかった。 ちなみに大れいむが言っているおなかがたとは人間たちの言う動物型のことだ。 「むきゅ、頭からはっぱさんが生えていたらしょくぶつがた、おなかがおおきくなっていたらおなかがたよ。 しょくぶつがただったらうまくいけば今日中に赤ちゃんたちは生まれるわ!」 「ゆゆゆ!れいむの頭にはみどりのはっぱさんがたくさん生えてたよ!」 「よかったねまりさ!きっと今日の夜には赤ちゃんたちとゆっくりできるよ!」 「ゆ!そしたらゆっくりしないで帰るよ!教えてくれてありがとう、ぱちゅりー!大れいむ!」 まりさは二匹に背を向けたまま礼を言って一目散に自分の巣へと帰っていった。 「むきゅう・・・せっかちなゆっくりね、まりさは。」 「そういうゆっくりも群れにはひつようなんだよ、ぱちゅりー。」 「むきゅ?むっきゅう・・・」 「ゆ?どうしたのぱちゅりー。」 「むきゅ~、なんだかほっぺがかゆいわ。」 「ゆゆ?そういえばれいむもかゆいよ?なんでかな?」 巣の中、まりさとれいむはわくわくしながらゆっくりと赤ちゃんたちの誕生を待った。 きっととってもゆっくりした赤ちゃんが生まれるだろう、生まれた赤ちゃんたちには色んな狩りの方法やゆっくりプレイスの探し方を教えよう、 れいむ種とまりさ種どちらが多いだろうか、毎日毎日体をきれいにしてあげよう。 二匹のゆっくり将来は月が高く昇るまで延々と続いた。 だが、当の赤ちゃんたちは以前生まれ落ちる気配はない。れいむに至っては蔓から全く振動を感じないことに不安を抱く始末だ。 「ねえ、まりさ・・・赤ちゃんたち何時生まれるんだろうね・・・」 「ゆう、きっととてもゆっくりした子たちなんだよ!心配しないでれいむはゆっくり寝てていいよ。まりさが見てるからね!」 親としては未熟なまりさであったがれいむの疲れはその顔から読み取ることができた。 これ以上疲れさせると赤ちゃんたちにも影響が出るかもしれない、まりさは直感的にれいむを休ませることにして 自ら夜番をとることをきめた。 「まだ葉っぱさんばっかり・・・本当に今日生まれるのかな?」 まりさの眼には確かにれいむから蔓が生えていた。 しかし肝心の子供たちはどうしてもまりさの眼には見えないのだ。 ただただ青いれいむの蔓、本当はれいむに尋ねてみたかったが蔓はれいむの頭から生えているのでれいむ自身には赤ちゃんたちの様子は見えない。 むしろこのことを話せば不安になるのではないかと思い言うに言い出せなかったのだ。 「でもいいよ!まりさの赤ちゃんたち、あせらずゆっくりうまれてね!」 その瞬間、まりさが葉っぱだと思っていたその物体はまりさの足下にぽとりと落ちた。 これは子供が生まれる兆しではないだろうか。そう思ったまりさはすぐさまれいむを起こし始めた。 「れいむれいむ!大変だよ!もうすぐ赤ちゃんが生まれるかもしれないよ!」 「ん・・ゆぅぅん・・?・・・ゆ!?赤ちゃんが!!?」 まりさの呼びかけで一気にれいむは覚醒した。赤ちゃん誕生の瞬間に母親がゆっくり寝ていたらいい笑い者である。 「ゆっゆっ!たのしみだね~!」 「ゆうぅぅん!何人生まれるんだろう♪まりさ、幾つ赤ちゃんたちができてる?」 「ゆっ?まだ赤ちゃんたちはできてないよ?」 「・・・ゆっ?」 まりさの言うことにれいむが疑問に思うのも当然だった。 れいむは一度自分の母の植物型にんっしんっ!を見たことがあったからだ。 その時の母の頭には自分の妹たちを思われる丸い固まりが幾つも生っていた。 「冗談言わないでねまりさ!一個か二個はすくなくともついてるはずだよ!」 「ゆ~赤ちゃんたちは一つも見えないよ。れいむの頭にはたくさんの葉っぱさんしかないよ?」 「じ、じゃあなんでれいむを起こしたの!?赤ちゃんはまだ生まれないよ!」 「ゆゆ、みてこれ!葉っぱさんが落ちてきたんだよ!だから赤ちゃんたちも落ちてくるとおもったんだよ!」 そういってまりさは先ほどれいむの蔓から落ちてきた緑色の物を指し示した。 まりさが葉っぱだと言い張る物、れいむにはそれがどうしても葉っぱには見えなかった。 なぜならその物体は果物の様に綺麗な球体で、その緑色はついこの間れいむが目にした忌まわしきあの天敵の色そのものだったからだ。 「カカカカカカカビだああああああああああ!!!!」 れいむは絶叫した。今まで自分の頭から生えていた物はゆっくりした赤ちゃんではな自分達を殺す気味の悪いカビの固まりだったからだ。 「これがカビ!!?どどどどういうこどおおおおおお!!!」 まりさにしても葉っぱだと思っていた物が以前自分を苦しめた原因だったのだから混乱しないわけがない。 まるで頭を抱える様にまりさはうずくまって叫び続けた。 その空気の振動でぼたぼたと落ちるれいむのカビ球。普通のゆっくり以上にカビを嫌悪している二匹にとって その光景は恐怖でしかなかった。 「うぎゅうううう!!!カビさんこないでえええええええ!!!」 「れいむ!いったんお外に出るよ!」 巣から勢いよく飛び出した二匹を待っていたのは夜遅くまで降り続ける梅雨の長雨。 光の全くない雨の日の森の中で一夜を過ごすのはゆっくりにとっては命がけだ。 「ゆぎゅう・・・!今日はお外じゃゆっくりできないよ。お家に戻ろうれいむ。」 「ゆうううう・・・でいむのあがぢゃんがぁぁぁ・・・・」 自然の力に負けた二匹は仕方なく今日は巣の中で夜を越すことにした。 朝になったらすぐにぱちゅりー達の所へいって相談しよう。まりさ達はなるべくカビ球から離れてから床についた。 「うぎゅ・・・ぎゅぎゅ・・・」「おが・・・」「・・・げで・・・」 更に夜が深くなった時、まりさ達は外からの雨音に混じって奇妙な声を聞いた。 「ゆっ?だれ、だれなの!?」 巣の中には自分達二匹しかいない。雨が降っている深夜に他のゆっくりが外出しているとも考えられなかった。 カビに続く気味の悪い現象にまりさ達は大きなストレスを感じ始めた。 「ゆぐううう!!まりさぁ、こわいよぉ!!!」 「ゆっ!だいじょうぶだよれいむ!まりさがいるからね!」 まりさは大きく顎を張りれいむを落ち着かせようとしたが正直まりさも今の事態に頭を回していた。 なぜ自分達にこれほどゆっくりできないことが続くのか、ゆっくりに神様がいるとしたなら今すぐにでもまりさはその神様を やっつけてやろうとまりさは考えていた。 自分達以外の生き物はいないはずの巣に自分達以外の声がする。 何度巣を見回してもあるのは部屋の隅にある保存用食料とカビ球。 カビ球・・・? まりさはよく目を凝らしてそのカビ球を見つめた。 そういえばなぜ球なのだろうか。自分にできたカビはどうやら皮一枚にしかついてなかったらしい。 じゃあこのカビは球にびっしりとついてるのだろうか? その時、微かにカビ球が動いたことにまりさにつられてカビ球を凝視していたれいむが気づいた。 直後、れいむはそのカビ球に飛び寄った。 「ゆゅ!?れいむ何してるの!あぶないよ!」 まりさの制止も聞かずれいむはカビ球のカビを口を使ってさっと払った。 「おが・・・おがあざん・・・」 出てきたのは可愛らしい顔を涙とカビでぐちゃぐちゃにしたれいむ種の赤ちゃん。 カビ球の正体はカビで包まれた赤ちゃん達だったのだ。 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛れいむのあがぢゃんがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」 「いだいよぉ・・・いだいよぉ・・・」「だずげでえ・・・」「うぎゅ・・・うぎゅ」 そのカビ球全てが赤ちゃんだと知ったれいむは全ての赤ちゃんのカビを口で払いはじめた。 「あがぢゃあああああん!!!でいむのあがぢゃあああああんん!!!」 「やめてよれいむ!そんなことしたらゆっくりできなくなっちゃうよ!!!」 「うるざぁいいい!!!だまっででええええええ!!!」 その母親としてのれいむのあまりの剣幕にまりさは気圧されてしまう。 「まっででね!!いまだすげであげるからね!!!!」 粗いながらもれいむは全ての赤ちゃん達のカビを払い終わった。 しかしその代償としてれいむの体はカビでいっぱいになっていた。 その様子はまるでカビの培養実験で使われたシャーレの様、たった短時間でれいむは既に虫の息となっていた。 そのれいむが救ったと思った赤ちゃん達も半数が息を引き取っている上に残りの子達も全て虫の息だった。 「れいむのばがぁ!!こんなごどしだらゆっくりできなくなるってわかってたでしょぉ!!!」 「ご、ごめんねまりさ・・・もうれいむはゆっくりできないよ・・・」 「ゆぅぅ!!!ぞんなごどいわないでえええええ!!!!!」 「まりさ・・・きっとまりさにはまだカビさんがついてるんだよ・・・ここにいたらきっとぱちゅりー達に知られちゃう。 そしたら今度は殺されちゃうかもしれない・・・れいむのことは放っておいてすぐににげてね・・・」 「できないよぉぉ!!!まりざはれいむどゆっくりするためにあの日がんばっだんだよぉ!!?」 「まりさ、れいむは短い間だったけどとってもたのしかったよ・・・いっしょにゆっくりしてくれてありがとうねまりさ・・・」 「れいむ・・・?れいむ!!おきでよれいむ!!おきで!!!」 それより先、れいむは二度と喋ることはなかった。 周りの子供達もまりさが放心しているうちにいつの間にか息絶えていた。 外に出ると雨は降っていたが既に空は明るんでいた。 れいむの意思を組んでこの群れを離れよう、まりさはカビの死体となったれいむと赤ちゃんを器用に風呂敷に包んで 長旅の準備を整えた。 「むっぎゅうう!!!まりざあああああああああ!!!」 外から尋常ではない気迫のぱちゅりーの叫び声が聞こえた。ばれたのか、まりさは焦ったが落ち着いて考えるとあまりの情報が早すぎる。 疑問を抱きつつしずかに扉を開けるとそこには鬼の形相をしたぱちゅりーや大れいむ、群れの面々がまりさを睨んでいた。 「まりざ!!あなたまだカビが残ってるでしょ!!」 「ゆぅ!!なんでもう知ってるの!!?」 「当たり前よ!!!これを見なさい!!!」 そういってその場にいたまりさ以外のゆっくりは一斉に左右どちらかの頬をまりさに見せつけた。 「ゆぐうううう!!?みんな緑色!!!!?」 「そうよまりさ!!カビがついているあなたが私達に頬擦りしたから私達にもカビがうつったのよ!!!」 「みみみみんな、ごめんね!まりさはそんなつもりじゃ・・・」 無論まりさにはみんなにカビをうつす気などなかった。 しかしなんと言おうと結果的にはうつしてしまったことに変わりはない。ぱちゅりー達の怒りが収まるわけがなかった。 「うるさいよゲスまりさ!!やっぱり臭いやつはきれいになっても心はくさいやつなんだよ!」 「くさいまりさはしね!」「まりざのせいでありすの子供達ももう・・・」「ゆるせるわけないよーわかるよー!」 「いくよみんな!まりさに総攻撃をかけるよ!!!」 大れいむの掛け声で群れのゆっくりは戦闘態勢に入る。当然その目線の先にいるのは扉前に立っているまりさだ。 「かかれー!!!」 「「「「「おぉーー!!!」」」」」 「いやぁあ!!!やめてえええ!!!」 まりさは向かってくるゆっくりの群れに恐れをなしすぐに家に閉じこもってしまった。 「むぎゅううう!!!やめでええおさないでえええええ!!!」 「いだいよおおおお!!!はやくどいでええええええええ!!!!」 先頭にいたぱちゅりーと大れいむは群れと扉の板挟みとなり異常な程に平ぺったくなっている。その衝撃で巣の扉のノブが壊れてしまった。 まりさの巣の扉は引くタイプ。つまりノブがついてなければ外部から手のないゆっくりが侵入するには扉を壊すしかない。 「むっぎゅうううううううう!!!ぎゅっ?!」 「やめでえええええええええ!!!ゆっぐりできないいいいいいいいいい!!!いぎっ!?」 しかしまりさ自慢の巣の扉は頑丈だった。ぱちゅりーと大れいむが揃って圧殺される程の力がかかってもびくともしなかったのだ。 「ゆぅ・・・お家のとびらをしっかりつくっててよかったよ・・・」 しかしまりさにゆっくりしている暇などない。まりさは急いで扉の前にありったけの土を地面から掘り出して積み上げていった。 その土のおかげもありまりさの巣は見事な鉄壁を作り出すことに成功した。 「よぐもぱちゅりーとだいれいむをおおおおおお!!!」 「でてこいまりさぁ!!!ひきょうものぉ!!!!」 襲撃から二時間、群れの面々はいまだにまりさの巣の前で怒号を放っていた。 一方のまりさはというと巣から出ることもできない上に土を掘り起こした疲労、そして目の前のカビだらけの死体との対面で 著しく体力を失っていた。 溜め込んでいた食料を食べようにも、災難なことに全てがカビでやられていた。 「ゆぅぅれいむぅ・・・さびしいよぉ゛・・・」 その時外から悲鳴が聞こえてきた。 「いやあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ありすとかいはな顔があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」 さっきまで近くの朽ちた老木の下で寝ていたありす一家母親の顔の半分は緑色で覆われている。 しとしとと降る雨と老木の湿気が無防備なありすの顔にあるカビの浸食を早めたのだ。 「大丈夫ありす!?ゆぎゅっ!?」 近づこうとするれいむ種がぬかるんだ地面で勢いよく滑った。 「ゆぎゅぎゅ・・・いたいよぉ。ゆっ・・・?れれれいむの髪があああああああああああああああ!!!!」 転んだれいむ種の目の前にあったのは自分の髪とリボン。湖でいつも確認をしていたから間違えるわけがなかった。 「いやあああああ!!れいむの髪があああ!!!リボンがあああああ!!!」 カビによりもろくなった頭皮、それが転んだことによりずるむけたのだ。 「あああれいむうううう!!!」「いやああああ!!!カビさんこわいよおおおおおおお!!!」 「ここにいたらゆっくりできなくなるううううううう!!!!」 被害を目にしたゆっくり達が一斉にパニックなり方々へと散らばりだす。 しかし群れのゆっくりの数は多い。ゆっくり達はあちらこちらでぶつかり合い先ほどのれいむ種と同じ悲劇を繰り返した。 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛まりざのおめめがあああ!!!」「いやあああああほっぺがくずれるよおおおおお!!!!」 「おがーしゃあ゛あ゛あ゛あ゛がぁっ!!?」「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛でででいぶのあがぢゃんがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」 外から聞こえる阿鼻叫喚にまりさは改めて恐怖した。自分もあのように死んでいくのだろうかと思うとろくに動くことができなかった。 外の連中よりもカビとの付き合いが長い自分が今度へまをすれば無事ではないことは本能で理解していた。 「ゆうううううぅ!!!れいむぅ!!ごわいよぉおおおおお!!!!」 それからまりさはその巣にひたすら籠ることになった。 外に出れば群れのみんなに殺されることが分かっていたからだ。 だがカビの蔓延した巣からでないことはそれだけで自殺行為であった。 一日経つだけでカビはまりさの頭皮からまりさの全体の皮膚を侵していった。 日が経つにつれてまりさの体は動ける部位が減っていき、三日目にはカビの中心であった頭皮から反対側に位置する まりさの顔以外は全てカビで埋まっていた。 「うぎぎぎぃ・・・いだいよぉ・・・・くさいよぉ・・・」 ところどころで走る激痛と倦怠感がまりさの意識を朦朧とさせる。 すでにまりさは食事をとることすら頭になかったのだ。 「れいむと赤ちゃんたち・・・ぱちゅりぃ・・・大れいむぅ・・・みんなごめんねぇ・・・・!」 その意識の中で既に自分のせいで亡くなった仲間達に謝罪を発することができたまりさにもうやり残すことはなかった。 「ごべんねえ・・・!ごべんねえ・・・!ごべ・・ん・・・ね・・・・」 八月 強烈な夏の日差しは以前ゆっくりの群れがあった林をも照らしていた。 そこにやってきたゆっくりれいむ。古木の下に綺麗な色をしためずらしいものを見つけたのでそれが気になりやってきたのだ。 「ゆっゆー!とってもきれいなものだよ~!」 しかし自分の巣に運ぶにはちょっと大きい、ゆっくりれいむがきょろきょろと周りを見てみると今度はちょうどいい大きさの気を見つけた。 「ゆぅ~!!こんなゆっくりしたおうち初めて見たよ!それにあのきれいな物がこんなにたくさんあるよ! きめた!ここは今日かられいむのお家だよ!あしたまりさとありすとちぇんとー、うーんぱちゅりーは疲れるだろうから涼しくなったらにしよう!」 天敵に無防備なゆっくり、自然界で彼らが生き残れるのは後何年間だろうか。 このSSに感想を付ける
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「みんな!体をキレイキレイにするよ!」 ここは霧の湖。一家の主である母れいむが口に水をため子供達に吹きかけている。 「ゆっ!きもちいいよ!」「ちめたーい!」「からだキレイキレイにするよ!」 冷たい水にキャッキャッと声を上げる子供達だがその中に一匹だけムスッとふくれている子供がいた。 「からだを洗うなんてめんどくさいよ・・・」 そのまりさ種の子ゆっくりは体を洗うことを酷く嫌っていた。 子まりさ自身は面倒くさいから嫌だと言っているが実際は本人すら知らない記憶の奥底、水に流され死んでいった父まりさのトラウマが 水に触れるという行為を極端に嫌わせていた。 「大きくなって独り立ちしたら絶対に体をあらったりするもんか。」 幼少時代にその決意を誰にも話すこと無く育ったまりさはすくすくと成長し見事な成ゆっくりとなったまりさは 越冬を終えた後、他の姉妹よりもずっと早く独り立ちした。 独り立ちして二ヶ月、まりさはまりさ種であるが故に狩りの腕もめきめきと上達し自分一人の巣も簡単ではあるが扉付きという つがい相手としてはこれ以上無い程優秀なゆっくりとなっていた。だがこのまりさには当然できるべくしてできた欠点があった。 「ゆうぅ!!くさいよ!」「くさいまりさはとっととどっかに行ってね!」「おおくさいくさい」 子供の頃の決意を揺るがすことなかったまりさは独り立ちした後に湖に行くことは水を飲む為だけになった。 つまりまりさは半年間水場の近くに住んでいたにもかかわらず一度も体を洗っていなかったのだ。 巣の中でひたすらゆっくりする赤ちゃんゆっくりならまだしも、外へ狩りに出るまりさの体は四六時中汚れていた。 生き物としては常識はずれのゆっくりだが汚れた体を不潔のままにしておけば臭いはしてくるらしい。 最初はその甲斐性に惚れていた多くのゆっくり達も2週間、3週間と経つと自然とまりさのもとから離れていった。 「べつにいいよ!まりさはひとりでゆっくりできるからね!」 体を洗うなんて愚図がやることだ。ゆっくりにあるまじきその活発的な考えは実はゆっくりの怠惰な特徴を濃縮した果ての考えであった。 そんな変わり者のまりさにも少ないがそれ故に固い絆で結ばれた親友が二匹いた。 「まりさ!れいむはまりさから離れたりはしないよ!」 彼女はゆっくりれいむ。幼少時代からのかけがえの無い親友だ。 今では当然となったまりさの水浴び嫌いも成体になってからその癖を初めて知ったれいむは驚きを隠せなかった。 しかしまりさはこの森のどのゆっくりよりも全てにおいて優れているとれいむは信じていた。 それはきっと体を洗わずに日々鍛錬を続けてきたからに違いないともれいむは信じていた。 「ゆぅぅ・・・ありがとぉおおおおお!!!」 れいむは水浴びをしてはいたがそれをまりさに強要することは無かった。 なぜなられいむはまりさに水浴びを一度でもさせることでその能力が削ぎ落とされるのではないかと思っていたからだ。 れいむは自分よりも優れたまりさの能力の根源を水浴びをしないことでもたらされた力、 すなわち一種の願掛けによるもののような気がしてならなかった。 それを失わせる行動をとることはまりさを軽く神格化していた二匹にとってはとても恐れ多いものだったのだ。 「「ふたりでゆっくりしようね!!!」」 まりさにとっては大切な友人、れいむにとっては崇めるべき尊い存在として互いにその心の拠り所となっていた。 「ゆぅぅ、なんか背中がかゆいよぉ。」 「大丈夫まりさ?・・・ゆ!ま、まりさ!」 「ゆぅ?なに?」 珍しく晴れていたある日、二匹がいつもの様にくつろいでいると突然れいむがまりさの背中を見て驚いた。 「ゆっゆううううう!!!?」 「な、なに!?おどろいてばかりいないで何があったかゆっくりおしえてね!」 「ま、まりさの背中が・・・緑色になってるううううう!!!」 「ゆぅう!!?」 れいむの言う通り、まりさの背中は鮮やかな緑でその六分の一が覆われていた。人で言えば尻の部分、蒙古斑のような可愛い物では決して無いが。 「まりさ!」 「な、なに!?」 「こんな色をしたまりさは見たことないよ!とってもきれいでかっこいいよ!」 基本ゆっくり達の中には緑色を持った種は珍しい方である。最も目につく種がちぇん種であるがそれは身につけている帽子がだ。 今のまりさの様に体自体が緑色になるゆっくり等は少なくとも周囲の群れでは全く見かけなかった。 「きれい・・?まりさきれい・・・?」 「とってもきれいだよ!群れの中でもこんなにきれいなゆっくりは見たこと無いよ!」 子供の頃綺麗になると言われ嫌々水浴びをしていたまりさ。独立し、水浴びをしなくなったまりさはあれ以降綺麗などとは一度も言われなかった。 久しぶりに言われたその言葉はまりさの感情を大きく揺さぶった。 「れ・・・れいぶありがどおおおおおおお!!!」 大声を上げてまりさは泣きじゃくり始めた。ここまで大泣きするのも一体何時ぶりだろうか。 「泣かなくていいんだよまりさ!これがまりさの本当の姿なんだから!」 「ゆぐっ・・ゆぐっ・・・」 「そうだっ!きれいなまりさをみんなに見せにいくよ!きっとみんなまりさを馬鹿にしたことをあやまってくれるよ!」 「ゆぐっ・・!群れに・・・!?」 今までまりさは自分に自信が持てなかったわけではない。ただ、今の自分はいつもの自分よりも何かで胸の中が満たされていた。 「・・・ゆっ、ゆっくり、みんなにあいさつにいくよ!」 まりさは群れのゆっくりにあうことを自分自身で決めた。 「まりさとってもきれいだね!」「こんなにきれいな色をしたゆっくりはみたことないよ!」「おおきれいきれい」 翌日、群れの小さな集落へと出かけた二匹のまわりには大きな人だかりならぬゆっくりだかりができていた。 その中心となっているのはあの緑色を背負ったまりさ。顔は今までしたことの無い笑顔で満ちている。 「これがまりさの本当の姿なんだよ!見事なとかい派でしょ! みんな、今までまりさを馬鹿にしたことをゆっくりあやまってね!」 「い、いいんだよれいむ。まりさはべつに怒ってなんかないよ!」 自分の容姿が認められているというだけでまりさの今までの鬱憤は跡形も無く消えていた。 「ゆっ!まりさの緑色がきのうよりも広がってるよ!もうちょっとで髪の毛の所まで緑色になるよ! もしかしたら髪まで緑色になるかもしれないね!すごいよまりさ、とってもゆっくりしてるよぉ!!」 れいむにつられて周りのゆっくりからも歓声が沸き上がる。 「むきゅ!どうしたのみんな大声で!」 歓声を聞きつけてやってきたのは群れの知恵袋であるぱちゅりー、前々から水浴びを嫌うまりさに口うるさく清潔を保つ様に言っていたので まりさはあまりぱちゅりーのことを好んではいなかった。 そのぱちゅりーに今の体を褒めてもらえたならもうこれ以上の喜びは無い。それはあの幼少時代に疎ましく思っていた母に勝利する感覚だろう。 ぱちゅりーは誇らしげに胸、ならぬ顎を張るまりさに近づきその背中を見るや否や叫び始めた。 「むきゅうう!!!みんなまりさから離れるのよ!!近寄ってはいけないわ!!!」 「ぱ、ぱちゅりーなんてこというの!!?」 「ひどいよぱちゅりー!まりさはこのみどりをとっても気に入ってるのにぃ!」 「気にすることないよまりさ!しょせんちしきしか無い病弱なぱちゅりーにはまりさのみどりがりかいできないんだよ! そうだ!ぱちゅりーはまりさにしっとしてるんだよ!おおあさましいあさましい。」 れいむは自慢の緑色の背中を否定されたことでうろたえるまりさのことを必死にフォローした。 しかし、ぱちゅりーは目を見開いたまま大声で叫び続ける。 「嫉妬なんかじゃないわ!まりさのその緑色は・・・カビよ!!!」 ぱちゅりーにまりさがカビだと宣告されて数十分後、体を葉っぱで包み込んだゆっくり達によってまりさ達は捕えられていた。 「むきゅう・・だからあれだけ体を洗っておきなさいって言ったのに。」 「はなじでええ!!まりさ達はなんもわるいことなんかしてないよおお!!」 「汚れたゆっくりは体を洗わないとまりさみたいにカビが生えやすくなるんだよ。ぱちゅりーやまりさのお母さんは まりさのことを心配して体を洗えと言っていたんだよ。」 群れのボスの大れいむは声を荒げずに静かにまりさを諭した。だが当のまりさは納得しない。 そもそもカビが生える環境には適した水分や温度、栄養等が必要だ。 本来ゆっくりの表皮は自然の脅威に対抗した防水性や抗菌性といった機能を保持している。 そのため巣に籠り餌を持ってきてもらえる環境にあるゆっくりにカビが生えるということは滅多に無い。 しかし狩りをするゆっくりとなると話は別だ。 彼らが狩りをする時、その体の構造上から草や虫を踏みつけながら森を走り抜けなければならない。 そのため体中に草汁や虫の体液がこびりつくのだ。 これらを水で洗い流す、もしくは仲間に舐めとってもらうなどの行動をとらなければ ゆっくりの表皮にはそこ足がかりとしてカビが生えてくることがある。 つまり狩り中心の生活をしていたまりさの体は洗わないことで見事な菌床と化したのだ。 「ふん!水浴びしたら体が溶けてしんじゃうんだよ!体を洗うゆっくりの方がおかしいんだよ!」 「きくみみもたないんだね。」 「ゆん!まりさはぜったいに体を洗わないよ!」 「しかたないね・・・」 大れいむは悲しそうに顔を下に向けた後、すぐにぱちゅりーの方を向いた。 「二匹を群れから遠くはなれた崖上近くについほう!二匹が死ぬか条件を満たすまでかんしをつけるよ!」 高らかに宣言される追放と死の言葉に三匹は大きくうろたえ始めた。 「なななななにいってるのおおおおおおお!!!」 「れいむだぢはわるいごどしてないよおおおおお!!」 「まってみんな!群れに戻る方法はあるんだよ!」 大れいむの言葉を聞いて二匹はぴくっと反応をする。この窮地を救う手段があるのなら何でもいいからすがりたい、 二匹は穴をあけようとするかの様に大れいむをじっと見つめた。 「あるにはあるけど覚悟が必要だよ。とくにまりさ!まりさにはいたい目にあってもらわなければいけないよ!」 「ゆぅ!どうすればいいの!どうすればたすかるの!?」 この際体を洗ったって構わない、まりさの幼少時代の決意は死と天秤に量られることでいとも簡単に空へと舞い上がったようだ。 「ゆっ!れいむは河で念入りに体を洗うだけでいいよ!」 大れいむの言葉に緊張が解かれるれいむ。れいむにとってはいつもと同じことをやればいいだけの話だ。 「で、まりさ。まりさの方は・・・」 まりさの気分はさっきよりも楽になっていた。水浴びを念入りにするのは気に食わないが死ぬよりはマシだと思ったからだ。 だが大れいむから示された条件はぱちゅりーを除いたその場のゆっくり達には到底想像もできないものだった。 「そのカビた部分をれいむに引きちぎってもらってね!」 それから数時間経った今、まりさの背中は変わらず緑色だった。 「まりさ!れいむがちぎってあげるから背中見せて!」 「ゆぅうう!!!いやだあああああああ!!!!」 「まりさまってえ!!!」 崖上に追いやられてすぐ、れいむは早速まりさの背中のカビ部分を引きちぎろうと躍起になっていた。 しかし引きちぎられる側にとってはそんな覚悟はたまったモノではない。 高い身体能力に物を言わせ背中に回ろうとするれいむからまりさは逃げ回っていた。 「やだああ!!痛いのはいやだあああ!!!」 叫ぶまりさのカビは大れいむの宣告を受けた時よりもわずかだが広がっていた。 カビが広がれば広がる程引きちぎる箇所が増えていくということもぱちゅりーからは伝えられてはいたが 目先の恐怖から逃げ続けるまりさの頭の中にその助言は残っていなかった。 気がつけば崖上に一匹、まりさは涙を流しながら夜空を見上げていた。 「どうじでごんなごどに・・・」 水に触れたくない、ゆっくりとしては至極当然な考えだと思っていた行動が実はもう一つの天敵であるカビを引き寄せてしまった。 カビが生えている背中の感覚が徐々に無くなってきていることにまりさは気づいていた。 このまま全体に行き渡れば自分の体は腐り落ちて醜く死んでいくだろう。 だがそれを防ぐ手段が体を引き裂くこととは、大れいむの宣告を思い出すだけでまりさの目には玉の様に涙があふれた。 「まりさ!」 後ろの草影から出てきてまりさの名前を呼ぶれいむ。わざわざ声を上げていることからして不意打ちではないらしい。 「嫌だよ!背中を引きちぎられたらゆっくりできないよ!」 「このままでいてもゆっくりできないんだよまりさ!」 崖上に追いやられてから続いている押し問答をまた繰り返し始める二匹。 「どうじでれいむはまりざのいやがるこどをずるのおおおおお!!!」 「このままだとまりさが死んじゃうからだよ!今背中をちぎれば一緒に群れにかえれるんだよ!」 それを聞いた瞬間まりさの眼がキッと鋭くなりれいむを睨んだ。 「違うでしょ!れいむは群れに帰りたいだけなんでしょ!本当はまりざのことがきらいなんだ! だがら背中を引きちぎってやるなんて言うんだよ!そんなれいむ達なんか大嫌いだ!ゆっくりしね!」 「なんでそんなこどいうのおおおおおおおおお!!!」 まりさの言葉が餡子でできたれいむの心に突き刺さった。 大声で泣きながら顔を歪ませるれいむを見てまりさの気分が少しだけ晴れる。 「れいぶはまりざがだいすきなのにいいいいいいいいいいい!!!」 「ゆっ・・・?」 しかし今度はれいむの言葉がまりさの心に突き刺さった。 だがその刺さり方はれいむとは違う物では例えようないモノが突き刺さった感覚だった。 「まりさが逃げる姿を見て思ったよ!まりさはれいむ達にとって神様でもなんでもないおなじゆっくりだって! でもそう思うと逆にれいむ達は心がおちついたんだよ!まりさはれいむ達のたいせつな友人、いやそれ以上の関係だってことが分かったから!」 「れ、れいむぅ・・・!」 「れいむはまりさが大好きだよ!子供を作って一緒にゆっくりしたいもん!でも・・・ まりざがぞんなからだだとぜっだいすっきりなんでできないよおおおおおおおおお!!!!」 「ゆぐぅうぅぅうぅ!!!!!」 れいむが自分のことをそこまで愛していたということを知り衝撃を受けるまりさ。 だが今のまりさの体はれいむの言う通り決してすっきりできない体だった。 今他のゆっくりとすっきりしようとすればその相手には必ずカビがうつるだろう。 くわえてそのカビの影響を受けてしまえば子育てができないどころか奇形児が生まれてしまうかもしれない。 まりさが子供を作る為には背中のカビを排除する以外に道はなかったのだ。 「ゆぅうぅぅぅ・・・・!うぎゅぅぅぅ・・・・!!」 「ま、まりさ大丈夫!?いたいの!?」 まりさは悩む。大れいむからの宣告と背中を引きちぎることの痛みを量る天秤に新たにれいむの告白が加わったからだ。 れいむがそのどちらに荷担したかは言うまでもない。 うなるまりさが静かになり一分が経つ。この一分間はれいむにとっては今までの生活で最も長い時間となっただろう。 「ちぎって」 「ゆっ!?」 「まりさの背中のカビをちぎってね!」 「ま、まりざああああああ!!!」 まりさは自分の命とれいむの想いのため自分が痛い目を見る決心をした。 「まりさ、いくよ・・・」 「ゆっ!」 「ゆっくりたえてね!」 「ゆっ!」 まりさは木の幹にがっしりと噛み付き痛みに耐える準備をしている横でれいむもまりさの背中を引きちぎる準備をしている。 「じゃあまりさ、今からきずをつけるからゆっくりたえてね・・・!」 れいむはまりさのカビを効率よく引きちぎる為に一つの作戦を考えていた。 まずまりさの背中にカビを取り囲む様な傷を付ける。カビを引きはがした時に余分な所まで傷つけない様にする為だ。 「ゆっ!・・・ゆゆゆゆゆゆゆゆゆうぅううぅぅうう!!」 「がまんしてねまりさ!引きはがすときはこれよりもっと痛いんだからね!」 れいむはフォローのつもりなのかもしれないがやられるまりさからしたらいちいちそんな宣告はしないでほしい。 だからといって心配してくれるれいむを無下に扱うわけにはいかない、まりさはただひたすらいた意味に耐えることがだけに集中した。 「ゆっ!・・ゆぅ・・ゆぅ・・・」 「おわったよまりさ。さあこれからよ、覚悟はいいわね!」 「ゆぐぅ!ゆゆゆゆゆ・・・」 「だいじょうぶだよありす!まりさはさっきやるっていったもん!」 「ゆゆ!ゆぅぅ・・・」 正直まりさは後悔し始めていた下準備でこれだけ痛いのだからこれから行われることは一体どれだけの痛みを伴うのだろうか、 まりさは不安と痛みで頭の中がぐるぐると回っていた。 「さすがまりさだね!それじゃあ一気にいくよ!せーのっ・・・」 「ゆぅっ!?ゆゆゆゆゆゆ!」 「それっ!!」 「ゆぎゅ!!ぐうううううううううううう!!!」 掛け声と共にれいむはまりさのカビ部分に余裕を持たせてマーキングした箇所に噛み付き思い切り引っ張った。 「うぐぐぐ!!なかなかとれないよ!ふんぐううう!!」 「うぎぎぎぎ!!!ゆゆゆうぎぎぎぎぎぎぎぎぎ!!!」 「まりさ我慢してね!」 「ゆうううううううういぃっしょ!!」 「ゆう゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!!!!」 森中にまりさの悲鳴がこだまする。それはれいむの計画が成功しまりさ達がその罪を償ったという合図でもあった。 贖罪から二日が過ぎた。 まりさの背中はぱちゅりー達の治療のおかげで傷跡のない綺麗な肌に戻っていた。 大れいむとぱちゅりーは見事に試練を克服したまりさとれいむが正式に群れに加わることを快く承諾した。 まりさが元気になってすぐ、れいむは改めてまりさに告白し二匹は正真正銘の夫婦となった。 「れいむ、きっとゆっくりした赤ちゃん達だよ!」 「ゆぅゆぅ!はやく落ちてきてね赤ちゃん!」 れいむの頭に生えている茎には小さな黒い実が7つ程可愛らしく生えている。 自らのカビをはぎ取り、体を綺麗に洗ったまりさだからこそ手に入れることができた幸せ。 その幸せを常に忘れない為にまりさは自分の体を洗うことを日課としていた。 「ゆうぅ、れいむも赤ちゃんたちの姿がみたいよ。」 「だいじょうぶ!まりさがしっかり赤ちゃんのことを見ててあげるよ! そうだ!このことをぱちゅりーと大れいむに伝えてくるよ!きっとよろこんでくれるよぉ!」 「ゆっ!まってまりさ!れいむの頭がかゆ・・・もうゆっくりしてないんだから!ぷんぷん!」 外は霧雨、ゆっくりが外出できない程ではなかったが身重のれいむは巣から出ることはできなかった。 「ぱちゅりー!」 「むきゅ!まりさ!元気にしてた?」 「あたりまえだよぉ!ぱちゅりぃー!!」 「むきゅう!まりさやめなさい!はずかしいじゃない!」 体の清潔を保つ様になってからまりさはやたら他のゆっくりと頬を擦りあわせるスキンシップをとる様になった。 当然愛しているのはれいむただ一匹だけなので交尾に発展することは決して無い。 例えるなら欧米人のスキンシップにそのノリは近かった。 「ゆ!ごめんよぱちゅりー!ゆゆ!大れいむ!大れいむもこんにちは!」 そう言ってぱちゅりーにしたのと同じ様に大れいむと頬を擦り合わせるまりさ。 体の大きい大れいむはとてもくすぐったそうだったがまりさの好意を無下に扱う気はさらさらなかった。 「ゆー!まりさくすぐったいよ!」 「ゆう~♪ゆう~♪ゆう~♪」 「まりさ、今日わざわざここに来たってことはなにかあったんじゃないの?」 気分よく大れいむにじゃれるまりさの浮かれ具合に気づいたのか、群れの管理を行うぱちゅりーはその原因を知らなければならないと考え まりさの動きを制止した。 「ゆ、そうだった!びっくりしないでねぱちゅりーに大れいむ!なんとまりさとれいむに赤ちゃんができたんだよ!」 「むきゅん!それはすばらしいことね!」 「それでにんっしんっ!はしょくぶつがた?おなかがた?」 「ゆ?なにそれ?」 末っ子、そして今まで一人で暮らしてきたまりさにとってにんっしんっ!という概念はあってもそれがどのようなモノなのかは 全く考えが及ばなかった。そのため、今回のれいむのにんっしんっ!が頭から蔓が生える植物型であるということや もう一つのにんっしんっ!のタイプ、動物型が存在するということも全く知らなかった。 ちなみに大れいむが言っているおなかがたとは人間たちの言う動物型のことだ。 「むきゅ、頭からはっぱさんが生えていたらしょくぶつがた、おなかがおおきくなっていたらおなかがたよ。 しょくぶつがただったらうまくいけば今日中に赤ちゃんたちは生まれるわ!」 「ゆゆゆ!れいむの頭にはみどりのはっぱさんがたくさん生えてたよ!」 「よかったねまりさ!きっと今日の夜には赤ちゃんたちとゆっくりできるよ!」 「ゆ!そしたらゆっくりしないで帰るよ!教えてくれてありがとう、ぱちゅりー!大れいむ!」 まりさは二匹に背を向けたまま礼を言って一目散に自分の巣へと帰っていった。 「むきゅう・・・せっかちなゆっくりね、まりさは。」 「そういうゆっくりも群れにはひつようなんだよ、ぱちゅりー。」 「むきゅ?むっきゅう・・・」 「ゆ?どうしたのぱちゅりー。」 「むきゅ~、なんだかほっぺがかゆいわ。」 「ゆゆ?そういえばれいむもかゆいよ?なんでかな?」 巣の中、まりさとれいむはわくわくしながらゆっくりと赤ちゃんたちの誕生を待った。 きっととってもゆっくりした赤ちゃんが生まれるだろう、生まれた赤ちゃんたちには色んな狩りの方法やゆっくりプレイスの探し方を教えよう、 れいむ種とまりさ種どちらが多いだろうか、毎日毎日体をきれいにしてあげよう。 二匹のゆっくり将来は月が高く昇るまで延々と続いた。 だが、当の赤ちゃんたちは以前生まれ落ちる気配はない。れいむに至っては蔓から全く振動を感じないことに不安を抱く始末だ。 「ねえ、まりさ・・・赤ちゃんたち何時生まれるんだろうね・・・」 「ゆう、きっととてもゆっくりした子たちなんだよ!心配しないでれいむはゆっくり寝てていいよ。まりさが見てるからね!」 親としては未熟なまりさであったがれいむの疲れはその顔から読み取ることができた。 これ以上疲れさせると赤ちゃんたちにも影響が出るかもしれない、まりさは直感的にれいむを休ませることにして 自ら夜番をとることをきめた。 「まだ葉っぱさんばっかり・・・本当に今日生まれるのかな?」 まりさの眼には確かにれいむから蔓が生えていた。 しかし肝心の子供たちはどうしてもまりさの眼には見えないのだ。 ただただ青いれいむの蔓、本当はれいむに尋ねてみたかったが蔓はれいむの頭から生えているのでれいむ自身には赤ちゃんたちの様子は見えない。 むしろこのことを話せば不安になるのではないかと思い言うに言い出せなかったのだ。 「でもいいよ!まりさの赤ちゃんたち、あせらずゆっくりうまれてね!」 その瞬間、まりさが葉っぱだと思っていたその物体はまりさの足下にぽとりと落ちた。 これは子供が生まれる兆しではないだろうか。そう思ったまりさはすぐさまれいむを起こし始めた。 「れいむれいむ!大変だよ!もうすぐ赤ちゃんが生まれるかもしれないよ!」 「ん・・ゆぅぅん・・?・・・ゆ!?赤ちゃんが!!?」 まりさの呼びかけで一気にれいむは覚醒した。赤ちゃん誕生の瞬間に母親がゆっくり寝ていたらいい笑い者である。 「ゆっゆっ!たのしみだね~!」 「ゆうぅぅん!何人生まれるんだろう♪まりさ、幾つ赤ちゃんたちができてる?」 「ゆっ?まだ赤ちゃんたちはできてないよ?」 「・・・ゆっ?」 まりさの言うことにれいむが疑問に思うのも当然だった。 れいむは一度自分の母の植物型にんっしんっ!を見たことがあったからだ。 その時の母の頭には自分の妹たちを思われる丸い固まりが幾つも生っていた。 「冗談言わないでねまりさ!一個か二個はすくなくともついてるはずだよ!」 「ゆ~赤ちゃんたちは一つも見えないよ。れいむの頭にはたくさんの葉っぱさんしかないよ?」 「じ、じゃあなんでれいむを起こしたの!?赤ちゃんはまだ生まれないよ!」 「ゆゆ、みてこれ!葉っぱさんが落ちてきたんだよ!だから赤ちゃんたちも落ちてくるとおもったんだよ!」 そういってまりさは先ほどれいむの蔓から落ちてきた緑色の物を指し示した。 まりさが葉っぱだと言い張る物、れいむにはそれがどうしても葉っぱには見えなかった。 なぜならその物体は果物の様に綺麗な球体で、その緑色はついこの間れいむが目にした忌まわしきあの天敵の色そのものだったからだ。 「カカカカカカカビだああああああああああ!!!!」 れいむは絶叫した。今まで自分の頭から生えていた物はゆっくりした赤ちゃんではな自分達を殺す気味の悪いカビの固まりだったからだ。 「これがカビ!!?どどどどういうこどおおおおおお!!!」 まりさにしても葉っぱだと思っていた物が以前自分を苦しめた原因だったのだから混乱しないわけがない。 まるで頭を抱える様にまりさはうずくまって叫び続けた。 その空気の振動でぼたぼたと落ちるれいむのカビ球。普通のゆっくり以上にカビを嫌悪している二匹にとって その光景は恐怖でしかなかった。 「うぎゅうううう!!!カビさんこないでえええええええ!!!」 「れいむ!いったんお外に出るよ!」 巣から勢いよく飛び出した二匹を待っていたのは夜遅くまで降り続ける梅雨の長雨。 光の全くない雨の日の森の中で一夜を過ごすのはゆっくりにとっては命がけだ。 「ゆぎゅう・・・!今日はお外じゃゆっくりできないよ。お家に戻ろうれいむ。」 「ゆうううう・・・でいむのあがぢゃんがぁぁぁ・・・・」 自然の力に負けた二匹は仕方なく今日は巣の中で夜を越すことにした。 朝になったらすぐにぱちゅりー達の所へいって相談しよう。まりさ達はなるべくカビ球から離れてから床についた。 「うぎゅ・・・ぎゅぎゅ・・・」「おが・・・」「・・・げで・・・」 更に夜が深くなった時、まりさ達は外からの雨音に混じって奇妙な声を聞いた。 「ゆっ?だれ、だれなの!?」 巣の中には自分達二匹しかいない。雨が降っている深夜に他のゆっくりが外出しているとも考えられなかった。 カビに続く気味の悪い現象にまりさ達は大きなストレスを感じ始めた。 「ゆぐううう!!まりさぁ、こわいよぉ!!!」 「ゆっ!だいじょうぶだよれいむ!まりさがいるからね!」 まりさは大きく顎を張りれいむを落ち着かせようとしたが正直まりさも今の事態に頭を回していた。 なぜ自分達にこれほどゆっくりできないことが続くのか、ゆっくりに神様がいるとしたなら今すぐにでもまりさはその神様を やっつけてやろうとまりさは考えていた。 自分達以外の生き物はいないはずの巣に自分達以外の声がする。 何度巣を見回してもあるのは部屋の隅にある保存用食料とカビ球。 カビ球・・・? まりさはよく目を凝らしてそのカビ球を見つめた。 そういえばなぜ球なのだろうか。自分にできたカビはどうやら皮一枚にしかついてなかったらしい。 じゃあこのカビは球にびっしりとついてるのだろうか? その時、微かにカビ球が動いたことにまりさにつられてカビ球を凝視していたれいむが気づいた。 直後、れいむはそのカビ球に飛び寄った。 「ゆゅ!?れいむ何してるの!あぶないよ!」 まりさの制止も聞かずれいむはカビ球のカビを口を使ってさっと払った。 「おが・・・おがあざん・・・」 出てきたのは可愛らしい顔を涙とカビでぐちゃぐちゃにしたれいむ種の赤ちゃん。 カビ球の正体はカビで包まれた赤ちゃん達だったのだ。 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛れいむのあがぢゃんがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」 「いだいよぉ・・・いだいよぉ・・・」「だずげでえ・・・」「うぎゅ・・・うぎゅ」 そのカビ球全てが赤ちゃんだと知ったれいむは全ての赤ちゃんのカビを口で払いはじめた。 「あがぢゃあああああん!!!でいむのあがぢゃあああああんん!!!」 「やめてよれいむ!そんなことしたらゆっくりできなくなっちゃうよ!!!」 「うるざぁいいい!!!だまっででええええええ!!!」 その母親としてのれいむのあまりの剣幕にまりさは気圧されてしまう。 「まっででね!!いまだすげであげるからね!!!!」 粗いながらもれいむは全ての赤ちゃん達のカビを払い終わった。 しかしその代償としてれいむの体はカビでいっぱいになっていた。 その様子はまるでカビの培養実験で使われたシャーレの様、たった短時間でれいむは既に虫の息となっていた。 そのれいむが救ったと思った赤ちゃん達も半数が息を引き取っている上に残りの子達も全て虫の息だった。 「れいむのばがぁ!!こんなごどしだらゆっくりできなくなるってわかってたでしょぉ!!!」 「ご、ごめんねまりさ・・・もうれいむはゆっくりできないよ・・・」 「ゆぅぅ!!!ぞんなごどいわないでえええええ!!!!!」 「まりさ・・・きっとまりさにはまだカビさんがついてるんだよ・・・ここにいたらきっとぱちゅりー達に知られちゃう。 そしたら今度は殺されちゃうかもしれない・・・れいむのことは放っておいてすぐににげてね・・・」 「できないよぉぉ!!!まりざはれいむどゆっくりするためにあの日がんばっだんだよぉ!!?」 「まりさ、れいむは短い間だったけどとってもたのしかったよ・・・いっしょにゆっくりしてくれてありがとうねまりさ・・・」 「れいむ・・・?れいむ!!おきでよれいむ!!おきで!!!」 それより先、れいむは二度と喋ることはなかった。 周りの子供達もまりさが放心しているうちにいつの間にか息絶えていた。 外に出ると雨は降っていたが既に空は明るんでいた。 れいむの意思を組んでこの群れを離れよう、まりさはカビの死体となったれいむと赤ちゃんを器用に風呂敷に包んで 長旅の準備を整えた。 「むっぎゅうう!!!まりざあああああああああ!!!」 外から尋常ではない気迫のぱちゅりーの叫び声が聞こえた。ばれたのか、まりさは焦ったが落ち着いて考えるとあまりの情報が早すぎる。 疑問を抱きつつしずかに扉を開けるとそこには鬼の形相をしたぱちゅりーや大れいむ、群れの面々がまりさを睨んでいた。 「まりざ!!あなたまだカビが残ってるでしょ!!」 「ゆぅ!!なんでもう知ってるの!!?」 「当たり前よ!!!これを見なさい!!!」 そういってその場にいたまりさ以外のゆっくりは一斉に左右どちらかの頬をまりさに見せつけた。 「ゆぐうううう!!?みんな緑色!!!!?」 「そうよまりさ!!カビがついているあなたが私達に頬擦りしたから私達にもカビがうつったのよ!!!」 「みみみみんな、ごめんね!まりさはそんなつもりじゃ・・・」 無論まりさにはみんなにカビをうつす気などなかった。 しかしなんと言おうと結果的にはうつしてしまったことに変わりはない。ぱちゅりー達の怒りが収まるわけがなかった。 「うるさいよゲスまりさ!!やっぱり臭いやつはきれいになっても心はくさいやつなんだよ!」 「くさいまりさはしね!」「まりざのせいでありすの子供達ももう・・・」「ゆるせるわけないよーわかるよー!」 「いくよみんな!まりさに総攻撃をかけるよ!!!」 大れいむの掛け声で群れのゆっくりは戦闘態勢に入る。当然その目線の先にいるのは扉前に立っているまりさだ。 「かかれー!!!」 「「「「「おぉーー!!!」」」」」 「いやぁあ!!!やめてえええ!!!」 まりさは向かってくるゆっくりの群れに恐れをなしすぐに家に閉じこもってしまった。 「むぎゅううう!!!やめでええおさないでえええええ!!!」 「いだいよおおおお!!!はやくどいでええええええええ!!!!」 先頭にいたぱちゅりーと大れいむは群れと扉の板挟みとなり異常な程に平ぺったくなっている。その衝撃で巣の扉のノブが壊れてしまった。 まりさの巣の扉は引くタイプ。つまりノブがついてなければ外部から手のないゆっくりが侵入するには扉を壊すしかない。 「むっぎゅうううううううう!!!ぎゅっ?!」 「やめでえええええええええ!!!ゆっぐりできないいいいいいいいいい!!!いぎっ!?」 しかしまりさ自慢の巣の扉は頑丈だった。ぱちゅりーと大れいむが揃って圧殺される程の力がかかってもびくともしなかったのだ。 「ゆぅ・・・お家のとびらをしっかりつくっててよかったよ・・・」 しかしまりさにゆっくりしている暇などない。まりさは急いで扉の前にありったけの土を地面から掘り出して積み上げていった。 その土のおかげもありまりさの巣は見事な鉄壁を作り出すことに成功した。 「よぐもぱちゅりーとだいれいむをおおおおおお!!!」 「でてこいまりさぁ!!!ひきょうものぉ!!!!」 襲撃から二時間、群れの面々はいまだにまりさの巣の前で怒号を放っていた。 一方のまりさはというと巣から出ることもできない上に土を掘り起こした疲労、そして目の前のカビだらけの死体との対面で 著しく体力を失っていた。 溜め込んでいた食料を食べようにも、災難なことに全てがカビでやられていた。 「ゆぅぅれいむぅ・・・さびしいよぉ゛・・・」 その時外から悲鳴が聞こえてきた。 「いやあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ありすとかいはな顔があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」 さっきまで近くの朽ちた老木の下で寝ていたありす一家母親の顔の半分は緑色で覆われている。 しとしとと降る雨と老木の湿気が無防備なありすの顔にあるカビの浸食を早めたのだ。 「大丈夫ありす!?ゆぎゅっ!?」 近づこうとするれいむ種がぬかるんだ地面で勢いよく滑った。 「ゆぎゅぎゅ・・・いたいよぉ。ゆっ・・・?れれれいむの髪があああああああああああああああ!!!!」 転んだれいむ種の目の前にあったのは自分の髪とリボン。湖でいつも確認をしていたから間違えるわけがなかった。 「いやあああああ!!れいむの髪があああ!!!リボンがあああああ!!!」 カビによりもろくなった頭皮、それが転んだことによりずるむけたのだ。 「あああれいむうううう!!!」「いやああああ!!!カビさんこわいよおおおおおおお!!!」 「ここにいたらゆっくりできなくなるううううううう!!!!」 被害を目にしたゆっくり達が一斉にパニックなり方々へと散らばりだす。 しかし群れのゆっくりの数は多い。ゆっくり達はあちらこちらでぶつかり合い先ほどのれいむ種と同じ悲劇を繰り返した。 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛まりざのおめめがあああ!!!」「いやあああああほっぺがくずれるよおおおおお!!!!」 「おがーしゃあ゛あ゛あ゛あ゛がぁっ!!?」「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛でででいぶのあがぢゃんがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」 外から聞こえる阿鼻叫喚にまりさは改めて恐怖した。自分もあのように死んでいくのだろうかと思うとろくに動くことができなかった。 外の連中よりもカビとの付き合いが長い自分が今度へまをすれば無事ではないことは本能で理解していた。 「ゆうううううぅ!!!れいむぅ!!ごわいよぉおおおおお!!!!」 それからまりさはその巣にひたすら籠ることになった。 外に出れば群れのみんなに殺されることが分かっていたからだ。 だがカビの蔓延した巣からでないことはそれだけで自殺行為であった。 一日経つだけでカビはまりさの頭皮からまりさの全体の皮膚を侵していった。 日が経つにつれてまりさの体は動ける部位が減っていき、三日目にはカビの中心であった頭皮から反対側に位置する まりさの顔以外は全てカビで埋まっていた。 「うぎぎぎぃ・・・いだいよぉ・・・・くさいよぉ・・・」 ところどころで走る激痛と倦怠感がまりさの意識を朦朧とさせる。 すでにまりさは食事をとることすら頭になかったのだ。 「れいむと赤ちゃんたち・・・ぱちゅりぃ・・・大れいむぅ・・・みんなごめんねぇ・・・・!」 その意識の中で既に自分のせいで亡くなった仲間達に謝罪を発することができたまりさにもうやり残すことはなかった。 「ごべんねえ・・・!ごべんねえ・・・!ごべ・・ん・・・ね・・・・」 八月 強烈な夏の日差しは以前ゆっくりの群れがあった林をも照らしていた。 そこにやってきたゆっくりれいむ。古木の下に綺麗な色をしためずらしいものを見つけたのでそれが気になりやってきたのだ。 「ゆっゆー!とってもきれいなものだよ~!」 しかし自分の巣に運ぶにはちょっと大きい、ゆっくりれいむがきょろきょろと周りを見てみると今度はちょうどいい大きさの気を見つけた。 「ゆぅ~!!こんなゆっくりしたおうち初めて見たよ!それにあのきれいな物がこんなにたくさんあるよ! きめた!ここは今日かられいむのお家だよ!あしたまりさとありすとちぇんとー、うーんぱちゅりーは疲れるだろうから涼しくなったらにしよう!」 天敵に無防備なゆっくり、自然界で彼らが生き残れるのは後何年間だろうか。 このSSに感想を付ける
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例えば、りんごを真っ二つにしたとする。 どっちがりんごかと問われれば、「どっちもりんごだ」と答えるのが普通だと思う。 では、あなたが指を一本切り落とされたとする。 切り落とされた指と、あなたの顔を指して、どちらがあなたなのかと問われたら、あなたはどう答える? きっと、大多数の人は指でなく、自分自身を指差すに違いない。 では、ゆっくりれいむを適当な比率―――5:5とか7:3に切り取ったとする。 痛みに悶えながらも、それら2つの破片はどちらも動いている。 ……ならば、いったいどちらがれいむなのだろうか? 人間である私には分からないので、同じゆっくり種に聞いてみることにした。 「どっちがれいむ?」 ―― 1 ―― 清々しい朝である。 見上げれば、雲ひとつない青空。日差しは強いが、暑くはない。 山へピクニックに出かけるのには、最適な日だと思う。 だが、私がこうして草原へとやってきたのは、ピクニックが目的ではない。 ちょっとした疑問を解決するために、あるものを探しているのだ。 相手が野生の動物だったら、警戒されぬように、草むらに身を潜めるなどの工夫が必要なのだが… 今回の場合、その必要はまったくない。 何故なら、“そいつら”は警戒のケの字も知らぬ、暢気な生物(ナマモノ)だからだ。 なだらかな丘を、周囲を眺めながら上っていく。 “そいつら”を見つけるのに、そんなに時間はかからないはずだ。 「ゆっ~♪ ゆんゆ~♪」 もう、見つけた。 一面緑色の草原のど真ん中に、ぽつんと浮かぶ肌色の球体。 “そいつら”の身なりには、自然に溶け込もうという工夫が一切みられないので、とても目立つ。 そいつ―――ゆっくりれいむは、歌を歌いながら草原を跳ね回っていた。 太陽の光をいっぱいに浴びながら、時折跳ねるのをやめて草を食んでいる。 「むーしゃむーしゃ!! しあわせ~♪♪」 実に幸せそうな笑顔である。ゆっくりライフを満喫している者の笑顔だ。 思わず抱きしめて、撫でてあげたくなる。そのやわらかい頬を、思い切り引っ叩きたくなる。 だが、今回はそれが目的ではない。私はぐっと堪えた。 れいむがはしゃぎ回っているのを遠目に眺めながら、私は身をかがめて少しずつれいむへと近づいていく。 基本的に警戒心は皆無なので、遮蔽物のない草原でも容易に近づく事が出来る。 実際、およそ20メートルぐらいのところまで近づいたが、まだれいむは私に気づいていなかった。 そこへ、れいむの背後―――丘の向こう側から、もう1匹のゆっくりが跳ねてきた。 真っ黒なトンガリ帽子がトレードマークの、ゆっくりまりさである。 まりさはれいむの姿に気づくと、一目散にれいむのほうへと跳ね始めた。 「れいむー!! ゆっくりしていってね!!!」 「ゆゆっ!? ゆっくりしていってね!!!」 これがゆっくり式の挨拶である。出会い頭によく交わされる言葉だ。 『おはよう』も『こんにちは』も『こんばんは』も、全てこの一言で済ませるのだ。 45度に真っ直ぐ眉毛を吊り上げたれいむ。 ふてぶてしい笑みを浮かべるまりさ。 2匹は頬をすり合わせながら、弾けるように一斉に叫んだ。 「「ゆっくりしていってね!!!」」 面識のないゆっくり同士でも、この言葉一発で友達になれる。 れいむとまりさは、互いに新たな友を得て、再びゆっくりし始めた。 実にゆっくりしている。あの2匹なら、私の疑問を解消する手助けをしてくれそうだ。 私はすっと立ち上がって、身を寄せて微笑みあう2匹のもとへと向かった。 3メートルぐらいまで近づくと、2匹は私の存在に気づいて大きく跳ねて声をそろえて叫んだ。 「「ゆゆっ!! ゆっくりしていってねっ!!!」」 「…………」 ……試しに、返事を返さずじっと見つめてみる。 「「…………」」 2匹は最初の笑顔を崩さぬまま、私を見上げたまま固まっている。 いつ見ても、イライラさせられる笑顔である。だが、そんなところも含めて愛くるしい。 純朴な笑みを浮かべていた2匹だったが、10秒ほど経ってその笑顔に陰りが出てきた。 「ゆゆぅ…?」 「ゆっくりぃ…?」 口はへの字に曲がり、目にはうっすらと涙が浮かんでいる。 ゆっくりしていってもらえないのが、そんなに悲しいのだろうか。 2匹の挨拶から20秒ほど遅れて、私は返事をした。 「…ゆっくりしていってね」 「ゆ? ゆゆっ!! ゆっくりしていってね!!」 「ゆっくりー!! ゆっくりしようね!!」 すると、先程までの暗い表情は一瞬で消し飛び、2匹は私の周りを跳ね始めた。 私も一緒にゆっくりしてくれると思っているのだろう。とても嬉しそうだ。 「ゆっくりできるよ!!」 「みんなでいっしょにゆっくりしようね!!」 とても愛らしい反応である。 強く抱きしめて、そのまま抱き潰してしまいたくなる。 でも、今はその時ではない。私は衝動を必死に抑えながら、優しく2匹に話しかけた。 「ねぇ、お姉さんのおうちでゆっくりしない? とてもゆっくり出来るよ?」 「ゆゆ? ゆっくりー?」 「ゆっくりできるの? ゆっくりしたい!!」 王道中の王道とも言える誘い文句に、ゆっくり2匹はあっさりとかかってきた。 「そうでしょう? 皆で遊んだらとてもゆっくり出来るよ」 「ゆゆー!! おねえさんのおうちでゆっくりしたい!!」 「まりさも!! まりさもいっしょだよ!!」 こうも簡単に騙せるなんて…… 私だからよかったものの、悪い人に騙されたらどうするのだろう。 とにかく、2匹は快く誘いに乗ってくれたので、私は2匹を自宅へと案内する。 ―― 2 ―― 「ゆゆー! つかれたけどゆっくりするー!!」 草原から我が家まで20分。ゆっくりにとっては、少々辛い距離だったかもしれない。 戸を開け、れいむとまりさの背中を押して促すと、2匹は弾かれたように家の中へと飛び込んだ。 目に映る全てが新鮮なのだろう。瞳を輝かせながら、きょろきょろと周囲を見回している。 「ゆゆー? ゆっくりー?」 「これはゆっくりできるもの? ゆっくりできないもの?」 冷蔵庫、電子レンジ、食器棚……2匹には、用途も目的も想像できない代物だろう。 驚きの声を上げている2匹を、私は奥の部屋へと案内した。 「はい、ここでゆっくりしようね」 私が2匹を導いたのは、家具や家電など何も置かれていない部屋だ。 普段から掃除はしているが、日常生活の中ではこの部屋は殆ど使っていない。 何故なら、この部屋は“こういう時”のために空けてあるからだ。 「ゆゆー!! ゆっくりぃー!!!」 「とてもゆっくりできそうだよ!!!」 12畳はあるであろうその部屋の中を、れいむとまりさは縦横無尽に駆け回る。 草原のほうがもっと自由に駆け回れるはずなのだが、それを上回る好奇心が2匹を満たしているのだろう。 ゆっくりにとって、目新しいものは全てゆっくり出来るものに見えてしまうのだ。 しばらく部屋中を見回った2匹は、最終的に部屋の隅に身を落ち着けた。 そして意味もなく『ゆっくりしていってね!!!』と叫ぶと、互いにすりすりと身体を擦りあい始めた。 普段から狭い巣で暮らしているから、適度な閉塞感があったほうが安心できるのだろう。 「おねえさんありがとう!!!」 「とてもゆっくりできるよ!!!」 部屋の隅にいる2匹のゆっくりは、数メートル離れた部屋の真ん中の私を見上げて、そう叫ぶ。 そして2匹はそれぞれ独特の笑みを浮かべ、見つめ合うと再び『ゆっくりしていってね!!!』と鳴いた。 「ゆゆー!! おねえさん!!! いっしょにあそぼうね!!!」 「みんなであそんだら、とてもゆっくりできるよ!!!」 皆で遊んだらゆっくりできる。そう言って2匹を誘ったのは、私だ。 けれど……たぶん、いや、絶対……この2匹は、ゆっくり出来ない運命にある。 残念だけど、申し訳ないけど、私についてきた時点で、この2匹の幸福な時間は終わっているのだ。 私は、2匹の元へ歩み寄ると、れいむを抱えあげた。 「ゆゆ? ゆっくりー!!!」 私の手によって持ち上げられたれいむは、暢気な鳴き声をあげた。 遊んでもらえると信じて疑わない、無垢な笑顔。キリッと吊り上った眉。すごくウザい。すごく可愛い。 足元では、ぴょんぴょん跳ねながら、まりさが私の足に纏わりついてくる。 「まりさも!! まりさもあそんでね!!」 「ゆ!! ゆっくりしていってね!!!」 けれど、その笑顔も、もうじき崩れ去る。私の好奇心を満たすために…… 「ゆっ!? ゆびっ!? ゆっぐりいいぃいいぃぃぃぃぃいいぃ!!!」 私は、れいむの両頬をがっしりと掴み、勢いよく横に引き伸ばした。 じゃれ合うとか、軽くいじめるとか、そういう目的ではない。 私は、れいむを真っ二つに引きちぎるために、全力をもって引っ張った。 だが……思いのほか弾力性があるれいむの身体は、千切れることなく伸びていく。 「いだい!! いだいよー!!! ゆっぐりじでえええーーーー!!!!」 「おねえさん!!! れいむがいたがってるよ!!! ゆっくりやめてあげてね!!!」 足元で、まりさが喚く。 友達が酷い目に遭っているのだから、当然である。 でも、私は手を止めない。まりさの泣き顔をうっとりと眺めながら、れいむを横へ引き伸ばす。 「ゆっぐ…りぃ!! や…べ……でぇ!!! べ…ゲベベベベベベエエェェ!!!!」 形が著しく歪み、れいむは危険な悲鳴をあげ始める。 しかし、引きちぎれない。真っ二つに分離しない。 この方法では駄目だと考えた私は、ギャーギャー騒ぐまりさを残して、れいむを抱えたまま台所へと向かった。 れいむを左脇に抱え、刃渡り50cmを超える大型の包丁を右手にとる。 マグロなど大型魚を捌くための包丁だが、私は一度もマグロを捌いたことなどない。 何故なら、この包丁は“いざというとき”のために用意しておいたものだからだ。 「ゆ゛っ!? ゆ゛っぐり゛ぃ!!! ゆ゛っぐり゛い゛い゛ぃい゛い゛ぃぃぃっ!!!」 蛍光灯の光を反射して、きらりと光る巨大な包丁。 野生のカンなど持ち合わせていないと思われたれいむも、流石に危機感を抱き始めたようだ。 くねくねと身体を揺らしながら、必死に私の腕から抜け出そうとしている。 「ふふふ♪ ゆっくりゆっくり!」 れいむの真似をして、私も鳴いてみる。 いい年の大人なのだが、長年の疑問が解決できると思うと嬉しくて、どうしても我慢できなかった。 「ゆ゛ぅ? ……ゆ、ゆっぐりぃ! ゆ゛っくり゛してい゛ってね゛!!」 すると何を勘違いしたのか、れいむは涙を浮かべたまま、ぎこちない笑みを浮かべた。 涙声ながらも、『ゆっくりしていってね!!』と繰り返し声を上げている。 …あぁ、そうか。 私が笑顔で『ゆっくり!』なんて呼びかけたから、それで自分がゆっくり出来ると勘違いしてしまったのか。 だとしたら、悪いことをした。れいむがゆっくり出来るなんて、絶対にありえないのに。 だって、これからすごく痛いことをするんだから。 ―― 3 ―― 先程の部屋に戻ると、まりさが目に涙を浮かべながら、ふくらはぎに噛み付いてきた。 私からしたら、噛み付かれるというより纏わりつかれるという感覚なのだが、邪魔であることに違いはない。 適当に脚を振って、まりさを振り払った。 「ゆべっ!! ここはゆっくりできないよ!! れいむとおうちにかえる!!!」 べしゃっと音をたてて床に落ちたまりさは、ひるむことなく私を見上げ、声高々に主義主張を展開する。 よっぽどこのれいむが大切なのだろう。ならば、この2匹を選んだのは正解だ。 何故なら、2匹の絆が深ければ深いほど、私の“実験”の成功率は増していくのだから。 「ゆっくりー♪ ゆっくり~のゆ~♪」 必死なまりさとは対照的に、れいむは浮かれた笑顔で歌を歌っている。 現実を理解させてあげようと思い、私はれいむの目の前に包丁の刃先をちらつかせた。 すると、れいむは『ゆひっ!』と叫んで再び身をぐねぐね揺らして暴れ始めた。自分の状況をやっと思い出したのだろう。 「ゆゆー!!! おねえさんどっかいってね!!! れいむをはなしてね!!!」 諦めることなく体を揺らし、私から逃れようとしているれいむ。 目からは滝のように涙を流しているのだが、口は絵に描いたような『への字』なので、あまり怖がっているようには見えない。 もしかして、誘っているのだろうか。 「嫌だよ。どこにも行かないよ。 これから凄く痛いことをするからね。ふふふふ♪」 「もうやだ!!! いたいのやだっ!!! ゆっぐりざぜでえぇぇえーーーー!!!!」 れいむを仰向けの状態で床に押し付け、空いた右手でれいむの顎下に包丁をあてがう。 さっきまでがむしゃらに暴れていたれいむは、冷たい刃が触れた瞬間、全ての挙動を静止した。 「やめ…て……ゆっくりしたい……ゆっくりしたいの……」 震える言葉とは裏腹に、顔は相変わらず笑っているのか泣いているのか分からない。 一方まりさは精一杯空気を吸い込み、威嚇のポーズをとっている。 私が何をしようとしているのか、理解したのだろう。そして、まりさの力では私を止められぬことも。 そして何より、私が握っている大型の鋭い刃が恐ろしくて、近づく事が出来ないのだろう。 だから威嚇することによって、暴力を用いずに私を止めようとしているのだ。 「ぷくぅーっ!! れ、れいむをはなしてね!!! ま…まりさは…つ、つつつ、つよいんだよ!!」 この文言は、ゆっくりの威嚇の定型文だ。 でも、目に涙を浮かべて震えながら言われても、まったく説得力がない。そして、すごく可愛い。 「へぇ、まりさって強いんだ。だったら、お姉さんなんか簡単に倒せちゃうよね。 ほら、かかってきたら?」 「ゆ゛ゆ゛ゆ゛……ゆ゛っぐり゛ぃーっ!!! ぷくぅーー!!!」 かかってこい、と私は言ったのに、まりさは威嚇を止めようとしない。 私が怖いのだ。私が握っている包丁が怖いのだ。だから、言動が一貫しない。 強いのなら勝てるだろうに、勝負を挑まない。何故なら、勝てないと分かっているから。 泣きながらの威嚇なんて、威嚇でもなんでもない。 「ふふふ、怖いのなら怖いって言えばいいのに」 まりさの相手をするのもほどほどにして、れいむへの処置を開始する。 処置と言っても、難しいことではない。ただ、れいむを真っ二つにすればいいのだから。 「さて、れいむ? 今から凄く痛いことするけど、我慢してね」 「ゆーーーーーっ!!!! いやーーーーーー!!!! ゆっぐりざぜでぇーーーーー!!!!」 れいむがどんなに叫ぼうと、私は止めるつもりはない。 ほんの数グラム力を加えれば、れいむは真っ二つになる。 きっと、物凄く痛いだろう。恐ろしいだろう。自分の半身が失われるのだから。 母の名を呼んで、パートナーの名を呼んで、助けを求めるに違いない。 自分の身が真っ二つにされるとは、そういうことだ。 でも、やめない。やめてあげない。 私は僅かに包丁に力を込めて、ピッと走った皮の切れ目から餡子が盛り上がるのを見た。 「ゆひぃー!! ゆひいいぃぃーーーー!!! おねえさんおねがい!!! れいむを――― ごめんね、れいむ。 お姉さんは、好奇心には勝てないの。 ストン。 大型魚を捌くための包丁は、いとも簡単にれいむを割き、床に到達した。 「ッ!!!!!! ーーーーーーーーーッ!!!!!!!! ゆびいいぃいいぃぃぃいいぃぃ!!!! ゆぎいいぃいぃぃいいぃぃぃ!!!!」 二つに切断されたれいむは、どちらも同じように暴れている。 「おがぁざああぁぁぁん!!! まりざああぁあぁぁぁ!!!! だずげでええぇぇぇえええぇ!!!」 上半分は頭に浮かんだ最愛の2匹の名を叫び、下半身は無言でびたんびたんと暴れまくる。 呼ばれたまりさは、恐怖が勝っているためか、れいむに近づく事が出来ずにいる。ただれいむに向かって叫ぶだけだ。 「れ、れいむぅ…!! ゆっくり!!! ゆっくりしていってね!!! ゆっくりしてよぉ!!!!」 まりさにとっては、さぞやゆっくり出来ない光景だろう。 とても可哀相だ。素直にそう思う。 でも、こんな実験の過程で苦痛に表情を歪めるれいむや、恐怖に咽び泣くまりさが、たまらなく愛おしい。 それはもう、実験なんてどうでもよくなるぐらいに。 「ねぇ、まりさ? どっちがれいむか選んでくれる?」 「ゆっ!? ゆっくり!?」 私の言っている事が理解できず、硬直するまりさ。 難しいことは要求していない。“どちらがれいむなのか選ぶ”だけでいいのだ。 何もおかしいことは言ってない。 1匹のれいむが、2つに分離した。 もとは1匹なのだから、分離しても1匹であるはずだ。ならば、2つのうちどちらか一方だけが“れいむ”だ。 それをまりさに選んで欲しいだけなのだ。それが、今回の私の実験である。 「さぁ、あなたがおうちに連れて帰りたい“れいむ”はどっち?」 こういう風に言えば、まりさは正しい答えを導くに違いない。 まりさが一緒にゆっくりしたいと思ったれいむこそが、正しいれいむなのだ。 問い方を変えると誤解を招く恐れがあるが、実験の趣旨を説明するより現実的だ。 「ゆゆっ!? ゆゆぅっ!? ゆゆうううぅぅぅうううぅぅぅ!?!?!」 れいむの上半分と下半分との間で、視線を往復させるまりさ。 数秒の後、泣き喚くれいむの上半分に駆け寄り、宣言した。 「こっち!! こっちだよ!!! れいむはこっち!!!」 「ゆっぐりいぃいいぃぃぃ!!! まりざあぁああぁぁぁぁぁあぁぁ!!!」 お椀をひっくり返したような身体になってしまったれいむ。 まりさは眼を潤ませながら『ゆっくりおうちにかえろうね』と、頬を寄せて呼びかけている。 体が半分になってしまったけど、一緒にいればゆっくりできる。そんな風に思っているのだろうか。 残念だけど、半分で終わらせるつもりは毛頭ない。 れいむとまりさは、まだおうちに帰れないのだ。 「おねえさんおねがい!! れいむをなおしてあげてね!!!」 れいむを真っ二つにした張本人にそれを言うなんて……きっと、頭の中が春真っ盛りなんだなぁ。 私は2分の1れいむを手に取った。その瞬間、安堵の表情を浮かべるまりさ。 れいむもそうだったが、ゆっくりというのは物事を都合よく解釈してしまうから困る。 私はその場にしゃがみ込み、床に固定した2分の1れいむの頭頂部に刃をあてた。 ガラリと表情を変え、言葉にならぬ叫びを上げながら私に飛び掛るまりさ。 命を懸けてでもれいむを助けようという、涙ぐましい努力。 「ばりざああぁぁああぁ!!! だずげで―――― でも、遅かった。 ほんのちょっと力を加えただけで…… ストン 「ピぎぃッ!?!?!?!」 2分の1れいむは、2つの4分の1れいむに分かれた。 恐怖と激痛に歪んだ、左右対称の顔。 悲鳴を上げることも出来ず、薄茶色の涙を流しながら、その目で私を見上げている。 「どうじでれいむをおおおぉぉぉぉぉぉーーーー!!!」 数秒遅れて、正面から体当たりを仕掛けてくるまりさ。 重いぬいぐるみを投げつけられたような感じだ。私は僅かにバランスを崩し、尻餅をついた。 「どうだ!!! まりさはつよいんだよ!? ゆっくりこうさんして、れいむをなおしてあげてね!!! ぷくぅっ!!!」 今の私の動きを見て勝てると思ったのか、私に向かって再び威嚇を始めた。 その顔は、怒りに満ちている。獣のように大きく口を広げ、猛々しい雄叫びをあげる。 「ゆおぉーーーーーっ!!! まりさはつよいんだよ!!! ゆおぉーーーーーー!!!」 そんな表情すら、私は可愛らしく感じる。 “戦う”という概念から縁遠いから、実力差をはかることもできない。 ちょっと運よく有利になったくらいで、勝ちを確信してしまう。 そんなバカなまりさが、愚かなまりさが、惨めなまりさが、たまらなく愛おしい。 愛おしいから、ガマンするのが辛い。 「ゆっくりあやまってね!!! じゃないと、またいたいことするよ!!!」 まりさは、鼻息を荒げながら胸を張り、生まれつきのふてぶてしい目で私を睨みつけている。 本当に勝ちを確信しているんだ。バカだ。マヌケだ。思わずニヤついてしまう。これが笑わずにいられようか。 “いたいこと”って? さっきの体当たりが“いたいこと”なのか? そして『まりさはつよいんだよ!!』って……もうワケが分からない。 「ぷっ…もう駄目…ふふふ…あはっ…あはははははははははははははは!!!!」 「ゆ゛っ!? わらってないであやまってね!!! そしてれいむをなおしてね!!! さもないと――― その程度の威嚇と暴力で、私が悔い改めると思っているのだろうか。 まさか、私の口から『ごめんなさい』という言葉が出てくるとでも思っているのだろうか。 「まりさ」 「ゆっ?」 ……やっぱり駄目だ、ガマンできない。 「痛い事っていうのは……こうやるんだよ」 右の拳を、思い切りまりさの顔面に叩き込んだ。 見晴らしのいい直線で、軽自動車と大型トラックが正面衝突する場面を思い浮かべてほしい。 どちらもかなりの速度超過をしていた。どちらも100km/hで走っていたから、相対速度は200km/hだ。 結果、軽自動車はペシャンコにつぶれ、乗員は全員即死。大型トラックの運転手は無傷。 今、まさにそれが、小さいスケールで起こったのだ。 軽自動車がまりさ。私の拳は大型トラック。違うのは、どちらも生きているということだけ。 「ぎゅピぃっ!?!?!」 悶絶し、声も出せずに震えるまりさ。 今の感触ならば、間違いなく前歯の3,4本と片目は失われただろう。 実際、腕を上げると、角砂糖で出来た前歯がパラパラと落ち、潰れた眼球が糸を引きながら蕩け落ちた。 「あは……あははははははは…!!!」 あぁ、ガマンできなかった。 でも、気持ちよかった。ずっとガマンしていたから、いつもより気持ちよかった。 性的快感によく似ているけど、何か違う。口では説明しづらいが、とにかく快感だ。 「いっ……ぎぃ……ど…じで………」 きっと『どうして?』と言いたいのだろう。今起こった事が理解できないのだろう。 謝罪の言葉、あるいは後悔の言葉を述べるはずのお姉さんが、突然自分を殴ったのだから。 まりさが今理解したのは、自分の強さが偽りであったという事実だけ。 顔面が崩壊したまりさを見て、私は余韻に浸るのもほどほどにし、仕事を再開した。 放られていた包丁を握り、放置されていたれいむをまりさの目の前に並べ、顔を覗きこんで静かに問いかける。 どうやら勝利の確信も、抵抗心も、完全に失われたようだ。 「痛かった?」 私は問いかける。 まりさは無言で頷く。 「痛いのは嫌?」 私は問いかける。 まりさは無言で頷く。 「痛くしないで欲しい?」 私は問いかける。 まりさは無言で頷く。 「じゃあ、お姉さんの言うこと聞いてくれる?」 私は問いかける。 まりさは無言で頷く。 「わかった、ありがとうね」 私は、まりさの頭を撫でてあげた。 まりさは『ごめんなさい』と一言呟くと、それっきり何も言わなくなった。 恐らく泣いているのだろうが、顔がぐしゃぐしゃなので判別不可能だ。 そんなまりさも、可愛らしい。 顔がぐしゃぐしゃでも、私はまりさがどんな表情をしているかがわかる。 だって、まりさが“そんな表情”をしているのは、私のせいなのだから。 「じゃあ聞くね。あなたがおうちに連れて帰りたい“れいむ”はどっち?」 ―― 4 ―― 十数分後、実験は終了した。 2等分されたれいむのうち、“正しいれいむ”をまりさが選ぶ。 選ばれたれいむをさらに2等分し、またまりさに選ばせる。 それを、5回繰り返した結果、れいむは32分の1まで小さくなっていた。 「れいむぅ……れいぶうぅうぅううぅぅ…!!」 今朝の草原にて、まりさを解放する。 目の前に小さくなったれいむを放り投げると、まりさは縋るようにれいむに泣きついた。 そのれいむに口はなく、目だけがギョロリと動いてまりさを見上げる。 動く事もできず、喋る事もできず。 餡子の混じった涙を流しながら、何かを伝えようと見つめている。 「ゆううぅうぅぅ……いっじょにおうぢにがえろうねぇ…」 真っ二つに分断されたリボンを口に加えて、れいむを引っ張るまりさ。 ボロボロになった身体に鞭打って、痛みに耐えながら這いずる。 私は何もせず、それをずっと眺めていた。 れいむの切断面からは、ぼろぼろと餡子が零れている。 あの調子では、まりさの巣についた頃にはれいむは皮だけになっているだろう。 その時、れいむはやっと解放される。ゆっくりとした死によって。 「ゆっぐりぃ……ゆっくりぃ……」 まりさは自身に呼びかけるように呟きながら、今朝越えてきた丘を登っていく。 時折ちらちらをこっちを振り返りつつ、ゆっくりと登っていく。 その目は、『追いかけてこないでね』と必死に叫んでいた。 そして、まりさは丘を越え、声は聞こえてこなくなった。 私は、れいむから落ちた餡子を辿って、まりさをゆっくり追い始めた。 れいむが死ぬ瞬間のまりさの顔を、この目で見たい。 眠りについて、今日の出来事が悪夢となってまりさを苛むのを、この目で見たい。 新たに出来た友達をまりさの目の前で殺して、その瞬間のまりさの顔を、この目で見たい。 悪夢に耐え切れず、発狂して同族を殺しまわる様を、この目で見たい。 まりさが泣いて、泣いて、悲しんで、怒って、泣いて、絶望して、泣いて――― そして死ぬ。そのひとつひとつをこの目で見たい。 もう、実験などどうでも良かった。 私はあのまりさに惚れ込んでしまったのだ。 両思いになる日はきっと来ないけど。 片思いのまま終わると、分かっているけれど。 でも、私はまりさを逃がさない。 ―― あとがき ―― やってる事は普通の虐待・虐殺。 れいむを刻んで、まりさを一発殴っただけ。 それでも、たまにこういうのをみっちり書きたくなるのです。 ゆっくりを真っ二つにしたら、どっちが本体なんでしょうね? どちらにも意思がありそうだから、ややこしい。 作:避妊ありすの人 このSSに感想をつける
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例えば、りんごを真っ二つにしたとする。 どっちがりんごかと問われれば、「どっちもりんごだ」と答えるのが普通だと思う。 では、あなたが指を一本切り落とされたとする。 切り落とされた指と、あなたの顔を指して、どちらがあなたなのかと問われたら、あなたはどう答える? きっと、大多数の人は指でなく、自分自身を指差すに違いない。 では、ゆっくりれいむを適当な比率―――5:5とか7:3に切り取ったとする。 痛みに悶えながらも、それら2つの破片はどちらも動いている。 ……ならば、いったいどちらがれいむなのだろうか? 人間である私には分からないので、同じゆっくり種に聞いてみることにした。 「どっちがれいむ?」 ―― 1 ―― 清々しい朝である。 見上げれば、雲ひとつない青空。日差しは強いが、暑くはない。 山へピクニックに出かけるのには、最適な日だと思う。 だが、私がこうして草原へとやってきたのは、ピクニックが目的ではない。 ちょっとした疑問を解決するために、あるものを探しているのだ。 相手が野生の動物だったら、警戒されぬように、草むらに身を潜めるなどの工夫が必要なのだが… 今回の場合、その必要はまったくない。 何故なら、“そいつら”は警戒のケの字も知らぬ、暢気な生物(ナマモノ)だからだ。 なだらかな丘を、周囲を眺めながら上っていく。 “そいつら”を見つけるのに、そんなに時間はかからないはずだ。 「ゆっ~♪ ゆんゆ~♪」 もう、見つけた。 一面緑色の草原のど真ん中に、ぽつんと浮かぶ肌色の球体。 “そいつら”の身なりには、自然に溶け込もうという工夫が一切みられないので、とても目立つ。 そいつ―――ゆっくりれいむは、歌を歌いながら草原を跳ね回っていた。 太陽の光をいっぱいに浴びながら、時折跳ねるのをやめて草を食んでいる。 「むーしゃむーしゃ!! しあわせ~♪♪」 実に幸せそうな笑顔である。ゆっくりライフを満喫している者の笑顔だ。 思わず抱きしめて、撫でてあげたくなる。そのやわらかい頬を、思い切り引っ叩きたくなる。 だが、今回はそれが目的ではない。私はぐっと堪えた。 れいむがはしゃぎ回っているのを遠目に眺めながら、私は身をかがめて少しずつれいむへと近づいていく。 基本的に警戒心は皆無なので、遮蔽物のない草原でも容易に近づく事が出来る。 実際、およそ20メートルぐらいのところまで近づいたが、まだれいむは私に気づいていなかった。 そこへ、れいむの背後―――丘の向こう側から、もう1匹のゆっくりが跳ねてきた。 真っ黒なトンガリ帽子がトレードマークの、ゆっくりまりさである。 まりさはれいむの姿に気づくと、一目散にれいむのほうへと跳ね始めた。 「れいむー!! ゆっくりしていってね!!!」 「ゆゆっ!? ゆっくりしていってね!!!」 これがゆっくり式の挨拶である。出会い頭によく交わされる言葉だ。 『おはよう』も『こんにちは』も『こんばんは』も、全てこの一言で済ませるのだ。 45度に真っ直ぐ眉毛を吊り上げたれいむ。 ふてぶてしい笑みを浮かべるまりさ。 2匹は頬をすり合わせながら、弾けるように一斉に叫んだ。 「「ゆっくりしていってね!!!」」 面識のないゆっくり同士でも、この言葉一発で友達になれる。 れいむとまりさは、互いに新たな友を得て、再びゆっくりし始めた。 実にゆっくりしている。あの2匹なら、私の疑問を解消する手助けをしてくれそうだ。 私はすっと立ち上がって、身を寄せて微笑みあう2匹のもとへと向かった。 3メートルぐらいまで近づくと、2匹は私の存在に気づいて大きく跳ねて声をそろえて叫んだ。 「「ゆゆっ!! ゆっくりしていってねっ!!!」」 「…………」 ……試しに、返事を返さずじっと見つめてみる。 「「…………」」 2匹は最初の笑顔を崩さぬまま、私を見上げたまま固まっている。 いつ見ても、イライラさせられる笑顔である。だが、そんなところも含めて愛くるしい。 純朴な笑みを浮かべていた2匹だったが、10秒ほど経ってその笑顔に陰りが出てきた。 「ゆゆぅ…?」 「ゆっくりぃ…?」 口はへの字に曲がり、目にはうっすらと涙が浮かんでいる。 ゆっくりしていってもらえないのが、そんなに悲しいのだろうか。 2匹の挨拶から20秒ほど遅れて、私は返事をした。 「…ゆっくりしていってね」 「ゆ? ゆゆっ!! ゆっくりしていってね!!」 「ゆっくりー!! ゆっくりしようね!!」 すると、先程までの暗い表情は一瞬で消し飛び、2匹は私の周りを跳ね始めた。 私も一緒にゆっくりしてくれると思っているのだろう。とても嬉しそうだ。 「ゆっくりできるよ!!」 「みんなでいっしょにゆっくりしようね!!」 とても愛らしい反応である。 強く抱きしめて、そのまま抱き潰してしまいたくなる。 でも、今はその時ではない。私は衝動を必死に抑えながら、優しく2匹に話しかけた。 「ねぇ、お姉さんのおうちでゆっくりしない? とてもゆっくり出来るよ?」 「ゆゆ? ゆっくりー?」 「ゆっくりできるの? ゆっくりしたい!!」 王道中の王道とも言える誘い文句に、ゆっくり2匹はあっさりとかかってきた。 「そうでしょう? 皆で遊んだらとてもゆっくり出来るよ」 「ゆゆー!! おねえさんのおうちでゆっくりしたい!!」 「まりさも!! まりさもいっしょだよ!!」 こうも簡単に騙せるなんて…… 私だからよかったものの、悪い人に騙されたらどうするのだろう。 とにかく、2匹は快く誘いに乗ってくれたので、私は2匹を自宅へと案内する。 ―― 2 ―― 「ゆゆー! つかれたけどゆっくりするー!!」 草原から我が家まで20分。ゆっくりにとっては、少々辛い距離だったかもしれない。 戸を開け、れいむとまりさの背中を押して促すと、2匹は弾かれたように家の中へと飛び込んだ。 目に映る全てが新鮮なのだろう。瞳を輝かせながら、きょろきょろと周囲を見回している。 「ゆゆー? ゆっくりー?」 「これはゆっくりできるもの? ゆっくりできないもの?」 冷蔵庫、電子レンジ、食器棚……2匹には、用途も目的も想像できない代物だろう。 驚きの声を上げている2匹を、私は奥の部屋へと案内した。 「はい、ここでゆっくりしようね」 私が2匹を導いたのは、家具や家電など何も置かれていない部屋だ。 普段から掃除はしているが、日常生活の中ではこの部屋は殆ど使っていない。 何故なら、この部屋は“こういう時”のために空けてあるからだ。 「ゆゆー!! ゆっくりぃー!!!」 「とてもゆっくりできそうだよ!!!」 12畳はあるであろうその部屋の中を、れいむとまりさは縦横無尽に駆け回る。 草原のほうがもっと自由に駆け回れるはずなのだが、それを上回る好奇心が2匹を満たしているのだろう。 ゆっくりにとって、目新しいものは全てゆっくり出来るものに見えてしまうのだ。 しばらく部屋中を見回った2匹は、最終的に部屋の隅に身を落ち着けた。 そして意味もなく『ゆっくりしていってね!!!』と叫ぶと、互いにすりすりと身体を擦りあい始めた。 普段から狭い巣で暮らしているから、適度な閉塞感があったほうが安心できるのだろう。 「おねえさんありがとう!!!」 「とてもゆっくりできるよ!!!」 部屋の隅にいる2匹のゆっくりは、数メートル離れた部屋の真ん中の私を見上げて、そう叫ぶ。 そして2匹はそれぞれ独特の笑みを浮かべ、見つめ合うと再び『ゆっくりしていってね!!!』と鳴いた。 「ゆゆー!! おねえさん!!! いっしょにあそぼうね!!!」 「みんなであそんだら、とてもゆっくりできるよ!!!」 皆で遊んだらゆっくりできる。そう言って2匹を誘ったのは、私だ。 けれど……たぶん、いや、絶対……この2匹は、ゆっくり出来ない運命にある。 残念だけど、申し訳ないけど、私についてきた時点で、この2匹の幸福な時間は終わっているのだ。 私は、2匹の元へ歩み寄ると、れいむを抱えあげた。 「ゆゆ? ゆっくりー!!!」 私の手によって持ち上げられたれいむは、暢気な鳴き声をあげた。 遊んでもらえると信じて疑わない、無垢な笑顔。キリッと吊り上った眉。すごくウザい。すごく可愛い。 足元では、ぴょんぴょん跳ねながら、まりさが私の足に纏わりついてくる。 「まりさも!! まりさもあそんでね!!」 「ゆ!! ゆっくりしていってね!!!」 けれど、その笑顔も、もうじき崩れ去る。私の好奇心を満たすために…… 「ゆっ!? ゆびっ!? ゆっぐりいいぃいいぃぃぃぃぃいいぃ!!!」 私は、れいむの両頬をがっしりと掴み、勢いよく横に引き伸ばした。 じゃれ合うとか、軽くいじめるとか、そういう目的ではない。 私は、れいむを真っ二つに引きちぎるために、全力をもって引っ張った。 だが……思いのほか弾力性があるれいむの身体は、千切れることなく伸びていく。 「いだい!! いだいよー!!! ゆっぐりじでえええーーーー!!!!」 「おねえさん!!! れいむがいたがってるよ!!! ゆっくりやめてあげてね!!!」 足元で、まりさが喚く。 友達が酷い目に遭っているのだから、当然である。 でも、私は手を止めない。まりさの泣き顔をうっとりと眺めながら、れいむを横へ引き伸ばす。 「ゆっぐ…りぃ!! や…べ……でぇ!!! べ…ゲベベベベベベエエェェ!!!!」 形が著しく歪み、れいむは危険な悲鳴をあげ始める。 しかし、引きちぎれない。真っ二つに分離しない。 この方法では駄目だと考えた私は、ギャーギャー騒ぐまりさを残して、れいむを抱えたまま台所へと向かった。 れいむを左脇に抱え、刃渡り50cmを超える大型の包丁を右手にとる。 マグロなど大型魚を捌くための包丁だが、私は一度もマグロを捌いたことなどない。 何故なら、この包丁は“いざというとき”のために用意しておいたものだからだ。 「ゆ゛っ!? ゆ゛っぐり゛ぃ!!! ゆ゛っぐり゛い゛い゛ぃい゛い゛ぃぃぃっ!!!」 蛍光灯の光を反射して、きらりと光る巨大な包丁。 野生のカンなど持ち合わせていないと思われたれいむも、流石に危機感を抱き始めたようだ。 くねくねと身体を揺らしながら、必死に私の腕から抜け出そうとしている。 「ふふふ♪ ゆっくりゆっくり!」 れいむの真似をして、私も鳴いてみる。 いい年の大人なのだが、長年の疑問が解決できると思うと嬉しくて、どうしても我慢できなかった。 「ゆ゛ぅ? ……ゆ、ゆっぐりぃ! ゆ゛っくり゛してい゛ってね゛!!」 すると何を勘違いしたのか、れいむは涙を浮かべたまま、ぎこちない笑みを浮かべた。 涙声ながらも、『ゆっくりしていってね!!』と繰り返し声を上げている。 …あぁ、そうか。 私が笑顔で『ゆっくり!』なんて呼びかけたから、それで自分がゆっくり出来ると勘違いしてしまったのか。 だとしたら、悪いことをした。れいむがゆっくり出来るなんて、絶対にありえないのに。 だって、これからすごく痛いことをするんだから。 ―― 3 ―― 先程の部屋に戻ると、まりさが目に涙を浮かべながら、ふくらはぎに噛み付いてきた。 私からしたら、噛み付かれるというより纏わりつかれるという感覚なのだが、邪魔であることに違いはない。 適当に脚を振って、まりさを振り払った。 「ゆべっ!! ここはゆっくりできないよ!! れいむとおうちにかえる!!!」 べしゃっと音をたてて床に落ちたまりさは、ひるむことなく私を見上げ、声高々に主義主張を展開する。 よっぽどこのれいむが大切なのだろう。ならば、この2匹を選んだのは正解だ。 何故なら、2匹の絆が深ければ深いほど、私の“実験”の成功率は増していくのだから。 「ゆっくりー♪ ゆっくり~のゆ~♪」 必死なまりさとは対照的に、れいむは浮かれた笑顔で歌を歌っている。 現実を理解させてあげようと思い、私はれいむの目の前に包丁の刃先をちらつかせた。 すると、れいむは『ゆひっ!』と叫んで再び身をぐねぐね揺らして暴れ始めた。自分の状況をやっと思い出したのだろう。 「ゆゆー!!! おねえさんどっかいってね!!! れいむをはなしてね!!!」 諦めることなく体を揺らし、私から逃れようとしているれいむ。 目からは滝のように涙を流しているのだが、口は絵に描いたような『への字』なので、あまり怖がっているようには見えない。 もしかして、誘っているのだろうか。 「嫌だよ。どこにも行かないよ。 これから凄く痛いことをするからね。ふふふふ♪」 「もうやだ!!! いたいのやだっ!!! ゆっぐりざぜでえぇぇえーーーー!!!!」 れいむを仰向けの状態で床に押し付け、空いた右手でれいむの顎下に包丁をあてがう。 さっきまでがむしゃらに暴れていたれいむは、冷たい刃が触れた瞬間、全ての挙動を静止した。 「やめ…て……ゆっくりしたい……ゆっくりしたいの……」 震える言葉とは裏腹に、顔は相変わらず笑っているのか泣いているのか分からない。 一方まりさは精一杯空気を吸い込み、威嚇のポーズをとっている。 私が何をしようとしているのか、理解したのだろう。そして、まりさの力では私を止められぬことも。 そして何より、私が握っている大型の鋭い刃が恐ろしくて、近づく事が出来ないのだろう。 だから威嚇することによって、暴力を用いずに私を止めようとしているのだ。 「ぷくぅーっ!! れ、れいむをはなしてね!!! ま…まりさは…つ、つつつ、つよいんだよ!!」 この文言は、ゆっくりの威嚇の定型文だ。 でも、目に涙を浮かべて震えながら言われても、まったく説得力がない。そして、すごく可愛い。 「へぇ、まりさって強いんだ。だったら、お姉さんなんか簡単に倒せちゃうよね。 ほら、かかってきたら?」 「ゆ゛ゆ゛ゆ゛……ゆ゛っぐり゛ぃーっ!!! ぷくぅーー!!!」 かかってこい、と私は言ったのに、まりさは威嚇を止めようとしない。 私が怖いのだ。私が握っている包丁が怖いのだ。だから、言動が一貫しない。 強いのなら勝てるだろうに、勝負を挑まない。何故なら、勝てないと分かっているから。 泣きながらの威嚇なんて、威嚇でもなんでもない。 「ふふふ、怖いのなら怖いって言えばいいのに」 まりさの相手をするのもほどほどにして、れいむへの処置を開始する。 処置と言っても、難しいことではない。ただ、れいむを真っ二つにすればいいのだから。 「さて、れいむ? 今から凄く痛いことするけど、我慢してね」 「ゆーーーーーっ!!!! いやーーーーーー!!!! ゆっぐりざぜでぇーーーーー!!!!」 れいむがどんなに叫ぼうと、私は止めるつもりはない。 ほんの数グラム力を加えれば、れいむは真っ二つになる。 きっと、物凄く痛いだろう。恐ろしいだろう。自分の半身が失われるのだから。 母の名を呼んで、パートナーの名を呼んで、助けを求めるに違いない。 自分の身が真っ二つにされるとは、そういうことだ。 でも、やめない。やめてあげない。 私は僅かに包丁に力を込めて、ピッと走った皮の切れ目から餡子が盛り上がるのを見た。 「ゆひぃー!! ゆひいいぃぃーーーー!!! おねえさんおねがい!!! れいむを――― ごめんね、れいむ。 お姉さんは、好奇心には勝てないの。 ストン。 大型魚を捌くための包丁は、いとも簡単にれいむを割き、床に到達した。 「ッ!!!!!! ーーーーーーーーーッ!!!!!!!! ゆびいいぃいいぃぃぃいいぃぃ!!!! ゆぎいいぃいぃぃいいぃぃぃ!!!!」 二つに切断されたれいむは、どちらも同じように暴れている。 「おがぁざああぁぁぁん!!! まりざああぁあぁぁぁ!!!! だずげでええぇぇぇえええぇ!!!」 上半分は頭に浮かんだ最愛の2匹の名を叫び、下半身は無言でびたんびたんと暴れまくる。 呼ばれたまりさは、恐怖が勝っているためか、れいむに近づく事が出来ずにいる。ただれいむに向かって叫ぶだけだ。 「れ、れいむぅ…!! ゆっくり!!! ゆっくりしていってね!!! ゆっくりしてよぉ!!!!」 まりさにとっては、さぞやゆっくり出来ない光景だろう。 とても可哀相だ。素直にそう思う。 でも、こんな実験の過程で苦痛に表情を歪めるれいむや、恐怖に咽び泣くまりさが、たまらなく愛おしい。 それはもう、実験なんてどうでもよくなるぐらいに。 「ねぇ、まりさ? どっちがれいむか選んでくれる?」 「ゆっ!? ゆっくり!?」 私の言っている事が理解できず、硬直するまりさ。 難しいことは要求していない。“どちらがれいむなのか選ぶ”だけでいいのだ。 何もおかしいことは言ってない。 1匹のれいむが、2つに分離した。 もとは1匹なのだから、分離しても1匹であるはずだ。ならば、2つのうちどちらか一方だけが“れいむ”だ。 それをまりさに選んで欲しいだけなのだ。それが、今回の私の実験である。 「さぁ、あなたがおうちに連れて帰りたい“れいむ”はどっち?」 こういう風に言えば、まりさは正しい答えを導くに違いない。 まりさが一緒にゆっくりしたいと思ったれいむこそが、正しいれいむなのだ。 問い方を変えると誤解を招く恐れがあるが、実験の趣旨を説明するより現実的だ。 「ゆゆっ!? ゆゆぅっ!? ゆゆうううぅぅぅうううぅぅぅ!?!?!」 れいむの上半分と下半分との間で、視線を往復させるまりさ。 数秒の後、泣き喚くれいむの上半分に駆け寄り、宣言した。 「こっち!! こっちだよ!!! れいむはこっち!!!」 「ゆっぐりいぃいいぃぃぃ!!! まりざあぁああぁぁぁぁぁあぁぁ!!!」 お椀をひっくり返したような身体になってしまったれいむ。 まりさは眼を潤ませながら『ゆっくりおうちにかえろうね』と、頬を寄せて呼びかけている。 体が半分になってしまったけど、一緒にいればゆっくりできる。そんな風に思っているのだろうか。 残念だけど、半分で終わらせるつもりは毛頭ない。 れいむとまりさは、まだおうちに帰れないのだ。 「おねえさんおねがい!! れいむをなおしてあげてね!!!」 れいむを真っ二つにした張本人にそれを言うなんて……きっと、頭の中が春真っ盛りなんだなぁ。 私は2分の1れいむを手に取った。その瞬間、安堵の表情を浮かべるまりさ。 れいむもそうだったが、ゆっくりというのは物事を都合よく解釈してしまうから困る。 私はその場にしゃがみ込み、床に固定した2分の1れいむの頭頂部に刃をあてた。 ガラリと表情を変え、言葉にならぬ叫びを上げながら私に飛び掛るまりさ。 命を懸けてでもれいむを助けようという、涙ぐましい努力。 「ばりざああぁぁああぁ!!! だずげで―――― でも、遅かった。 ほんのちょっと力を加えただけで…… ストン 「ピぎぃッ!?!?!?!」 2分の1れいむは、2つの4分の1れいむに分かれた。 恐怖と激痛に歪んだ、左右対称の顔。 悲鳴を上げることも出来ず、薄茶色の涙を流しながら、その目で私を見上げている。 「どうじでれいむをおおおぉぉぉぉぉぉーーーー!!!」 数秒遅れて、正面から体当たりを仕掛けてくるまりさ。 重いぬいぐるみを投げつけられたような感じだ。私は僅かにバランスを崩し、尻餅をついた。 「どうだ!!! まりさはつよいんだよ!? ゆっくりこうさんして、れいむをなおしてあげてね!!! ぷくぅっ!!!」 今の私の動きを見て勝てると思ったのか、私に向かって再び威嚇を始めた。 その顔は、怒りに満ちている。獣のように大きく口を広げ、猛々しい雄叫びをあげる。 「ゆおぉーーーーーっ!!! まりさはつよいんだよ!!! ゆおぉーーーーーー!!!」 そんな表情すら、私は可愛らしく感じる。 “戦う”という概念から縁遠いから、実力差をはかることもできない。 ちょっと運よく有利になったくらいで、勝ちを確信してしまう。 そんなバカなまりさが、愚かなまりさが、惨めなまりさが、たまらなく愛おしい。 愛おしいから、ガマンするのが辛い。 「ゆっくりあやまってね!!! じゃないと、またいたいことするよ!!!」 まりさは、鼻息を荒げながら胸を張り、生まれつきのふてぶてしい目で私を睨みつけている。 本当に勝ちを確信しているんだ。バカだ。マヌケだ。思わずニヤついてしまう。これが笑わずにいられようか。 “いたいこと”って? さっきの体当たりが“いたいこと”なのか? そして『まりさはつよいんだよ!!』って……もうワケが分からない。 「ぷっ…もう駄目…ふふふ…あはっ…あはははははははははははははは!!!!」 「ゆ゛っ!? わらってないであやまってね!!! そしてれいむをなおしてね!!! さもないと――― その程度の威嚇と暴力で、私が悔い改めると思っているのだろうか。 まさか、私の口から『ごめんなさい』という言葉が出てくるとでも思っているのだろうか。 「まりさ」 「ゆっ?」 ……やっぱり駄目だ、ガマンできない。 「痛い事っていうのは……こうやるんだよ」 右の拳を、思い切りまりさの顔面に叩き込んだ。 見晴らしのいい直線で、軽自動車と大型トラックが正面衝突する場面を思い浮かべてほしい。 どちらもかなりの速度超過をしていた。どちらも100km/hで走っていたから、相対速度は200km/hだ。 結果、軽自動車はペシャンコにつぶれ、乗員は全員即死。大型トラックの運転手は無傷。 今、まさにそれが、小さいスケールで起こったのだ。 軽自動車がまりさ。私の拳は大型トラック。違うのは、どちらも生きているということだけ。 「ぎゅピぃっ!?!?!」 悶絶し、声も出せずに震えるまりさ。 今の感触ならば、間違いなく前歯の3,4本と片目は失われただろう。 実際、腕を上げると、角砂糖で出来た前歯がパラパラと落ち、潰れた眼球が糸を引きながら蕩け落ちた。 「あは……あははははははは…!!!」 あぁ、ガマンできなかった。 でも、気持ちよかった。ずっとガマンしていたから、いつもより気持ちよかった。 性的快感によく似ているけど、何か違う。口では説明しづらいが、とにかく快感だ。 「いっ……ぎぃ……ど…じで………」 きっと『どうして?』と言いたいのだろう。今起こった事が理解できないのだろう。 謝罪の言葉、あるいは後悔の言葉を述べるはずのお姉さんが、突然自分を殴ったのだから。 まりさが今理解したのは、自分の強さが偽りであったという事実だけ。 顔面が崩壊したまりさを見て、私は余韻に浸るのもほどほどにし、仕事を再開した。 放られていた包丁を握り、放置されていたれいむをまりさの目の前に並べ、顔を覗きこんで静かに問いかける。 どうやら勝利の確信も、抵抗心も、完全に失われたようだ。 「痛かった?」 私は問いかける。 まりさは無言で頷く。 「痛いのは嫌?」 私は問いかける。 まりさは無言で頷く。 「痛くしないで欲しい?」 私は問いかける。 まりさは無言で頷く。 「じゃあ、お姉さんの言うこと聞いてくれる?」 私は問いかける。 まりさは無言で頷く。 「わかった、ありがとうね」 私は、まりさの頭を撫でてあげた。 まりさは『ごめんなさい』と一言呟くと、それっきり何も言わなくなった。 恐らく泣いているのだろうが、顔がぐしゃぐしゃなので判別不可能だ。 そんなまりさも、可愛らしい。 顔がぐしゃぐしゃでも、私はまりさがどんな表情をしているかがわかる。 だって、まりさが“そんな表情”をしているのは、私のせいなのだから。 「じゃあ聞くね。あなたがおうちに連れて帰りたい“れいむ”はどっち?」 ―― 4 ―― 十数分後、実験は終了した。 2等分されたれいむのうち、“正しいれいむ”をまりさが選ぶ。 選ばれたれいむをさらに2等分し、またまりさに選ばせる。 それを、5回繰り返した結果、れいむは32分の1まで小さくなっていた。 「れいむぅ……れいぶうぅうぅううぅぅ…!!」 今朝の草原にて、まりさを解放する。 目の前に小さくなったれいむを放り投げると、まりさは縋るようにれいむに泣きついた。 そのれいむに口はなく、目だけがギョロリと動いてまりさを見上げる。 動く事もできず、喋る事もできず。 餡子の混じった涙を流しながら、何かを伝えようと見つめている。 「ゆううぅうぅぅ……いっじょにおうぢにがえろうねぇ…」 真っ二つに分断されたリボンを口に加えて、れいむを引っ張るまりさ。 ボロボロになった身体に鞭打って、痛みに耐えながら這いずる。 私は何もせず、それをずっと眺めていた。 れいむの切断面からは、ぼろぼろと餡子が零れている。 あの調子では、まりさの巣についた頃にはれいむは皮だけになっているだろう。 その時、れいむはやっと解放される。ゆっくりとした死によって。 「ゆっぐりぃ……ゆっくりぃ……」 まりさは自身に呼びかけるように呟きながら、今朝越えてきた丘を登っていく。 時折ちらちらをこっちを振り返りつつ、ゆっくりと登っていく。 その目は、『追いかけてこないでね』と必死に叫んでいた。 そして、まりさは丘を越え、声は聞こえてこなくなった。 私は、れいむから落ちた餡子を辿って、まりさをゆっくり追い始めた。 れいむが死ぬ瞬間のまりさの顔を、この目で見たい。 眠りについて、今日の出来事が悪夢となってまりさを苛むのを、この目で見たい。 新たに出来た友達をまりさの目の前で殺して、その瞬間のまりさの顔を、この目で見たい。 悪夢に耐え切れず、発狂して同族を殺しまわる様を、この目で見たい。 まりさが泣いて、泣いて、悲しんで、怒って、泣いて、絶望して、泣いて――― そして死ぬ。そのひとつひとつをこの目で見たい。 もう、実験などどうでも良かった。 私はあのまりさに惚れ込んでしまったのだ。 両思いになる日はきっと来ないけど。 片思いのまま終わると、分かっているけれど。 でも、私はまりさを逃がさない。 ―― あとがき ―― やってる事は普通の虐待・虐殺。 れいむを刻んで、まりさを一発殴っただけ。 それでも、たまにこういうのをみっちり書きたくなるのです。 ゆっくりを真っ二つにしたら、どっちが本体なんでしょうね? どちらにも意思がありそうだから、ややこしい。 作:避妊ありすの人 このSSに感想をつける